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22話 デート その2

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「ふぇふぇふぇ、美人に美男子じゃないかい。シエルテの占い屋へようこそ」

「ど、どうも……」


 いきなり、しわがれた声で話しかけられた為、アイリーンは驚いてしまった。店の店主を務めるのは、しわがれた声が特徴のシエルテと名乗る老婆……かと思いきや、黒髪のロングストレートが印象的な美女であった。その声と風貌のギャップにはアルガスも驚いている。


「……その声は、地声ですか?」

「そんなわけないじゃないのよ、失礼ね。演技よ、演技」

「ああ、演技なんですね」

 アラサーくらいの年齢だろうか。家庭と持っており、子供も居そうな雰囲気を醸し出すシエルテだが、いきなり素の声に戻り、ギャップは消えてしまった。アルガスもこんなに早く演技を解いていいのかと苦笑いをしている。


「とにかく、恋愛占いでいいんでしょう? かなりイケてるカップルだし、それしかないわよね?」


 いきなりぶっきら棒になるシエルテ。アイリーンはなんとなく微笑ましくなり、笑顔で頷いた。


「はい、シエルテさんは本名ですか?」

「そうよ。じゃあ、始めるわね」


 そう言いながら、シエルテはなにやら呪文のようなものを唱えながら、目線を明後日の方向に向ける。この世界には魔法と呼ばれるものも存在している為に、アイリーン達の周囲に風が巻き起こること自体は、それほど驚くべきことではない。

 アイリーンはこの時、ヨウツーベという動画サイトでこういう現象を披露したら、どのくらい稼げるのかを考えたりしていた。

「……1億再生とか行くのかな? 1再生0.1円でも1千万円……ゴクリ」

「アイリーン殿、どうしました? 嬉しそうですが」

「あ、いえ。なんでもないです、はい」


 我に返ったアイリーンはアルガスにそう言いながら、占いに意識を集中させた。



「ふんふん、結果が出たわ」

「ど、どうですか?」


 かなり怪しい動きをしていたシエルテではあるが、なぜかとてつもないほどの説得力に満ちた印象を二人に与えていた。その事実を踏まえ、アイリーンは真剣な眼差しで彼女の言葉を待つ。


「……二人の相性は……まずまずね」

「まずまずですか……」


 言葉としては決して悪くはないが、アイリーンとしては残念な結果であると言えた。最高に良いなどという期待はしていなかったが、もう少し良い結果を期待していたのだ。


「……本来なら、結ばれるはずのない二人……それで、相性がまずまずなら良い方じゃない?」

「……どういうことでしょうか?」


 アルガスからの当然の質問。占っていたシエルテも首を横に振る。


「さあね。私は占いの結果を言っているだけだから」

「はははは……」

 この結果の意味を分かっているのはアイリーンだけだ。とてつもなく正確な占いと言える。相性に関してもおそらくは正しいのだろう。本来は結ばれるはずのない者達。シエルテの占いは、世界の外側の事象についても看破していたのだから。


「続きとかあるんですか?」


 アイリーンはおそるおそる聞いてみた。シエルテは静かに語り出す。


「いえ、特に気になる続きはないわね。……ただ、本来であれば、男の彼……ええと」

「アルガスと申します」

「アルガスね。彼の運命の人は別に居たという結果が出てるけど」


 アルガスの表情は特に変わっていないが、アイリーンの表情はとても平静を保ってはいなかった。それもそのはず、シエルテの占いはタイネーブの存在まで看破していたのだから。

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