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99話 囚われの身 その1
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「……」
ハズキは身体的ダメージは受けていないにもかかわらず、肉体の自由を奪われていた。この状態では透過武装も披露することはできない……。
「なにか会話でもせんか? 暇じゃろう?」
デイトナの王宮内の地下牢……ハズキはシャルムの強力な呪縛により、身体の自由を奪われた状態で、投獄されていたのだ。シャルムは陽気な雰囲気で彼女に話しかけている。
「……あなた」
「なんじゃ?」
「……どうやら、一定距離内に居ないと、この呪縛を維持できないようね」
「ほう、流石じゃな。距離が離れても呪縛の効力の維持は可能じゃが……力が弱まってしまう。おんしにはこの距離を保たねば、たちまち自由にされてしまうのでな」
シャルムは話しているが、牢屋に入れられているハズキとの距離は数メートルしか離れていない。もう少し距離が離れてしまうと、ハズキの圧倒的な力で呪縛を解除されてしまう恐れがあった。
「……私を生かしている意味がわからないわ。デュランとシャルムと言ったかしら? 最初から二人同時に戦っていれば、相打ち覚悟であれば……おそらく私を仕留めることも可能だったはず」
ハズキは冷静に敵の戦力を分析していた。彼女の判断では、アルノートゥンの二人が同時に攻めてくれば、自分を倒しうると考えているのだ。それはアルノートゥンに対する最大の誉め言葉と言えるだろう。だが、シャルムの表情は真剣そのものだ。
「ふむ……それは不味いの。わらわと万全のデュランで、ようやくおんしと互角では……本当に不味い」
「ええ……そうね」
ハズキは真実を語らないが、本拠地には彼女に匹敵する怪物のアリスが居る。そして……魔神状態の智司はさらに上に君臨しているのだ。
「おんしの正体……ソウルタワーには関連していないようじゃな」
「……どういう意味かしら?」
「いや、こちらの話じゃ……。そうなると、おんし程の力の持ち主の所属先は魔神の軍勢といったところかの? というより、それしか考えられぬが」
「……」
シャルムの至極真っ当な読み。ハズキは敢えて語りはしないが、その無言の態度は肯定を表していた。
「やはりそうか……ここだけの話、デュランの奴は重傷でな。1週間はまともに動くことが出来んのじゃ」
「あの男が動けない? なら、あなた達は終わったわね。あなた自身は私を束縛する為に、自由に動くことができないのでしょう?」
隙を見せハズキがわずかでも自由になれば、即座に透過武装をお見舞いすることを彼女は考えていた。シャルムにもそれは伝わっている。
「ふむ……アルビオン王国やマリアナ公国の戦力で考えた場合、おんしクラスの者と渡り合えそうな戦力は一人しか居らんようじゃ。確かに不味いの……」
シャルムが言った渡り合える戦力とはランファーリのことを意味している。それ以下の老師達では当然、ハズキに瞬殺されてしまうのだから。シャルムは魔神の軍勢の全貌を把握していないが、明らかにこちらが不利だとは認識しているようだった。
「おんしのボスである魔神……それ以外に、おんしクラスの者がまだ居るとするならば……どうしたもんかの」
現在の状況で魔神の軍勢に攻め込まれた場合、とても防ぎ切れるものではない。その為、シャルムとしては、ハズキという人質を有効活用する必要があった。
「おんしら、魔神の軍勢は大陸中を攻め滅ぼす気はないとも聞いておる。良ければ、取引と行かぬか?」
「取引……?」
シャルムからの意外な言葉と言えるのか……ハズキは自然と彼女の言葉に耳を傾けていた。圧倒的な戦力を誇る自分を束縛した実力者……そこにはある種の信頼が生まれているのかもしれない。
「おんしの命を保証する代わりに、ソウルタワー攻略を手伝ってくれぬか?」
「ソウルタワーですって……?」
「うむ、その通りじゃ。おんしも噂くらいは耳にしておるじゃろう?」
ハズキは無言ながらも思いを巡らせていた。古代の神々の遺産……最難関ダンジョンとしての意味合いが強い塔の名前だ。ハズキとしても、無意識の内に期待感を持ってしまっていた。
「わらわとデュランで900階までは突破したのじゃが……。色々と問題も出て来ての」
「……問題?」
ハズキの興味はさらに刺激される。ソウルタワーへの挑戦は智司だけでなく、彼女も行いたいと思っていたことなのだから……。シャルムの次の言葉を待っていたハズキだが、そんな時、余計な邪魔が地下牢に入って来た。
「おお! その者が捕らえた賊ですかな? ほほう、おそろしく美人だ……! テンションが上がりますな!」
