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88話 人類存続へ向けて その1
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「こ、こんな化け物共が居るなんて……! だが、敵の戦力把握としては十分だ。流石に、これ以上の魔物は存在してないはずだ……コンバットサーチが役に立ったね……」
先ほどまで発狂していたグウェインだが、なんとか冷静さを取り戻していた。戦力10万のフロストジャイアントに12万のシャドーデーモン。そして、魔神の右腕と思われる戦力14万のシルバードラゴンだ。これ程の面子で最強の面子ではないなんて言わせない。
グウェインの最早、願望にも近い思いであった。
「……あの二人は出さないで、本当に良かったかな」
グウェインの言葉が聴こえたわけではないが、なんとなくその表情から考えを悟った智司。ハズキとアリスの二人の戦力がどれ程なのかは気になるところではあるが、この場では正体を隠しておいて正解だと判断した。
そしてなぜか、レジナは智司の腕に纏わりつき、身体をピッタリと密着させていた。
「……なにしてるの? レジナ……」
「サトシ様。こうやって、魔神様の妻をアピールすれば、レジナがナンバー2に見える」
「なるほど、一理あるね。でも、それ以外の目的もない?」
「ううん、ないよ」
「そうか? ならいいんだけど……」
レジナはとぼけて見せるが、むしろそちらが本命だ。彼女は小屋で見ているハズキとアリスにアピールしていたのだ。それと同時に敵側への戦力の誤認を生じさせることができる、一石二鳥の作戦であった。
「あの影の魔物……魔神の側近かもね……」
戦力12万を誇る化け物である為に、智司の隣に陣取ることは何ら不自然ではなかった。レジナの作戦は見事成功し、アナスタシアに誤解を生じさせた。そのことを確認しながら、智司は口を開いた。
「……さて、今一度問おう。不可侵条約の締結は如何に?」
「……はっ、そんなことは決まっているじゃないか……」
交渉役の中心を担っているアナスタシア。念のために、他の者達の様子を伺った。それぞれが彼女に頷きで返している。魔神との条約を結ぶか否か……彼ら5人の想いは同じであった。
-----------------------------
「休戦協定は結ばれず……か」
交渉に出向いた5名は、ヨルムンガントの森のテントが張り巡らされた場所まで戻って来ていた。ゴーラ、レジナ、レドンドの3体を出し威嚇した智司。彼の有無を言わさぬ強制的な態度には、誰も従う意志を見出していなかったのだ。
「魔神様は今のところ、アルビオン王国への襲撃は考えてはいないようです。なるべくその気が変わらないように静かに暮らすことをおすすめ致しますよ」
彼ら5人を見送ったのは、エルメスただ一人。智司を始め、他の配下達は近くに居ることすらない。おおよそ、客人をもてなしている場ではないことだけは理解できた。そのエルメスもそれだけを言うと、アナスタシア達に目もくれずに去って行った。
「エルメスの奴も、すっかり敵側になってしまったさね……」
「エルメス様……」
去って行くエルメスを横目に、なんとも言えない表情になっているのはサラだ。最初の調査で彼女とは一緒だっただけにサラの悲しみは大きいものだった。助けられなかったのだから
アナスタシアも神妙な顔つきになっているが、マリアナ公国の3人も似たような様子であった。
「……ははは、10万越え……。ふはははは……」
グウェインの様子は自らのスキルを呪っている節さえある。魔神の軍勢から離れ、安全圏に来れたからこその再燃というものだ。再び彼は発狂しそうになっていた。
「10万越えの強さの持ち主が3体も……。そうなると、元首である魔神がそれ以下とは考えられない。魔神の真の強さはそれ以上ということになるか」
「いい読みだメドゥシアナよ。我々は国家存続の危機に立たされているのやもしれんな」
冷静な言葉遣いではあるが、ライラック老師も顔から汗を流している。250年の人生の中でも最大の衝撃と言えるだろうか。
「老師でも、あの怪物たちには勝てませんか?」
「挑戦者として、全力で挑みたくはあったがの。グウェインの数値を聞いてしまっては、挑む気力が失せたわ。ワシが5体のワイバーンをフル活用させて、ようやくフロストジャイアントの足止めができるかどうかといったところか」
マリアナ公国の最高戦力であるライラック老師ですら、戦力10万のゴーラを倒し切れない。彼は戦う前からそれを悟っていた。幾千もの戦闘経験から生まれる悟りの境地がそれを教えているのだ。
老師は単独でもマリアナ公国を半壊させられると言われている。そのことからもゴーラやレジナ、レドンドの強さが計り知れないものであることは明白であった……。
「世界に向けて発信する必要があるさね……少しでもいい、魔神と戦える強者を呼び寄せないと……」
アナスタシアは静かにそう締めくくった。アルビオン王国やマリアナ公国の存続は、魔神の軍勢の機嫌次第となってしまった。彼ら5人は魔神と不可侵条約を結ぶことはしなかったのだから。
