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101話 魔神の軍勢 その1

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「智司様……ハズキちゃんが……」


 館に戻って来た智司を出迎えたのは、髪の刃を振り回したアリスだった。周囲の木々は無残にもバラバラになっている。怒りの形相とでも言えばいいのか……ハズキとアリスは智司の右腕と左腕に該当する姉妹のような設定だ。智司が意図したわけでもないが、彼女たちの間ではそのような認識になっている。


 それだけに、アリスの怒りは限界点を迎えているようだった。


「ああ、わかってる。まさか、あのハズキが敗れるとは……想定外だった」


 リリーとファルナと一旦別れ、館へと帰還した智司。デュランやシャルムの存在を決して軽視していたわけではないが……なぜ、彼らとの衝突を予期できかなったのか? 一度は拳を交らせた仲でもある……デュランの実力は十分にわかっているはずだった。智司の落ち度と言えるのかもしれない。


「仲間……」


 智司は周りに聞こえないようにポツリとつぶやく。決してデュランだけというわけではないが、自分に対し、協力的になってくれた者は仲間と考えたかったのだ。リリーやナイゼル達も勿論、そこに含まれている。だが、その考えは甘かったのかもしれない……。


 智司はここに来て、自らの考えが甘かったのではないかと悟り始めた……デュラン達と争いたくないと思う気持ちと、自らの部下を守る気持ち……彼の中では軽い葛藤が起きているのだった。


「如何なさいますか、智司様? 最悪の場合が起きたとしても、あなた様であれば数年以内にはハズキの再召喚は可能かと思われますが……」

「レドンド……」


 確かにハズキが死んでしまったとしても、彼女の再召喚は可能だろう。その力の強さを考慮すれば、最低でも1年はかかるだろうが。楽に1000年以上を生きられるであろう魔神の寿命からすれば、その時間はあまりに短いとも言える。

 だが、再召喚をした場合、この数か月の記憶は消えた状態になる。つまりは新しいハズキの誕生というわけだ。

「アリスは新しいハズキの方がいいか?」

「ううん、今のハズキちゃんの方が絶対いいです」

「ワンっ!」


「やはりそうか……」


 智司の質問には、アリスだけでなく、彼女の周囲に居るケルベロスも強く答えていた。現在のハズキを救いたいと……。智司は決意する、ハズキを救い出すことを。もしかしたら、ハズキは自らの死を受け入れているのかもしれない。おそらく彼女は、自らが再召喚可能であることを知っているからだ。しかし、これまでの記憶を失った状態では、以前のハズキではないとも言える。

 ……そんなことは魔神の軍勢が許さなかった。


「レジナとゴーラ、ケルベロス達には、この館の守護を命じる。これだけの戦力があれば、まず大丈夫だろう」

「わかった……オデ、頑張る」

「サトシ様と離れるのは寂しいけれど……頑張る」


「よし……レドンドとアリスは俺と一緒に来てくれ。ハズキを救い出す手伝いをしてほしい」


 智司の真剣な言葉に、アリスとレドンドは強く頷いてみせた。


「畏まりました、智司さま」

「あたしも一生懸命、頑張ります」


 レドンドとアリスの覚悟を再確認した智司はどこか安心していた。この選択が一番正しいのだと。自らの所有物とはいえ、忠誠を尽くしてくれている部下を見殺しになどできるはずはない。全力で取り返すことを心に誓った瞬間だった。


「行くぞ……アルビオン王国の首都、デイトナを攻め落とす。まずは……戦略拠点としてランシール学園の制圧だ」


 戦略拠点の維持……智司はまず、その場所について考えていたのだった。
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