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41話 交渉 その2
しおりを挟む「だからダメだってば」
「う……」
アイリーンの決死の交渉は始まっている。金鉱山の権利関係で進めてみたが、シエラ女王の首を縦に振らすことは出来なかった。
「アイリーンちゃんとは仲良くできそうと思ったのにな~~。女王陛下とか関係なくね」
「陛下……」
この言葉は「蒼き月のカンパニュラ」にも出て来るものだ。シエラはカンパニュラ……つまりはタイネーブと友人関係を築くことになる。
「ねねっ、それよりさ~~アルガスちゃんとはどのあたりまで行ったの? キスはもうした?」
シエラは屈託のない笑顔を見せながら、話題を変える。彼女の中でゲシュタルト王国に攻め込む話は消えているのだ。
「キスまでです。まだそこまで」
アイリーンは話題を変えられてしまったことに戸惑いながらも、とりあえずは合わせることにした。完全にシエラのペースだ。
「そっかそっか。あ、でもうっかり妊娠しちゃっても大丈夫だからね? 国で保護して面倒見てあげるから」
「あ、ありがとうございます……」
シエラからの提案は非常にありがたいものだ。バッドエンドを回避する為に仕方なくとはいえ、貴族の称号を失くした他国の令嬢にここまでしてくれるとは。
アイリーンの金鉱山での功績があったことも含まれてはいるが、それでも彼女は女王の言葉に感謝していた。
「陛下」
「なに~~?」
「私の側近……ミランダも永住権を得られると考えてもよろしいのですか?」
「もちろん。ミランダちゃんとはお話してないけど、別に大丈夫だよ」
ありがたい言葉が返ってきた。アイリーンは最早、自分だけの幸せを考えてはいけない立場になりつつある。特に今まで尽くしてくれたミランダのことは、優先的に考えなければならないだろう。これ以上、シエラ女王との仲を悪くするのは得策ではない。
「ねえねえ、アイリーンちゃん」
「はい? ……なんでしょうか、陛下」
「タイネーブちゃんを助けたい気持ちはまだ持ってる?」
「えっ?」
突然、シエラの方から最初の話題を振って来た。アイリーンとしては、予想外なことだ。
「は、はい……それはもちろん……」
「そっか。なら……こういうのはどう? アイリーンちゃん次第では、条件付きで彼女の依頼を手伝ってあげる」
どういう風の吹き回しか……それはわからないが、これはチャンスだ。ここを逃せば次はない。
「私でできることであれば、何なりとお申し付けください」
「うんうん、良い子だね、アイリーンちゃんは。じゃあさ……アイリーンちゃんが、なぜそんなに色々なことを詳しいのか話してもらえる?」
シエラの目つきは女王のそれへと変わっていた。虚偽の発言は許されない……そんな気配がアイリーンの周囲を覆った瞬間であった。
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