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19話 事前準備 その3

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「名乗りが遅れたけど、タイネーブ・カンパニュラ言うねん。よろしく」

「関西弁……」

「ん? どないかした?」

「い、いえ。別に……」


 アイリーンは自分が操っていた時の彼女とは、イメージが違うことに戸惑いながらも、彼女に挨拶をした。


「あ、アイリーンよ。よろしくね」


 彼女は自分の名前を出すことを躊躇っていたが、タイネーブは気にする素振りはなかった。

「アイリーンね、ええ名前やん。ファミリーネームは?」

「ふぁ、ファミリーネーム……」

 自分が操っていた頃とは、性格が違う。いや、そんなことは些細な問題だったのだ。彼女に自らのファミリーネームを言うのは躊躇いがあった。

「……?」

 ただ、ファミリーネームを言うだけにも関わらず、アイリーンの態度にはタイネーブも不思議がっていた。しかし、彼女はそれ以上追及する様子はない。

「ううん、ええよ。いきなり会った人にフルネーム言うの、変かもしれんしな」

「ご、ごめんなさい……別に、あなたのことを不審に思ったとかそういうことではなくて」

「ええよ、気にせんといて。それより、こうして会えたのも縁かもしれんし、服買いに来たんやったら、一緒にどない?」

「え? ええ、そうね。あなたがよければ……」

 断るのも妙な雰囲気ではあったので、アイリーンは想像以上に気さくなタイネーブの誘いを受けることにした。

 状況がわかっていないミランダは、無言で彼女の後について行った。


------------------------


 タイネーブ・カンパニュラは冒険者である。本来、名前は自由に変えられるので、アイリーン自体にも聞き慣れないファーストネームとなっていた。性格面は最早、別人ではあるが、実際のゲームとは違う世界なので仕方ないのかもしれない。


「アイリーン様、この服などお似合いかと存じます」

「あ、うん。ありがとう」


 ミランダから幾つかの服を選定されるも、彼女の意識はタイネーブへと向かっていた。金髪の髪を有しており、その長さはベリーショートと言える短さだ。ブレストプレートを胸のところに付けてはいたが、下がホットパンツであった為に、足の部分の露出度は高かった。

 そんなタイネーブは、少し離れたところで服を選んでいる。一緒に選ぶとは言ったが、まだ会ったばかりなので適度に距離を置いている姿勢は好感すら持てた。

「アイリーン様、あの方とはお知り合いなのですか?」

 ミランダは服を選んでいる合間に質問をする。先ほどのやり取りで、知り合いでないことは明白なのだが、念の為、聞いているのだ。


「えっと、知り合いというか……一歩的に知っているというか……」

「一方的に……?」

 アイリーンとしてもなんと答えていいのか迷ってしまう。なんとかミランダの疑問をごまかせないかを考えながら、彼女はタイネーブを目で追っていた。

 そう、現在はアイリーンだけが一方的に知っているのだ。この、反貴族をスローガンに掲げている娘のことを。



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