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29話 動き出すグレン その2
しおりを挟むヨハン国王による民衆への隠し子の存在発表は滞りなく終わった。流石にその場で国王陛下を罵倒する勇気のある者はいないが……。その情報は瞬く間に口中を駆け巡って行った。同時に国王を息子に譲り渡した後は政治に関わることはしないという事実と一緒に……。
その日、酒場では国王の隠し子発表の件で、市民たちが盛り上がっていた。側室との子は他国では珍しくはないが、この国ではそうではない。また紳士として有名であったヨハン国王のイメージから、より騒がれることになったのだ。
「あの、ヨハン国王にシャルロッテっていう隠し子が居たとはね……」
「なんか騙されてた気分だな……たくよ」
「清廉潔白な人ほど、裏では何しているかわからないってね」
どこまで本気かはわからないが、市民たちは無責任に自らの意見を隠すことなく言い放っていた。人間、裏では好き放題言うものだ。それは貴族や王族でも変わりはしない。
この変動は平常時であれば、そこまで大きな問題にはならなかったのかもしれない。しかし、グレンの読み通り、タイミングが非常に悪かったのだ。選挙と被っているのが最大の問題であった。
「こうなってくるとよ……アレン王子も危ないんじゃねぇか?」
「そうよね、まだグレン様の方がマシかも。ほら、あの人の方が色々と場慣れしてそうじゃない?」
「おいおい、どういう意味の場慣れだよ」
「あははははははははっ!!」
お酒の場である為、心無い言葉が連続でこだましている。彼らも本気で考えているわけではないかもしれないが、酔った勢いとイメージというものは非常に大きく作用していた。アレンは昔から、王位を就くために努力をしてきた。その為に、青春時代を謳歌したという経験はない。
グレンとは違い、歓楽方面では世間知らずな面は確かにあったのだ。少し考えればグレンに王位を譲ることがどのくらい危険かはわかるものだが、彼らは無責任さから、それを理解していなかった……。
選挙戦は荒れる可能性を秘めていた。
そして、時を同じくして裏組織は動き出す……市民の一部を脅し、家族を盾にすることで、グレンへの投票を秘密裏に約束させていったのだ。グレンの計画は予想以上に小賢しく強いものであった……。
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