上 下
41 / 52

41話 交渉 その2

しおりを挟む

「だからダメだってば」

「う……」


 アイリーンの決死の交渉は始まっている。金鉱山の権利関係で進めてみたが、シエラ女王の首を縦に振らすことは出来なかった。

「アイリーンちゃんとは仲良くできそうと思ったのにな~~。女王陛下とか関係なくね」

「陛下……」

 この言葉は「蒼き月のカンパニュラ」にも出て来るものだ。シエラはカンパニュラ……つまりはタイネーブと友人関係を築くことになる。

「ねねっ、それよりさ~~アルガスちゃんとはどのあたりまで行ったの? キスはもうした?」

 シエラは屈託のない笑顔を見せながら、話題を変える。彼女の中でゲシュタルト王国に攻め込む話は消えているのだ。

「キスまでです。まだそこまで」

 アイリーンは話題を変えられてしまったことに戸惑いながらも、とりあえずは合わせることにした。完全にシエラのペースだ。


「そっかそっか。あ、でもうっかり妊娠しちゃっても大丈夫だからね? 国で保護して面倒見てあげるから」

「あ、ありがとうございます……」

 シエラからの提案は非常にありがたいものだ。バッドエンドを回避する為に仕方なくとはいえ、貴族の称号を失くした他国の令嬢にここまでしてくれるとは。

 アイリーンの金鉱山での功績があったことも含まれてはいるが、それでも彼女は女王の言葉に感謝していた。

「陛下」

「なに~~?」

「私の側近……ミランダも永住権を得られると考えてもよろしいのですか?」

「もちろん。ミランダちゃんとはお話してないけど、別に大丈夫だよ」

 ありがたい言葉が返ってきた。アイリーンは最早、自分だけの幸せを考えてはいけない立場になりつつある。特に今まで尽くしてくれたミランダのことは、優先的に考えなければならないだろう。これ以上、シエラ女王との仲を悪くするのは得策ではない。


「ねえねえ、アイリーンちゃん」

「はい? ……なんでしょうか、陛下」

「タイネーブちゃんを助けたい気持ちはまだ持ってる?」

「えっ?」

 突然、シエラの方から最初の話題を振って来た。アイリーンとしては、予想外なことだ。

「は、はい……それはもちろん……」

「そっか。なら……こういうのはどう? アイリーンちゃん次第では、条件付きで彼女の依頼を手伝ってあげる」


 どういう風の吹き回しか……それはわからないが、これはチャンスだ。ここを逃せば次はない。

「私でできることであれば、何なりとお申し付けください」

「うんうん、良い子だね、アイリーンちゃんは。じゃあさ……アイリーンちゃんが、なぜそんなに色々なことを詳しいのか話してもらえる?」


 シエラの目つきは女王のそれへと変わっていた。虚偽の発言は許されない……そんな気配がアイリーンの周囲を覆った瞬間であった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

貴方といると、お茶が不味い

わらびもち
恋愛
貴方の婚約者は私。 なのに貴方は私との逢瀬に別の女性を同伴する。 王太子殿下の婚約者である令嬢を―――。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

王妃となったアンゼリカ

わらびもち
恋愛
婚約者を責め立て鬱状態へと追い込んだ王太子。 そんな彼の新たな婚約者へと選ばれたグリフォン公爵家の息女アンゼリカ。 彼女は国王と王太子を相手にこう告げる。 「ひとつ条件を呑んで頂けるのでしたら、婚約をお受けしましょう」 ※以前の作品『フランチェスカ王女の婿取り』『貴方といると、お茶が不味い』が先の恋愛小説大賞で奨励賞に選ばれました。 これもご投票頂いた皆様のおかげです! 本当にありがとうございました!

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

【完結】愛とは呼ばせない

野村にれ
恋愛
リール王太子殿下とサリー・ペルガメント侯爵令嬢は六歳の時からの婚約者である。 二人はお互いを励まし、未来に向かっていた。 しかし、王太子殿下は最近ある子爵令嬢に御執心で、サリーを蔑ろにしていた。 サリーは幾度となく、王太子殿下に問うも、答えは得られなかった。 二人は身分差はあるものの、子爵令嬢は男装をしても似合いそうな顔立ちで、長身で美しく、 まるで対の様だと言われるようになっていた。二人を見つめるファンもいるほどである。 サリーは婚約解消なのだろうと受け止め、承知するつもりであった。 しかし、そうはならなかった。

処理中です...