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115話 ランシール学園での攻防 その2

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「私とミヤビ……同時に戦うことになろうとはな……」

「それは私も同じ気持ちですわぁ。たかが、人間如きにこんな戦闘を行うことになろうとは……」


 レドンドとミヤビ……戦力数値にして楽に10万を超える者達の共闘だ。戦力数値で10万に満たない多くのドラゴン族が、一体で小国を滅ぼせることを考えると、あり得ない共闘と言っても過言ではなかった。


 相対するは人類史上最強レベルの人間、デュラン・ウェンデッタ。ハズキには遅れを取った彼ではあるが、行動はより最適化されたと言えるだろう。怪我は完治していないが、ハズキとの戦いを経て強化された能力はお釣りが来るレベルだ。


「強大すぎる戦力か……しかし、総じて戦闘経験が足りていないようだな」

「すごいですなぁ、そんなことも分かりはんのですか?」

「ああ。そちらのシルバードラゴンはともかく、扇子を持っているお前は、初戦闘レベルじゃねぇか?」


 相手の動きなどから、敏感に戦闘経験を察知できるデュラン。レドンドとミヤビの生まれた時期の違いについても看破していたのだった。これには、ミヤビ達も驚きを隠せない。


「なるほどなるほど……つまり、戦闘経験では相当な差があるということですな……。でも、私たちは2対1。さらに、人を殺すことに全くの躊躇いはないんですよ?」


「……!!」


 ミヤビの専用の扇子から繰り出される乱撃。人間を殺すことに一片の躊躇いすらない彼女は、文字通り必殺の一撃をデュランに撃ち込む。彼女からすれば、正々堂々という戦いすら二の次ということになる。全ては智司への配慮……彼の障害になる者は漏れなく排除していくのだ。その考えはレドンドも似たり寄ったりではあった。ミヤビの乱撃が防がれた場合を考え、ベストタイミングで渾身のブレス攻撃を発動させる。

 どちらも音速を楽に超える一撃だ。ランシール学園のグラウンドと建物は原型を留めないレベルで損害を被ってしまった。


「……おいおい、自然破壊してんじゃねぇよ……」


 砂煙の中から、デュランの声が響く。ミヤビとレドンドの先制攻撃を防いだのだろうか。そこまでのダメージを負っている気配はないが……。粉塵から現れた彼は、煤だらけになっていた。


「二刀の剣で防いだか……流石、というべきだろうな」

「あの乱撃は必殺の攻撃のはずですが……あんまり効果なかったみたいですねぇ……」


 レッドドラゴンすら仕留めた乱撃を防ぐデュラン。何時か戦った時とは比較にならない程に彼は強くなっているのだ。

「ふん……貴様らには敬意を表するとしよう。今度はこちらの番だ」


 そう言うと、デュランは神速の動きで加速した。全身に包帯を巻いている為に、万全の速度というわけではないが、それでもレドンドやミヤビには警戒に値するものだったのだ。彼の二刀流はまず、ミヤビを襲った。彼女の扇子と激しい鍔迫り合いを開始する。

「へえ……! この速度、パワー……確かに強いですね……!」

「あちらの竜はレドンドと言ったか? この密着状態では先ほどのブレス攻撃は出来んだろう? 貴様にもダメージが入るだろうからな」

「……はっ、言ってくれますね……!」


 確かにレドンドのブレス攻撃は出来ない。デュランとミヤビの鍔迫り合いは続くが、単純な力比べであればデュランに分があると言えた。徐々にミヤビは押されて行く……。


「……エステラっ!」

「わかってるわよっ」

「なんだ……!?」


 ミヤビがエステラの名前を叫ぶと、後方で待機していた彼女は、待っていたとばかりに、空間制御魔法を繰り出した。絶妙なタイミングからの意図せぬ攻撃……まともに受けていれば、デュランとて命はなかったかもしれない。


 だが、彼は自らの持つ直感力とリファインコマンドで、その空間断裂から逃れることに成功した、以前のハズキの透過武装の一撃を躱したのと同じ方法だ。


「くそ……!」


 ミヤビを押し切ることを想定していたデュランだが……予期せぬ妨害に苛立ちを隠せなかった。敵は多人数の同時攻撃など、一切躊躇わない集団なのだ……改めて認識させられる。同時に、リファインコマンドでの最適化が行われていた。


 デュランは知らないが、智司を除く配下は、全て智司の為に動いているといっても過言ではない。つまりは、智司以外が、人間たちに容赦をする理由など一切ないのだ。

 この非情さこそが、デュランたちの戦闘経験に対抗しうるものであると言えるだろう。デュランは一人であるが、レドンド、エステラ、ミヤビは同時攻撃を予定していた。何千人もの生徒たちなど、デュラン一人を考えれば雑魚でしかない。よって、監視など必要ないと考えたのだ。逃げた者は容赦なく殺す……それだけなのだから。




「3体同時か……しかも、1体1体が相当なレベルだ……これは流石に分が悪いな……」


 満身創痍な現状を考慮すれば、この中の1体と戦ってようやく勝利できるといったところだろうか……。エステラ、ミヤビが相手の場合は単独同士でも勝てるかは不明ではあるが……。

 最強クラスの人間にここまで思わせる魔神の軍勢の戦力は、どこか異常とも言えるものだった……。


「まあいい、ここは俺から退くとしよう。お前らは貴重な戦力と見る価値があるからな」

「貴重な戦力……?」

「こっちの話だ。それと……ランシール学園の生徒たちは丁重に扱え」


 デュランの言葉は命令のように発言力の強いものだった。当然、エステラたちは反発する。


「はあ? なに言ってんの? この生徒たちの生殺与奪は私たちにあるのよ?」

 
エステラはデュランの言葉などを無視するかのように、彼を挑発してみせる。しかし、そういう方面では、デュランの方が一枚上手であった。



「魔神本人を含め、これだけの戦力がデイトナに集結しているのだ……お前たちの本拠点は、さぞかし手数だろうな?」


「……」


 現在のヨルムンガントの森には、強力な戦力はレジナとゴーラだけだ。それぞれが、単独で小国を滅ぼせるレベルではあるが、魔神の軍勢の中では手薄な方なのは間違いないだろう。デュランはそこを突いたのだった。

「もしも、生徒たちに手を掛ければ、俺やシャルムがすぐに本拠点を攻め滅ぼす。覚悟しておくんだな……」


 そう言いながら、デュランはグラウンドから姿を消す。ランシール学園の建物の瓦礫に紛れて逃げて行ったようだ。残されたレドンド達は、一歩、上を行かれたような感覚に囚われていた。

「単純な実力であれば、我々が3体で戦えば勝てていただろう……しかし、奴はそれを察知し、さらに生徒たちへの攻撃も抑制した……」


「いやいや、元々、無抵抗な生徒は殺さないし……いいんじゃないの?」

「いや……あの男は、私達の本拠点への攻撃も示唆していました……相当な戦闘巧者でもありますわ」


 戦力的には決して負けないものではあった。だが、彼らの中には腑に落ちない感情が芽生えていた。念には念を入れて、その後、エステラが本拠地である館に向かう羽目になってしまった……。
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