11 / 52
11話 開発 その3
しおりを挟む「あの危険なE区画の奥地にね……そんなに金が隠されてたか」
宿舎でE区画の報告を聞いた班長のデゴールは、驚きを隠せない表情になっていた。
「ええ、あの辺りを崩れないように重点的に整備して、魔物を排除したら、50年は金が出続けるんじゃない? ここの生活だって潤うと思うわよ」
「嬢ちゃん……マジで何者だよ……」
「私じゃないの。調べてくれたのはミランダなんだから。彼女の手柄かも」
と言いいながら、アイリーンはミランダに視線を合わせる。
「いえ……とんでもないです。私はアイリーン様の仰せの通りに動いただけ」
「いいえ、あなたの事前調査がなかったら、班長も信じてくれなかったでしょ。まあまだ、完全に信用されてるわけではないだろうけど」
そう言いながら、今度はデゴールの方向に目をやるアイリーン。デゴールは確かに信じられないといった思いを持っていたが、一人の女性が危険な区域に調査に行ったという事実を一蹴する気はなかった。
「はははっ。嬢ちゃんの先見の目の段階で既におかしいからな……よし、今後はE区画の開発に全精力を投入するぜ」
「やった! さすが班長! ゲシュタルト王国なんかに盗られる前に、早く進めてよね!」
「はは……さすが、追放された侯爵令嬢さんは言うことが違うねぇ……」
デゴールは苦笑いをしつつも、大胆な発言で国家を敵に回しているアイリーンに感心していた。追放された令嬢……本来であれば、生活能力など皆無であるはずだ。右往左往しつつ、醜態を晒してしまうのが想像できる図であったが、アイリーンはそんな様子を一切見せていない。
それどころか、アランドロ女王国の伯爵に取り入り、この金鉱山の管理権を譲渡して、金そのものも女王国に渡してしまおうと言うのだから恐ろしいものだ。
「……嬢ちゃん」
「えっ、なに?」
「なんか、嬢ちゃんを見てたら、こんな辺境地で中央部の奴らの態度に愚痴をこぼしてたのが阿呆らしくなってきたぜ。人間は、前に進まないと成長なんかできねぇって再確認させられたよ」
「ええ……班長?」
なぜか感動している班長に、アイリーンは困った表情になっていた。感動した理由はなんとなく察しが付いているが、その点で感動されると彼女は困るのだ。
「文句言う暇があるなら手を、足を動かせ。俺自身が昔から部下に言ってた言葉だったが……いつの間にか、忘れてたんだな。まさか、倍ほども若い嬢ちゃんに教えられるとは……」
「う、うん……そうね……あはは」
不味い……自分の行動力は、ゲームという完璧な知識チートのおかげだ。もしも、完全に何の情報もなければ、とても焦りまくり、なにもできなかっただろう。
料理や家事のことで褒められるのは、自らが努力で得た能力なので嬉しいが……デゴールに感動されるのは嬉しくはあったが、彼女の表情はなんとも微妙な様相を呈していた。
「げ、ゲームの知識だって、私が努力して手に入れた物だし……う、うん! そうよねっ! きっとそう!」
「ゲーム? アイリーン様、ゲームをしたいのですか?」
「あ、ううん。こっちの話」
悩んでも仕方ないと、アイリーンは全部、努力で手に入れたのだと思うことにした。
「さて、話もまとまりましたね。班長殿、私も協力いたしますよ。何なりと申し付けてください」
「へへ、新たな伯爵様に仕事を任せるっていうのは恐れ多いが……まあ、地盤の強化や照明の設置など、やることは山積みだからな! あんたの勢力で資材の調達とかは出来るかい?」
「ええ、出来るだけ早急に集めさせますよ」
やる気を再燃させたような態度のデゴールに触発されたのか、アルガスもテンションが上がっているように感じられた。
金鉱山の開発……アイリーン達にとっての生活の基盤となる財源。それが大幅に向上することになるのだった。
10
お気に入りに追加
1,919
あなたにおすすめの小説
ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~
柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。
その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!
この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!?