入って来た人物は、アウグス帝国のレクス総督だった。側近の姿もある。やけにテンションを上げながら、シャルムとハズキに近付いて来たのだった。
ハズキは身体的ダメージは受けていないにもかかわらず、肉体の自由を奪われていた。この状態では透過武装も披露することはできない……。
「なにか会話でもせんか? 暇じゃろう?」
デイトナの王宮内の地下牢……ハズキはシャルムの強力な呪縛により、身体の自由を奪われた状態で、投獄されていたのだ。シャルムは陽気な雰囲気で彼女に話しかけている。
「……あなた」
「なんじゃ?」
「……どうやら、一定距離内に居ないと、この呪縛を維持できないようね」
「ほう、流石じゃな。距離が離れても呪縛の効力の維持は可能じゃが……力が弱まってしまう。おんしにはこの距離を保たねば、たちまち自由にされてしまうのでな」
シャルムは話しているが、牢屋に入れられているハズキとの距離は数メートルしか離れていない。もう少し距離が離れてしまうと、ハズキの圧倒的な力で呪縛を解除されてしまう恐れがあった。
「……私を生かしている意味がわからないわ。デュランとシャルムと言ったかしら? 最初から二人同時に戦っていれば、相打ち覚悟であれば……おそらく私を仕留めることも可能だったはず」
ハズキは冷静に敵の戦力を分析していた。彼女の判断では、アルノートゥンの二人が同時に攻めてくれば、自分を倒しうると考えているのだ。それはアルノートゥンに対する最大の誉め言葉と言えるだろう。だが、シャルムの表情は真剣そのものだ。
「ふむ……それは不味いの。わらわと万全のデュランで、ようやくおんしと互角では……本当に不味い」
「ええ……そうね」
ハズキは真実を語らないが、本拠地には彼女に匹敵する怪物のアリスが居る。そして……魔神状態の智司はさらに上に君臨しているのだ。
「おんしの正体……ソウルタワーには関連していないようじゃな」
「……どういう意味かしら?」
「いや、こちらの話じゃ……。そうなると、おんし程の力の持ち主の所属先は魔神の軍勢といったところかの? というより、それしか考えられぬが」
「……」
シャルムの至極真っ当な読み。ハズキは敢えて語りはしないが、その無言の態度は肯定を表していた。
「やはりそうか……ここだけの話、デュランの奴は重傷でな。1週間はまともに動くことが出来んのじゃ」
「あの男が動けない? なら、あなた達は終わったわね。あなた自身は私を束縛する為に、自由に動くことができないのでしょう?」
隙を見せハズキがわずかでも自由になれば、即座に透過武装をお見舞いすることを彼女は考えていた。シャルムにもそれは伝わっている。
「ふむ……アルビオン王国やマリアナ公国の戦力で考えた場合、おんしクラスの者と渡り合えそうな戦力は一人しか居らんようじゃ。確かに不味いの……」
シャルムが言った渡り合える戦力とはランファーリのことを意味している。それ以下の老師達では当然、ハズキに瞬殺されてしまうのだから。シャルムは魔神の軍勢の全貌を把握していないが、明らかにこちらが不利だとは認識しているようだった。
「おんしのボスである魔神……それ以外に、おんしクラスの者がまだ居るとするならば……どうしたもんかの」
現在の状況で魔神の軍勢に攻め込まれた場合、とても防ぎ切れるものではない。その為、シャルムとしては、ハズキという人質を有効活用する必要があった。
「おんしら、魔神の軍勢は大陸中を攻め滅ぼす気はないとも聞いておる。良ければ、取引と行かぬか?」
「取引……?」
シャルムからの意外な言葉と言えるのか……ハズキは自然と彼女の言葉に耳を傾けていた。圧倒的な戦力を誇る自分を束縛した実力者……そこにはある種の信頼が生まれているのかもしれない。
「おんしの命を保証する代わりに、ソウルタワー攻略を手伝ってくれぬか?」
「ソウルタワーですって……?」
「うむ、その通りじゃ。おんしも噂くらいは耳にしておるじゃろう?」
ハズキは無言ながらも思いを巡らせていた。古代の神々の遺産……最難関ダンジョンとしての意味合いが強い塔の名前だ。ハズキとしても、無意識の内に期待感を持ってしまっていた。
「わらわとデュランで900階までは突破したのじゃが……。色々と問題も出て来ての」
「……問題?」
ハズキの興味はさらに刺激される。ソウルタワーへの挑戦は智司だけでなく、彼女も行いたいと思っていたことなのだから……。シャルムの次の言葉を待っていたハズキだが、そんな時、余計な邪魔が地下牢に入って来た。
「おお! その者が捕らえた賊ですかな? ほほう、おそろしく美人だ……! テンションが上がりますな!」
入って来た人物は、アウグス帝国のレクス総督だった。側近の姿もある。やけにテンションを上げながら、シャルムとハズキに近付いて来たのだった。
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