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1話 婚約破棄
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「……婚約破棄……!?」
「ああ、すまねぇが、お前とは婚約を解消したい。応じてくれるな?」
ラウコーン王国の都にあるシリンガ宮殿。グレン・ハンフリー第二王子の私室で衝撃の言葉を聞かされている、少女の姿があった。ピンク色の長髪をポニーテールにした美少女、リオナ・ギュスターブ17歳である。
リオナはまだ、正式なお付き合いをしていたわけではないが、将来の夫になるはずの相手に婚約破棄を言い渡されたのである。信じられず、身体が今にも崩れ去りそうだった。
「理由を……理由を聞かせていただけませんか!?」
「……他に添い遂げたい女性ができた。それだけだ……」
「他の女性……?」
まさかそんな理由とは……王族の中で、次期王位継承権2位のグレンが、そのような……。
「相手は同じ伯爵令嬢のユリアだ」
「ユリア……ユリア・サンマイト様ですか?」
「ああ、そうだな」
リオナは耳を疑った。美しい女性ではあるが、ギュスターブ家とはなにかと因縁深い家系の令嬢だ。年齢は18歳。リオナの一つ歳上だった。
「心配するな、リオナ。手切れ金は多めに包んでやる」
「いえ、結構です」
リオナははっきりとした口調でグレンに言った。その気迫には、グレンも思わず驚いている。
「グレン様は、私など忘れ、どうぞお幸せになってください。心からご成功をお祈り申し上げます」
それだけ言うと、リオナは深々と頭を下げ、彼の私室から出て行った。取り残されたグレンは、予想外の彼女の言葉を聞いてしばらく動けないでいた。
---------------------
それから、彼女は馬車でギュスターブ家が統治している北のポルンガ地方に戻って来た。馬車で街を通る際、彼女は手を振っている子供たちに、笑顔で振り返した。彼女は慕われていたのだ。
しかし、まだまだ純真無垢な17歳の令嬢……グレンも21歳と若いが、女性経験はなにかと豊富な人物だ。リオナは馬車で屋敷に帰っている間、グレンがユリアを選んだ理由にはなにかあるのではないかと考えていた。
ギュスターブ家とサンマイト家はライバル同士のようなものだ。その関係上、ユリアが政権の上位に立つ為にグレンを誘惑したとか……色々考えはするが、結論は出ないままであった。
それもそのはず。彼女はまだ知らないが、これは単なるグレンの浮気なのだから。無垢な少女は身体こそ奪われてはいないが、その健気な気持ちを弄ばれ捨てられたのだ。
リオナは屋敷に着いてからも、どこか上の空であった。日々の勉学や家事、料理などの仕事はそつなくこなしていくが、気持ちは完全に空中に浮いていた。両親やメイドたちも、そんな彼女を心配していた。
しかし……転機は婚約破棄から、1週間後にやってきた……。
「リオナ、少しよいかな?」
「お父様。はい、なんでしょうか?」
リオナの父であるビシャス・ギュスターブが焦っているような態度で、彼女の部屋を訪れた。呼吸が乱れており、何事かとリオナも心配になる。
「うむ……シリンガ宮殿より呼び出しがあった。すぐに馬車で向かってもらえるか?」
「シリンガ宮殿にですか……?」
つい最近、嫌なことがあったばかりだ。できる限り近づきたいとは思わないが……。
「心配はいらん。お前をお呼びしている相手は……」
「えっ?」
一瞬、なんと言われたかわからなかった。それほどに、意外な人物からの呼び出しだったからだ。
「信じられぬかもしれんが、アレン・ハンフリー第一王子だ」
リオナは頭の中が真っ白になった。運命の歯車はここから好転に向かい、進んで行くことになる……。
「ああ、すまねぇが、お前とは婚約を解消したい。応じてくれるな?」
ラウコーン王国の都にあるシリンガ宮殿。グレン・ハンフリー第二王子の私室で衝撃の言葉を聞かされている、少女の姿があった。ピンク色の長髪をポニーテールにした美少女、リオナ・ギュスターブ17歳である。
リオナはまだ、正式なお付き合いをしていたわけではないが、将来の夫になるはずの相手に婚約破棄を言い渡されたのである。信じられず、身体が今にも崩れ去りそうだった。
「理由を……理由を聞かせていただけませんか!?」
「……他に添い遂げたい女性ができた。それだけだ……」
「他の女性……?」
まさかそんな理由とは……王族の中で、次期王位継承権2位のグレンが、そのような……。
「相手は同じ伯爵令嬢のユリアだ」
「ユリア……ユリア・サンマイト様ですか?」
「ああ、そうだな」
リオナは耳を疑った。美しい女性ではあるが、ギュスターブ家とはなにかと因縁深い家系の令嬢だ。年齢は18歳。リオナの一つ歳上だった。
「心配するな、リオナ。手切れ金は多めに包んでやる」
「いえ、結構です」
リオナははっきりとした口調でグレンに言った。その気迫には、グレンも思わず驚いている。
「グレン様は、私など忘れ、どうぞお幸せになってください。心からご成功をお祈り申し上げます」
それだけ言うと、リオナは深々と頭を下げ、彼の私室から出て行った。取り残されたグレンは、予想外の彼女の言葉を聞いてしばらく動けないでいた。
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それから、彼女は馬車でギュスターブ家が統治している北のポルンガ地方に戻って来た。馬車で街を通る際、彼女は手を振っている子供たちに、笑顔で振り返した。彼女は慕われていたのだ。
しかし、まだまだ純真無垢な17歳の令嬢……グレンも21歳と若いが、女性経験はなにかと豊富な人物だ。リオナは馬車で屋敷に帰っている間、グレンがユリアを選んだ理由にはなにかあるのではないかと考えていた。
ギュスターブ家とサンマイト家はライバル同士のようなものだ。その関係上、ユリアが政権の上位に立つ為にグレンを誘惑したとか……色々考えはするが、結論は出ないままであった。
それもそのはず。彼女はまだ知らないが、これは単なるグレンの浮気なのだから。無垢な少女は身体こそ奪われてはいないが、その健気な気持ちを弄ばれ捨てられたのだ。
リオナは屋敷に着いてからも、どこか上の空であった。日々の勉学や家事、料理などの仕事はそつなくこなしていくが、気持ちは完全に空中に浮いていた。両親やメイドたちも、そんな彼女を心配していた。
しかし……転機は婚約破棄から、1週間後にやってきた……。
「リオナ、少しよいかな?」
「お父様。はい、なんでしょうか?」
リオナの父であるビシャス・ギュスターブが焦っているような態度で、彼女の部屋を訪れた。呼吸が乱れており、何事かとリオナも心配になる。
「うむ……シリンガ宮殿より呼び出しがあった。すぐに馬車で向かってもらえるか?」
「シリンガ宮殿にですか……?」
つい最近、嫌なことがあったばかりだ。できる限り近づきたいとは思わないが……。
「心配はいらん。お前をお呼びしている相手は……」
「えっ?」
一瞬、なんと言われたかわからなかった。それほどに、意外な人物からの呼び出しだったからだ。
「信じられぬかもしれんが、アレン・ハンフリー第一王子だ」
リオナは頭の中が真っ白になった。運命の歯車はここから好転に向かい、進んで行くことになる……。
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