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3話 ラウコーン王国 その1
しおりを挟む「リオナ様、本日はこちらでお休みくださいませ。なにかございましたら、なんなりとお申し付けください」
「ええ、ありがとう。助かります」
シリンガ宮殿に仕えるメイドの一人が、本日リオナが止まる部屋を案内していた。お風呂やお手洗いなどが部屋に併設されている、豪華な客間だ。基本的には各地の有力貴族、若しくは他国の使者が訪れた際に使われる部屋となっている。
メイドはリオナに一礼して去って行った。彼女はそのまま、ベッドに座り込んだ。つい1時間ほど前に、アレン王子によって求婚されたばかりである。思い出しただけで、胸の中が締め付けられる想いだ。
アレン・ハンフリー第一王子に婚約を迫られたのは、今でも信じられない……。数か月前に、グレン第二王子から婚約を約束された時も信じられなかったが……。
彼女は自らの容姿が貴族の中でも上位に位置していることはあまり認識していない。常に清潔でいようとは考えているが、ダイエットをしたりといったこととは無縁であった。
「このまま、アレン様との約束を承諾してもいいのかしら……」
今の彼女に答えは見いだせない。心の奥底では、グレン・ハンフリーの顔が思い出されるからである。また、婚約破棄をされた場合、しばらく立ち直れないダメージを負いそうだ。そういう意味でも慎重になっていた。
もちろん、アレンがそんなことをする人物ではないことは、わかっている。それでも……今の彼女は少しだけ慎重になっていたのだ。
彼女はそのままベッドに倒れこみ、大きく伸びをしてみせた。アレンと話せたことは彼女にとっても有意義だと言える。婚約破棄で意気消沈していた気持ちが吹っ切れたからだ。
もしも、自らがアレンと結婚をした場合……ゆくゆくは国王の妃という立ち位置になるわけだ。自分にそんな大役が務まるのだろうか? そういった不安が、1週間前の事態をささいな物へと追いやっているのは事実だ。純真無垢だったリオナは知らず知らずの内に成長を見せていた。
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「……ん? あれ……私、寝てた……?」
宮殿には馬車で急いできた為か、彼女は疲れを蓄積させており、気付いた時には眠りについていた。時計を見ると寝ていた時間は1時間くらいだ。もう日は落ちてはいるが、就寝時間というほど遅い時間ではない。
「お風呂にでも入ろうかな……」
せっかく部屋に併設されているのだ、使わない手はないと彼女は考えた。着替えなどを用意しようとした時、部屋にノック音がこだまする。誰かが訪ねてきたようだ……。
「メイドの方かしら? まさか、アレン様ということもないでしょうけど。は~い」
「入っても、よろしくて?」
「えっ……? この声は……」
どこかで聞いた声だ。綺麗な透き通った女性の声だが、少し高飛車な印象を纏っていた。
「覚えてないかしら? ユリア・サンマイトですのよ」
「……!」
なんと、リオナの部屋を訪ねて来た人物は、ライバルの家系に属するユリア・サンマイトであった。リオナの心臓は凄い勢いで鳴り始めていた……。
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