上 下
66 / 126

66話 防衛戦力 その2

しおりを挟む
「まさか、ヴィンスヘルムが死ぬとは……オイラとしても予想していなかった」

「お頭、ヴィンスヘルムは影のような魔物にやられたという噂が出ているよ」

「……」


 アゾッドタウンの郊外の一区画……ジープロウダの本拠点にて、気質ではない会話が行われていた。ジープロウダのお頭であり、自称「人類最強」の異名を持つ、ジオン・ラーデュイ。

 それからその両翼とされている、シスマとメンフィスの二人だ。メンフィスは基本的にしゃべらないので、ラーデュイとシスマの会話になっている。

「ヴィンスヘルムを倒せるほどの魔物……例のシルバードラゴンが目撃された森から来ているかもしれんな」

「まさか……シルバードラゴンだけでも国家が滅びそうな脅威なのに。ヴィンスヘルムを殺せる魔物まで仲間に居るなんて、考えられないよ」


 ラーデュイはリリーとレジナの会話までは知らないが、様々な状況などから予想を付けたのだ。見事に的中していたが、シスマは信じてはいなかった。


「……ボスである魔神が連れて来ている可能性もある」

「魔神……?」

「シルバードラゴンの主は魔神のようだからな」

 ラーデュイ自身も信じてはいないことだが、天網評議会を通しての情報にはなる。魔神の存在……。


「ソウルタワーの頂上には、創設者である神が眠っているとされているが……それと同じような存在なのかね」

「眉唾な情報だね。そんな情報を信じるなんて、お頭らしくない」

 シスマは現実味のない話だと、お頭の言葉を遮る。ある意味で信じたくない部分もあったのだ。シスマとメンフィスは先日、ソウルタワーにてあり得ない衝撃を目の当たりにしているのだから。


「それでお頭。アゾットタウンを占領する為に、女王国も動かす手筈だけど……シリンス家の令嬢には逃げられたよ」

「ヴィンスヘルムが負けるのは想定外だったからな、まあいい。どのみち、賞金首の戦力は揃っている」


 ラーデュイが話している途中、彼の背後から人影が現れた。シスマもメンフィスもその気配に気付くことはできなかった。

「なっ……! 誰だい!?」

「ダブルブレードのアビサル・ノックスと言えば、伝わるか?」

 現れたのは二本の曲刀を握った剣士風の男だ。20代と思しき風貌であり、頬骨は非常に細く、体つきもシャープであった。髪の毛は茶色であり、耳が完全に隠れるほどの長さにしていた。

「アビサル・ノックス……賞金首序列上位に名を連ねているあの……?」

「残念だが、繰り上がりで現在は1位さ。ヴィンスヘルムのカスは俺っちが倒そうとしてたんだけどな。勝手に死にやがって、雑魚が」

 彼は二本の曲刀を器用に回しながら話していた。ヴィンスヘルムが死んだことについては、微塵も悲しんでいる様子はない。

 アビサルとは体格からして真逆を行くラーデュイは煙草に火を付ける。自慢のドレッドヘアーに触れながら話を続けた。

「ヴィンスヘルムはシリンス家の令嬢の誘拐に成功している。正体不明の魔物にやられたのは予想外だが、仲間を卑下する発言は感心できないな」

「ラーデュイ……俺っち達、賞金首はあんたの部下じゃねぇんだぜ? 強力してやってるんだ。そこんとこ弁えて話した方が良いと思うな」

「大丈夫、オイラは十分に弁えているさ」

 海の底……深海から直視されているような深い瞳で、ラーデュイはアビサルを見つめた。そこには全くと言っていいほど殺気は感じられない。しかし、アビサルの次の言葉を止めたのは明白だ。彼は無口になり、何も話さなくなった。

「現在の賞金首ランキング2位、仮面の道化師にも依頼は出していたつもりだが……無視をされたか、届かなかったか」

 ラーデュイは残念そうに語る。彼からの依頼に対して音信不通などあり得ない。ヴィンスヘルムですらしない芸当だ。命知らずな犯罪者も居るものだとアビサルやシスマ達は考えていた。


「まあいい。では今一度、作戦内容をおさらいするぞ。といっても単純明快だが……」

 彼は軽く手を叩き、場の空気を元に戻した。

「囮の傭兵団はアゾットタウンに侵攻し、本命のオイラ達はそのままソウルタワーを襲撃する。ソウルタワーの占拠が成功すれば、アゾットタウンはどうでもいい」

 彼らの目的はあくまでもソウルタワーだ。内部に眠る無尽蔵の資源こそが大本命であった。自称「人類最強」の男、ジオン・ラーデュイ。彼は作戦の失敗など微塵も考えていないのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる

けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ  俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる  だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...