大陸中……いや、それ以外でも構わない。世界中に住む全ての人間に伝えなければならない。一国を楽に滅ぼすことができる軍勢が存在していると。つまらぬ小競り合いなどを行っている場合ではないと。
先ほどまで発狂していたグウェインだが、なんとか冷静さを取り戻していた。戦力10万のフロストジャイアントに12万のシャドーデーモン。そして、魔神の右腕と思われる戦力14万のシルバードラゴンだ。これ程の面子で最強の面子ではないなんて言わせない。
グウェインの最早、願望にも近い思いであった。
「……あの二人は出さないで、本当に良かったかな」
グウェインの言葉が聴こえたわけではないが、なんとなくその表情から考えを悟った智司。ハズキとアリスの二人の戦力がどれ程なのかは気になるところではあるが、この場では正体を隠しておいて正解だと判断した。
そしてなぜか、レジナは智司の腕に纏わりつき、身体をピッタリと密着させていた。
「……なにしてるの? レジナ……」
「サトシ様。こうやって、魔神様の妻をアピールすれば、レジナがナンバー2に見える」
「なるほど、一理あるね。でも、それ以外の目的もない?」
「ううん、ないよ」
「そうか? ならいいんだけど……」
レジナはとぼけて見せるが、むしろそちらが本命だ。彼女は小屋で見ているハズキとアリスにアピールしていたのだ。それと同時に敵側への戦力の誤認を生じさせることができる、一石二鳥の作戦であった。
「あの影の魔物……魔神の側近かもね……」
戦力12万を誇る化け物である為に、智司の隣に陣取ることは何ら不自然ではなかった。レジナの作戦は見事成功し、アナスタシアに誤解を生じさせた。そのことを確認しながら、智司は口を開いた。
「……さて、今一度問おう。不可侵条約の締結は如何に?」
「……はっ、そんなことは決まっているじゃないか……」
交渉役の中心を担っているアナスタシア。念のために、他の者達の様子を伺った。それぞれが彼女に頷きで返している。魔神との条約を結ぶか否か……彼ら5人の想いは同じであった。
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「休戦協定は結ばれず……か」
交渉に出向いた5名は、ヨルムンガントの森のテントが張り巡らされた場所まで戻って来ていた。ゴーラ、レジナ、レドンドの3体を出し威嚇した智司。彼の有無を言わさぬ強制的な態度には、誰も従う意志を見出していなかったのだ。
「魔神様は今のところ、アルビオン王国への襲撃は考えてはいないようです。なるべくその気が変わらないように静かに暮らすことをおすすめ致しますよ」
彼ら5人を見送ったのは、エルメスただ一人。智司を始め、他の配下達は近くに居ることすらない。おおよそ、客人をもてなしている場ではないことだけは理解できた。そのエルメスもそれだけを言うと、アナスタシア達に目もくれずに去って行った。
「エルメスの奴も、すっかり敵側になってしまったさね……」
「エルメス様……」
去って行くエルメスを横目に、なんとも言えない表情になっているのはサラだ。最初の調査で彼女とは一緒だっただけにサラの悲しみは大きいものだった。助けられなかったのだから
アナスタシアも神妙な顔つきになっているが、マリアナ公国の3人も似たような様子であった。
「……ははは、10万越え……。ふはははは……」
グウェインの様子は自らのスキルを呪っている節さえある。魔神の軍勢から離れ、安全圏に来れたからこその再燃というものだ。再び彼は発狂しそうになっていた。
「10万越えの強さの持ち主が3体も……。そうなると、元首である魔神がそれ以下とは考えられない。魔神の真の強さはそれ以上ということになるか」
「いい読みだメドゥシアナよ。我々は国家存続の危機に立たされているのやもしれんな」
冷静な言葉遣いではあるが、ライラック老師も顔から汗を流している。250年の人生の中でも最大の衝撃と言えるだろうか。
「老師でも、あの怪物たちには勝てませんか?」
「挑戦者として、全力で挑みたくはあったがの。グウェインの数値を聞いてしまっては、挑む気力が失せたわ。ワシが5体のワイバーンをフル活用させて、ようやくフロストジャイアントの足止めができるかどうかといったところか」
マリアナ公国の最高戦力であるライラック老師ですら、戦力10万のゴーラを倒し切れない。彼は戦う前からそれを悟っていた。幾千もの戦闘経験から生まれる悟りの境地がそれを教えているのだ。
老師は単独でもマリアナ公国を半壊させられると言われている。そのことからもゴーラやレジナ、レドンドの強さが計り知れないものであることは明白であった……。
「世界に向けて発信する必要があるさね……少しでもいい、魔神と戦える強者を呼び寄せないと……」
アナスタシアは静かにそう締めくくった。アルビオン王国やマリアナ公国の存続は、魔神の軍勢の機嫌次第となってしまった。彼ら5人は魔神と不可侵条約を結ぶことはしなかったのだから。
大陸中……いや、それ以外でも構わない。世界中に住む全ての人間に伝えなければならない。一国を楽に滅ぼすことができる軍勢が存在していると。つまらぬ小競り合いなどを行っている場合ではないと。
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