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4話 金鉱山 その2
しおりを挟むアランドロ女王国とゲシュタルト王国……北方の境界域に位置するスミドロ山脈。その麓にアイリーンの金鉱山は存在していた。現在は複数の馬車を引き連れて、向かっている最中である。
アイリーンの提案はアルガス・モンバール伯爵にもすぐに受け入れられたのだ。
「本当に、よろしいのですか?」
「ええ、もちろんです。どのみち、私程度では持て余すことは間違いがないので。そこで働いている方々にとっても、伯爵に管理をされた方が幸せかと」
「わかりました。アイリーン殿のご期待に添えるようにいたします。ありがとう」
「はい」
アルガスは即答してみせた。周囲の者達は驚きを隠せないでいたが、アイリーンからすれば普通のことだ。彼がすぐに答えをだし、行動に移すことは昔から知っている。その行動力の早さが彼の魅力の一つであったのだ。その日の内に準備は進められ、数日と経過しない内に護衛とアルガス、アイリーンにミランダは出発することになった。
「ところで……」
「はい、なんでしょうか?」
「アイリーン殿はお幾つですか?」
「はい、今年で18になります」
唐突な質問だったが、アイリーンはすぐに答えた。千里の年齢と同じだからだ。
「なるほど、私とは4つ違いですね。お若いのに大胆なお方だ、金鉱山の管理をお譲りくださるとは」
アルガスはさわやかに笑ってみせた。アイリーンはついつい見とれてしまう。
「どうかしましたか?」
「い、いえなにも。まあ、これでも元々は侯爵令嬢でしたので……ほほほほ」
ほんのささいなやり取りでしかないが、彼女はどきどきしていた。なんだか変な気分だ。そんなアイリーンの様子に、ミランダが何かを悟った。
「私は外から向かいましょうか?」
「こほん、ミランダ。余計な気を遣わなくていいから。外に出たら馬車から出ちゃうでしょ」
「私の速度であれば、走りながらでも問題ありません」
ミランダは自信満々だ。確かに彼女の護衛としての能力から言えば、高速で走っている馬車群に置いて行かれないことは容易だろう。その間、アルガスとアイリーンを二人きりに出来るというわけだ。
「なかなか面白い会話ですね。ミランダ殿はお幾つなんですか?」
「私は19になります。アイリーン様とは昔から、姉妹のように育ってきました」
「どうりで……仲がよろしいわけだ」
伯爵はまだ22歳と若いが、大きな器を持っているような態度を見せている。話し方ひとつとっても雰囲気が違うのだ。アイリーンの取り乱した態度は、彼のそんなしぐさにあったと言える。
「アイリーン様」
「な、なに? ミランダ」
次に出て来るミランダの言葉が怖いアイリーンは、おそるおそる返事をした。
「金鉱山をお渡しするのです。アルガス様はアイリーン様に逆らえませんよ。チャンスです」
「あんた……聞こえるように言ってどうするのよ……」
「はっはっはっ。確かにこれ程の褒美……私はあなたに逆らえませんな。なんなりと、お命じください」
アルガスは本気なのかどうなのか、大きく笑ってみせた後、深々と頭を下げた。勿論、冗談の類ではあるが、彼女が何かを命令したなら可能な範囲で彼は応じただろうと思える態度だ。
アイリーンは苦笑いをしながら、ミランダを見つめる。彼女も笑みをこぼしていた。
金鉱山に向かうまでの小さなやり取り……彼らの中が進展する一つの雫でしかないが、小さな一歩は生まれたのだった。
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