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105話 魔神の軍勢 その5

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「エステラとミヤビ……魔神様、前から召喚すること考えてましたよね?」

「さ、さあ……どうかな……」

「む~~~~! ごまかさないでくださいよ~~!」


 ホットパンツが眩しいエステラと和服美少女のミヤビ……智司としてもいずれ召喚しようとは考えていた二人ではあった。本来であれば、召喚にはもう少し時間を要するはずだったが、彼の魔神の能力が可能にしたのだ。


 広場の異次元空間から現れた二人は智司前で跪く。


「さと……いいえ、魔神様……ミヤビ、参上いたしましたわ」

「ねえ、さと……じゃなかった、魔神様。人間がやたらといるみたいなんだけど?」


 現れるなり二人は智司の名前を呼びかけ途中でやめた。智司としてはヒヤヒヤする一瞬ではあったが。ミヤビは京都出身の少女というコンセプトで作りあげており、エステラに至っては学校の仲の良い同級生をイメージしている。その為、エステラは智司に対して敬語を使わない。


「ああ、そうだな。とりあえず、生徒たちは人質と兵隊の役割がある。極力、殺さないように監視してくれ。二人ならば余裕だとは思うけど」


 エステラ、ミヤビ共に側近として作り出されたハズキやアリスには劣るが、両者ともレドンドを上回る実力を有している。レドンドだけでなく、彼女たちも学園の統率に加わるように智司は考えたのだ。

「畏まりましたわ、魔神様。必ず、やり遂げてみせます」

「いいわよ、任せておいて」


「よし……では、アリス、行こうか……ハズキを救いに」

「は~~~い」


 先ほどまでヤキモチを妬いていたアリスではあるが、本題がハズキ救出になると目の色が変わった。魔神そのものである智司と、側近のアリスの出陣だ……最早、その進撃を止められる者は存在しない……。



-----------------------------------



「……おい、サラ……あいつら、宮殿に向かうんと違うか……?」

「おそらくはそうなのでしょうが……私たちでは束になっても何もできません……シルバードラゴン1体に全滅させられてしまうでしょうから……」


 無慈悲な現実と言えようか……サラの言葉は周囲の生徒たちにも伝わっているようだった。そもそも、大半の生徒はサラにすら全滅させられる実力なのだ。

 それを考えれば、新たに召喚されたエステラやミヤビを使わずとも、レドンドだけで、ランシール学園の全ての者を殺すのは容易なことであったのだ。学内ランキング3位のデルトなども流石にレドンドに逆らう勇気はないようだ。

 たった一人を除いて……。


「……シルバードラゴンか……なるほどな……」

「ん? リキッド? どうかしたのか?」


 16歳のAランク所属のリキッド・トータス……Aランクにしてサラに次ぐ、ランキング2位に君臨していた少年だ。彼は周囲が驚きに満ちている中、唯一冷静さを保持していた。


「俺の空間制御魔法があれば……行けるはずだ。おい、奴らの気を引いてくれないか?」

「ま、マジかよ……大丈夫なのか……? なんか、とんでもない化け物みたいだけど」

「心配するな、俺はこの学園で唯一の空間制御の使い手だぞ?」


 リキッド・トータスはアルビオン王国でも名家の生まれだ。その中でも最大の才能を有する彼は、将来を有望視されランシール学園に入った。空間制御魔法とは、指定した空間を消し飛ばせる強力な魔法である。リキッドは、シルバードラゴン達の実力を考え、何かに気を取られていなければ発動は難しいと考えていた。

