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72話 攻防戦、決着

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「はああっ!」

「くっ……!」


 場所は変わり、ソウルタワーの直下にて。戦闘は既に行われていた。

 シスマはリリーの蹴撃やナイゼルの攻撃をものともせず、彼らと互角以上に渡り合っている。近くではメンフィスがサラと戦っていた。シスマ、メンフィス共にソウルタワー100階層に到達できるほどの実力を持っている。

 リリーやナイゼルはもちろん、サラでも単独でシスマ、メンフィスを倒すことは難しい。その為に、乱戦形式で戦っているわけだが、こちら側にはソウルタワー200階層を越えられるカシムの存在があった。彼により、戦局は確実に智司達に有利であると言えた。


「リリー、問題ないか?」

「はあ、はあ……さすがにソウルタワーに挑んでいるだけあって強いわね……!」

 ナイゼルもリリーも肩で息をしている。アシッドタウンでの修行により、力の使い方が洗練されているとは言っても、相手が強すぎるのだ。

「みなさん、大丈夫です。このまま打ち合ってれば、なんとか私達が勝利するでしょう」

「ああ。拙者たちも消耗しているとはいえ、向こうの消耗の方が大きいからな」


 サラとカシムは冷静に戦局を見ていた。シスマとメンフィスはもちろんだが、それ以外の連中はランク的にはかなり下がる為に、総合的にはジープロウダ側が不利になっているのだ。後ろで見ていることしかできないネリスは祈るように戦いを見守っていた。


「頼む……なんとか持ちこたえて……ん、智司……?」


 爆炎と共に巻き上がっていた砂煙……その煙が消えていき、智司と思われる人物がこちら側に歩いて来ていた。ネリスが最初に気付き、彼の名前を呼ぶ。

「智司!」

 その声に触発されるように、他の者達もその方角を見た。特に傷を負っている様子はなく、智司が確かな足取りで歩ている。ラーデュイとの戦いの結末は誰もが分かる形となっていた。



-------------------------



「お頭が……負けた? そんな馬鹿な……」

「ありえない……」


 智司からラーデュイの敗北を聞かされ、漏洩しているのはシスマちメンフィスの二人だ。普段は滅多にしゃべらないメンフィスも、この時ばかりは口を開いていた。だが、智司がここに居るということはそれ以外には考えられない。


「……それで、お頭は?」

「去って行ったよ。理由はわからないけど」

「……そうかい」

 ジープロウダのメンバーを見捨てたと言うことになるのだろうか。智司は咄嗟に嘘をついてごまかしたが、シスマやメンフィスは意外にも、それ以上聞いてくることはなかった。お頭が敗北した、その事実に変わりはないからだ。

「どうするわけ? トップは逃げちゃったみたいだけど」

 リリーが挑戦的にシスマに話しかける。戦いの途中であった為、彼女は警戒心を弱めていないのだ。

「お頭を破るほどの相手も加われば、私達に万が一にも勝ち目はない。ここで潮時だな」

「……」

「く、くそう……!」

「ここまでかよ……!」


 シスマとメンフィスの二人は敗北を宣言した。それにより、他の者達も敗北を認めざるを得ない。逃げようにも、智司たちから逃げることは難しい上に、アゾットタウンの方からは、冒険者の増援が来ていた。

「……アゾットタウンの占領も失敗したみたいだね……」

 力なくシスマは言うと、その場に座り込んでしまった。占領戦の決着がついた瞬間だ。



「智司、大丈夫だったの? 途中の砂煙が凄かったけど」

「うん、大丈夫だよ。敵も途中で敗走したから、特に怪我もしてないさ」

「そうね、見たところ問題なさそう。でも、心配はさせないでよね、もし、あんたに何かあったら……」

「ああ、うん。わ、わかってるよ……」

 智司はリリーから意味深な発言が飛んで来た為、智司は恥ずかしくなり思わず彼女から視線を逸らした。なんとも初々しい態度だ。とても自分の館に強力な配下を置いている魔神には見えない。

「……」

「行った方がいいんと違うか?」

「えっ? ナイゼル?」

 ある意味で大胆な行動に出ているリリーと智司を見ていたサラ。ナイゼルはその視線に気付き、彼女に話しかけていた。

「リリーの奴本気やで、多分。サラも思うことがあるんなら、早いところ行動せな。あとで後悔しても知らんで?」

「ナイゼル……ありがとう。では行ってきますね」

 サラはすっきりした表情になっていた。ナイゼルの言葉により、覚悟を決めたようだ。


「随分と気の利いたことをするな」

「まあ、こう見えても俺は空気の読める人間やからな」

「なるほど」

「俺としては、智司の奴がどういう選択するのか見てみたいんや。あいつ、両方共囲うんちゃうか?」

「……感心した私がバカだったみたいだ……」

 ネリスは頭を抱えて笑っていた。ナイゼルも冗談を混ぜつつも、智司たちの仲の進展を望んでいるのだ。

「はは、戦いの直後でこの和み具合……まったく、将来が楽しみな子たちだな」


 カシムはそんな彼らのやり取りを見ながら、素直に驚きを見せていた。こうして、ジープロウダや傭兵団体による、アゾットタウン及び、ソウルタワー占領戦は失敗に終わった。

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