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100話 囚われの身 その2

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「……」

「アウグス帝国のレクス総督。事実上、帝国の軍事部門の実権を握っている人物じゃよ」


 無言のハズキに、シャルムは説明的に述べた。ハズキとしては余計な情報以外のなにものでもないが……。


「誰も聞いていないけれど……」

「そう言うな。知識というものは、持っているに越したことはあるまいて」

「……」


 ハズキにとって敵であるはずのシャルムだが、彼女の言葉は素直に受け入れている側面もあった。死闘を繰り広げた者同士は、下手な関係よりも強固な仲になるとは言われている。ハズキにもそんな類が芽生えているのかもしれない。


「シャルム殿、この者は魔神の軍勢の一員と考えて良いのですな?」

「うむ……本人からの確信はないが、おそらくはそうなのじゃろう」

「ほほう、聞くところによると、魔神の側近であるとの情報もありますが?」


 上機嫌のレクス総督。シャルムは少々疲れた様子で答えた。


「そうじゃな……魔神の軍勢にはシルバードラゴンが居たとも聞いておる。過去の文献やわらわ達が仕留めた、レッドドラゴン、ゴールドドラゴンの強さを鑑みれば、そのシルバードラゴンの強さも大体は想定可能じゃ」


 シャルムはソウルタワーでの戦いを思い出していた。レッドドラゴン、ゴールドドラゴン共にデュランが仕留めたのだが、彼女でもそれは可能であった。その経験から、魔神の軍勢に居るシルバードラゴンも、自分たちであれば仕留められると踏んでいるのだ。そして、それは間違っていない。


「この仮面の道化師の強さは明らかにそれ以上じゃ。魔神の軍勢でも幹部クラスと見るのが打倒じゃろう」

「……」


 ハズキは何も答えないが、シャルムには嘘は通じないという予感を持っていた。その為に、余計な反論はしていない。


「なるほどなるほど……しかし、今はシャルム・ローズ殿の呪縛により動けない、ということでいいのですな?」


 レクス総督は何やら舌なめずりをしながら、ハズキを見ていた。ハズキもその視線が女を見るものだとは瞬時に悟っている。

「そうじゃが……あまり、奴を刺激するのは得策ではないぞ?」

「ふふふ……最近は、良い女にも恵まれていなかったのでね」


 シャルムからの忠告……レクス総督はその助言を軽く見たのか、ハズキの居る牢獄内に入って行った。警護役のロシナンテ大佐と一緒に。


「近くで見ると、ますます良い女だな……」

「下衆が……」


 ハズキはレクス総督が何を考えているのか、理解することが出来た。シャルムの呪縛により動けない自分を犯そうという算段だろう。背後に控えるロシナンテ大佐も、特に止める様子を見せていない。それは、シャルムも同じであったが……彼女には結末が予想で来ていたようだ。


「動けないなら、何をされても抵抗は出来まい。元々は何度死刑にしても足らないくらいの犯罪者……覚悟するんだな」


 ハズキは少々疑問に思った。確かに自らの犯罪は多くの者を負傷させたが、デュランやシャルムたちも含めて、死亡させた者は居ないはず……森の襲撃に参加した者は除いて。果たしてそれで、何度も死刑になるのだろうか? ハズキはそんなことを考えていた。


 レクス総督の手が、彼女の豊満な胸に近付いた時……ハズキは行動に移った。

「残念だけれど、私を自由に出来るのは魔神様だけなの。下賤な者どもが自由に出来るところなんて、一ミリたりとも存在しないわ」

「……!!」

 完全に動きを封じられているはずのハズキだが……そこはコンバットサーチで30万を記録する実力者と言えようか。僅かに動ける余波で、レクス総督を御することは容易であった。

 余波で生み出せるハズキの闘気……その闘気はまるで生物のように、レクス総督を包み込み、その自由を奪っていたのだ。突然動けなくなったレクス総督は焦りの色を隠せないでいた。

「ぐ……! ロシナンテ大佐……!」

「畏まりましたっ!」


 ロシナンテ大佐は懐に忍ばせていた、アウグス帝国製のマシンガンを持った。すかさずハズキに向かって撃ち込む。……だが、強力な魔法弾は全てハズキの闘気によって弾かれてしまったのだ。彼女は涼しい顔をしている。


「こ、こんなことが……」

「ば、化け物……!」


 レクス総督、ロシナンテ大佐共に、ハズキの近くから離れていく。その姿を見たハズキは、大きく溜息を付いていた。

「ふう、困ったものね……これが、敵国の重鎮の一人だなんて。あなた達はこれから大変な事態に直面するわ……。魔神様を怒らせてしまったのだから……その代償は高くつくわよ?」


 拘束され身動きはほとんど取れないはずのハズキ。だが、彼女は自らが劣勢になっているとは考えていなかった。

 魔神の軍勢による逆襲劇……それが静かに起こることを予見していたのだから。
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