 この空間制御が決まれば、サラとはいえひとたまりもないのだ……彼は学園の生徒の中で唯一、勝ちの目が見えていた人物と言えるのかもしれない。


 智司とアリスはこちらに目もくれずに去って行く……完全に、学園内の生徒を舐めているということだろう。リキッドはそこに勝機を見出していた。

「おい、てめぇ……何をする気がしらねぇが、やめておけ。学園の全員を殺す気か?」


 学内ランキング3位のデルトが、リキッドに向けて言葉を浴びせる。


「デルトさん……俺の実力を見ていれば良い……学内最強の実力者はこの俺だ。今までAランクに居た理由が、今日で分かるさ」


 デルトからの忠告も、リキッドは耳を傾ける様子はなかった……。



-----------------------------------



「ねえ、ミヤビ……この学園の生徒の監視って面倒じゃない?」

「確かにそうかもしれまへんなぁ……でも、魔神様の命令ですし」

「そりゃそうなんだけど……はあ……そういえばレドンドって、無駄に図体デカいよね?」


「……喧嘩を売っているようだな?」

「おっ? いいじゃん、戦おうよ……どうせ、暇なんだし」

「うむ……しかしな」


 暇を持て余している様子のエステラは、レドンドと戦うことを楽しみにしていた。しかし、その余波は確実に生徒たちに向かってしまうだろう。智司に忠実なレドンドはそれを危惧していたのだ。

 智司より生み出されている為に、エステラといえども智司には絶対服従ではあるのだが……。やや、規律に前向きでない彼女を、レドンドは好きになれなかった。智司としては、自分に意見を言ってくれる人物を想定して作り出した存在ではあるのだが……。


「別に、何人か殺しても問題ないと思うんだけどな。所詮、人間なんだし……」

「あきまへんよ、エステラ。そういう言い方は。魔神様は無駄な殺しを嫌うんですから」

「でもさ、それでハズキは捕まったんでしょ? もう魔神様は、好きな人だけ捕まえて、他は全滅させていいと思うんだけど……どうせ、人間たちとの和解なんて、無理なんだし」


 まさに智司の心の中を代弁した結果と言えるだろうか……エステラの考えは、智司の考えとも一致していた。しかし、人間などどうでも良い彼女と違って、智司には良心が存在している。それが両者の違いでもあったのだ。

 エステラの考えは、ミヤビを初め、レドンドにも一定の評価を得たようだ。特に反論は行われていない。



「今だ!」

「ん……?」


 そんな時、生徒の何人かが動きを示した。リキッドが言っていた囮……レドンドやエステラ、ミヤビ達の視線を一瞬だが、逸らす役割を担ったのだ。彼らの視線は囮の動きに注視される……。


「攻撃してくるつもりかしら? これって、殺しても良いのよね?」

「まあ待て、エステラ。ただ気が狂っただけかもしれん」


 エステラとは違い、レドンドは智司の意志を出来るだけ尊重する気構えのようだ。囮の人物の動きを慎重に伺っている。


「……この状況で、生徒の中からの攻撃は防げまい……俺の勝ちだ」


 そして、囮の人物とは全く違う方向から、リキッドの空間制御魔法が展開された……! 強烈な波動とともに、レドンド達の空間は吹き飛ばされる……!!


 ドドオ! というような、とてつもない轟音が学園中に響き渡った瞬間であった……。


「はあ…はあ……流石に、これだけの力を使うのは初めてか……」


 リキッドは初めて使う規模での攻撃に息を切らしている。なんせ、ランシール学園の広大な広場全域を対象にしたのだから、当然と言えるだろうか。しかし、手ごたえはあった。アルビオン王国の名家の中でも類を見ない才能の持ち主の言葉は説得力に満ちていた。


 ……はずだったが……。


「これは何でっしゃろ? 空間を吹き飛ばしたってことでええんやろか?」

「おそらくはそうだな……その証拠に、地面の土などが消し飛んでいる」

「空間を消し飛ばす攻撃……か。なかなか面白いわね、覚えたわ」


 確かに吹き飛ばしたはずの空間……サラですら、防げないはずの強烈な魔法の跡地からは、平然とした3体の怪物の言葉が聞こえて来たのだ。しかも、その内の一人は「覚えた」と言っていた……。
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