上 下
22 / 52

22話 デート その2

しおりを挟む

「ふぇふぇふぇ、美人に美男子じゃないかい。シエルテの占い屋へようこそ」

「ど、どうも……」


 いきなり、しわがれた声で話しかけられた為、アイリーンは驚いてしまった。店の店主を務めるのは、しわがれた声が特徴のシエルテと名乗る老婆……かと思いきや、黒髪のロングストレートが印象的な美女であった。その声と風貌のギャップにはアルガスも驚いている。


「……その声は、地声ですか?」

「そんなわけないじゃないのよ、失礼ね。演技よ、演技」

「ああ、演技なんですね」

 アラサーくらいの年齢だろうか。家庭と持っており、子供も居そうな雰囲気を醸し出すシエルテだが、いきなり素の声に戻り、ギャップは消えてしまった。アルガスもこんなに早く演技を解いていいのかと苦笑いをしている。


「とにかく、恋愛占いでいいんでしょう? かなりイケてるカップルだし、それしかないわよね?」


 いきなりぶっきら棒になるシエルテ。アイリーンはなんとなく微笑ましくなり、笑顔で頷いた。


「はい、シエルテさんは本名ですか?」

「そうよ。じゃあ、始めるわね」


 そう言いながら、シエルテはなにやら呪文のようなものを唱えながら、目線を明後日の方向に向ける。この世界には魔法と呼ばれるものも存在している為に、アイリーン達の周囲に風が巻き起こること自体は、それほど驚くべきことではない。

 アイリーンはこの時、ヨウツーベという動画サイトでこういう現象を披露したら、どのくらい稼げるのかを考えたりしていた。

「……1億再生とか行くのかな? 1再生0.1円でも1千万円……ゴクリ」

「アイリーン殿、どうしました? 嬉しそうですが」

「あ、いえ。なんでもないです、はい」


 我に返ったアイリーンはアルガスにそう言いながら、占いに意識を集中させた。



「ふんふん、結果が出たわ」

「ど、どうですか?」


 かなり怪しい動きをしていたシエルテではあるが、なぜかとてつもないほどの説得力に満ちた印象を二人に与えていた。その事実を踏まえ、アイリーンは真剣な眼差しで彼女の言葉を待つ。


「……二人の相性は……まずまずね」

「まずまずですか……」


 言葉としては決して悪くはないが、アイリーンとしては残念な結果であると言えた。最高に良いなどという期待はしていなかったが、もう少し良い結果を期待していたのだ。


「……本来なら、結ばれるはずのない二人……それで、相性がまずまずなら良い方じゃない?」

「……どういうことでしょうか?」


 アルガスからの当然の質問。占っていたシエルテも首を横に振る。


「さあね。私は占いの結果を言っているだけだから」

「はははは……」

 この結果の意味を分かっているのはアイリーンだけだ。とてつもなく正確な占いと言える。相性に関してもおそらくは正しいのだろう。本来は結ばれるはずのない者達。シエルテの占いは、世界の外側の事象についても看破していたのだから。


「続きとかあるんですか?」


 アイリーンはおそるおそる聞いてみた。シエルテは静かに語り出す。


「いえ、特に気になる続きはないわね。……ただ、本来であれば、男の彼……ええと」

「アルガスと申します」

「アルガスね。彼の運命の人は別に居たという結果が出てるけど」


 アルガスの表情は特に変わっていないが、アイリーンの表情はとても平静を保ってはいなかった。それもそのはず、シエルテの占いはタイネーブの存在まで看破していたのだから。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。 彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。 それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。 そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。 公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。 そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。 「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」 こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。 彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。 同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。

別れた婚約者が「俺のこと、まだ好きなんだろう?」と復縁せまってきて気持ち悪いんですが

リオール
恋愛
婚約破棄して別れたはずなのに、なぜか元婚約者に復縁迫られてるんですけど!? ※ご都合主義展開 ※全7話  

【完結】二度目の人生に貴方は要らない

miniko
恋愛
成金子爵家の令嬢だった私は、問題のある侯爵家の嫡男と、無理矢理婚約させられた。 その後、結婚するも、夫は本邸に愛人を連れ込み、私は別邸でひっそりと暮らす事に。 結婚から約4年後。 数える程しか会ったことの無い夫に、婚姻無効の手続きをしたと手紙で伝えた。 すると、別邸に押しかけて来た夫と口論になり、階段から突き落とされてしまう。 ああ、死んだ・・・と思ったのも束の間。 目を覚ますと、子爵家の自室のベッドの上。 鏡を覗けば、少し幼い自分の姿。 なんと、夫と婚約をさせられる一ヵ月前まで時間が巻き戻ったのだ。 私は今度こそ、自分を殺したダメ男との結婚を回避しようと決意する。 ※架空の国のお話なので、実在する国の文化とは異なります。 ※感想欄は、ネタバレあり/なし の区分けをしておりません。ご了承下さい。

あなたの愛はいりません

oro
恋愛
「私がそなたを愛することは無いだろう。」 初夜当日。 陛下にそう告げられた王妃、セリーヌには他に想い人がいた。

私があなたの幼馴染を虐めたって、それ信じてるのあなただけですからね?

法華
恋愛
マシュー・ヴァンハイムの夫である皇太子ニードは、彼女との結婚が気に食わず、いつも彼女に辛くあたってきた。それでも献身的に支えてきたマシューだったが、ある日ニードは幼馴染のエリスをマシューが虐めていたとして彼女を糾弾し、離縁を宣言する。しかし、マシューはその完全無欠さで周りから「鉄の皇太子妃」と呼ばれるほどの信頼を得ていて......。この顛末は、後に「伝説の十五分間」として語り継がれることになる。 ※完結しました。

優秀な姉の添え物でしかない私を必要としてくれたのは、優しい勇者様でした ~病弱だった少女は異世界で恩返しの旅に出る~

日之影ソラ
ファンタジー
前世では病弱で、生涯のほとんどを病室で過ごした少女がいた。彼女は死を迎える直前、神様に願った。 もしも来世があるのなら、今度は私が誰かを支えられるような人間になりたい。見知らぬ誰かの優しさが、病に苦しむ自分を支えてくれたように。 そして彼女は貴族の令嬢ミモザとして生まれ変わった。非凡な姉と比べられ、常に見下されながらも、自分にやれることを精一杯取り組み、他人を支えることに人生をかけた。 誰かのために生きたい。その想いに嘘はない。けれど……本当にこれでいいのか? そんな疑問に答えをくれたのは、平和な時代に生まれた勇者様だった。

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

傍若無人な姉の代わりに働かされていた妹、辺境領地に左遷されたと思ったら待っていたのは王子様でした!? ~無自覚天才錬金術師の辺境街づくり~

日之影ソラ
恋愛
【新作連載スタート!!】 https://ncode.syosetu.com/n1741iq/ https://www.alphapolis.co.jp/novel/516811515/430858199 【小説家になろうで先行公開中】 https://ncode.syosetu.com/n0091ip/ 働かずパーティーに参加したり、男と遊んでばかりいる姉の代わりに宮廷で錬金術師として働き続けていた妹のルミナ。両親も、姉も、婚約者すら頼れない。一人で孤独に耐えながら、日夜働いていた彼女に対して、婚約者から突然の婚約破棄と、辺境への転属を告げられる。 地位も婚約者も失ってさぞ悲しむと期待した彼らが見たのは、あっさりと受け入れて荷造りを始めるルミナの姿で……?

処理中です...