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2話 オフィーリア その2

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「あなた様は……?」

「シムルグ・カザンと申します。覚えていただいておりませんか?」

「シムルグ伯爵……?」

 悲しみに暮れている時に手を差し伸べてくれた優しい手。その手にはハンカチが差し伸べられていた。


「美しい女性に涙は似合いませんよ。もっとも、あなたの場合はそれも魅力の一つではありますが……」

「……申し訳ありませんでした……」


 オフィーリアは彼の手を持ちながら、なんとか立ち上がることに成功した。シムルグの見ている中、彼女はスカートの土ほこりを払いのける。オフィーリアは少し顔を赤らめていた。

「お見苦しいところを、お見せしてしまいましたシムルグ伯爵」

「いえいえ、お気になさらないでください」


 シムルグ伯爵は紳士的な印象を持った黒髪の二枚目だ。オフィーリアも以前から知っている人物ではある。こうしてお近づきになれるとは思っていなかったが……。

「ゴードン伯爵と……なにかあったのですか?」

「いえ……その……」

「いえ。無理にお話しいただかなくても結構ですよ。私も女性の過去をほじくり返す趣味はありません」


 オフィーリアはこの時、誰かに話しておきたい衝動に駆られていた。相手が紳士的なシムルグ伯爵だったと言うこともあるが、このまま一人で抱えては張り裂けそうになっていたのだ。


「……よろしければ、聞いていただいてもいいですか?」

「ええ、喜んで。お話しいただけるのであれば」

 シムルグ伯爵は快く、オフィーリアの言葉に頷いた。彼女ら二人は近くのベンチに腰を掛ける。オフィーリアはゴードン伯爵との婚約破棄について、話し始めた。


-----------------------


「なるほど、そんなことが……」

「はい……。私には、遊びが足りないと……」

 オフィーリアは突きつけられた現実に、少し肩を下げていた。遊び心のないつまらない人間……そのように映っていたのだろうかと、彼女は思い悩んでいるのだ。しかし、彼女の肩をしっかりと掴む存在が居る。隣に座っているシムルグ伯爵だ。

「遊び心が足りていない? それがどうしたのですか? あなたには、それを補って余りある魅力があるでしょう? 少なくとも、私にはそのように映っています」


 救われる言葉というのは、このようなことを言うのだろうか……? オフィーリアの心はこの時、確かにときめきを感じていたのだ。
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