※シリアス展開もわりとあります。
闇黒の悪役令嬢は溺愛される
葵川真衣
恋愛
公爵令嬢リアは十歳のときに、転生していることを知る。
今は二度目の人生だ。
十六歳の舞踏会、皇太子ジークハルトから、婚約破棄を突き付けられる。
記憶を得たリアは前世同様、世界を旅する決意をする。
前世の仲間と、冒険の日々を送ろう!
婚約破棄された後、すぐ帝都を出られるように、リアは旅の支度をし、舞踏会に向かった。
だが、その夜、前世と異なる出来事が起きて──!?
悪役令嬢、溺愛物語。
☆本編完結しました。ありがとうございました。番外編等、不定期更新です。
【完結】虐げられた伯爵令息は、悪役令嬢一家に溺愛される
やまぐちこはる
恋愛
伯爵家の二人目の後妻の息子ビュワードは、先妻の息子で嫡男のトリードに何かにつけ虐められている。
実の母ヌーラはビュワード出産とともに鬼籍に入り、ビュワードもトリードとも血の繋がりのない3人目の後妻アニタは、伯爵に似た容姿の人懐こい嫡男トリードを可愛がり、先妻に似たビュワードを冷遇している。
家庭教師からはビュワードがとても優秀、心根も良いと見做されていたが、学院に入学してからはトリードとアニタの策略により、ビュワードは傲慢でいつも屋敷で使用人たちを虐めており、またトリードのテキストやノートを奪うためにトリードはなかなか勉強に専念できずに困っていると噂を流され、とんでもない性悪と呼ばれるようになっていた。
試験の成績がよくてもカンニングや兄の勉強の成果を横取りしていると見做されて、教師たちにも認めてもらうことができず、いくら訴えても誰の耳にも届かない。屋敷の使用人たちからも目を背けられ、その服は裾がほつれ、姿は汚れていた。
最低のヤツと後ろ指を指され、俯いて歩くようになったビュワードは、ある日他の学院で問題を起こして転入してきたゴールディア・ミリタス侯爵令嬢とぶつかってしまう。
ゴールディアは前の学院を虐めで退学させられた、所謂悪役令嬢であった。
∈∈∈∈∈∈∈
設定上こどもの虐待シーンがあります。直接的な表現はなるべく避けていますが、苦手な方はご注意ください。
※設定は緩いです。
※暫くお返事ができないため、コメント欄を閉じています。
※全60話を一日一話、朝8時更新予定です。見直しで話数が前後するかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。
時間が戻った令嬢は新しい婚約者が出来ました。
屋月 トム伽
恋愛
ifとして、時間が戻る前の半年間を時々入れます。(リディアとオズワルド以外はなかった事になっているのでifとしてます。)
私は、リディア・ウォード侯爵令嬢19歳だ。
婚約者のレオンハルト・グラディオ様はこの国の第2王子だ。
レオン様の誕生日パーティーで、私はエスコートなしで行くと、婚約者のレオン様はアリシア男爵令嬢と仲睦まじい姿を見せつけられた。
一人壁の花になっていると、レオン様の兄のアレク様のご友人オズワルド様と知り合う。
話が弾み、つい地がでそうになるが…。
そして、パーティーの控室で私は襲われ、倒れてしまった。
朦朧とする意識の中、最後に見えたのはオズワルド様が私の名前を叫びながら控室に飛び込んでくる姿だった…。
そして、目が覚めると、オズワルド様と半年前に時間が戻っていた。
レオン様との婚約を避ける為に、オズワルド様と婚約することになり、二人の日常が始まる。
ifとして、時間が戻る前の半年間を時々入れます。
第14回恋愛小説大賞にて奨励賞受賞
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
フランチェスカ王女の婿取り
わらびもち
恋愛
王女フランチェスカは近い将来、臣籍降下し女公爵となることが決まっている。
その婿として選ばれたのがヨーク公爵家子息のセレスタン。だがこの男、よりにもよってフランチェスカの侍女と不貞を働き、結婚後もその関係を続けようとする屑だった。
あることがきっかけでセレスタンの悍ましい計画を知ったフランチェスカは、不出来な婚約者と自分を裏切った侍女に鉄槌を下すべく動き出す……。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる