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63話 最強の冒険者 その2

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「初めまして……になりますか?」

「ん?」

 ナイゼル達は遠くで見守る中、智司はカシムと共にアルノートゥンのメンバーの所まで来ていた。挨拶をしに来たという体だ。

「拙者はカシム・キルシュトと申します」

「カシム……ランカークスのメンバーじゃな」

「ええ、知っていただけましたか。光栄です」


 カシムとしては初めて話す相手だ。シャルムは彼を知っているようで、歓迎するように笑顔を見せる。


「なにか用か?」


 シャルムとは違い、デュランは歓迎しているという雰囲気はない。興味がないという印象だ。


「挨拶に来たのですよ。拙者たちは250階層を突破し、こちらの智司くんはブラッドハーケンを討伐しましたので」

「……ガキ、本当か?」

「は、はい……。250階層でブラッドハーケンは討伐しました。俺は相沢智司って言います」


 デュランの目の色が少しだけ変化した。智司はブラッドハーケンを討伐した証……特別なクリスタルを彼らの前に出す。


「ほう……確かにブラッドハーケンの核で間違いなさそうだ」

「見事じゃな。あの時の衝撃はおんしだったか……強い者が現れて嬉しいぞよ」

「ありがとうございます」


 智司としても、レジナが警戒するレベルの実力者に褒められて、嬉しくないわけがない。恐縮しつつも頭を下げて返事をした。



「しかし、デュランはソウルタワー800階層でレッドドラゴンを倒しているがの」


「レッドドラゴン……? 800階層のエリアボスは、伝説の竜族だったのですか!?」


 カシムはあまりの事態に驚きを隠せないでいる。単純に800階層に行き、レッドドラゴンが出て来ただけでも驚きだが、それを倒してしまったということがあり得ない。

 また、1000階以上の階層を有すると言われているソウルタワーだ。850階層と950階層のエリアボスはともかくとして、900階層、1000階層のエリアボスはそれ以上の魔物が出て来る可能性が高いのだ。その点もカシムは考慮し驚いていた。


「ああ。今までの魔物の中ではダントツで強かったことは間違いない。当然、ブラッドハーケンよりもな」


 デュランは説明を省いたが、280階層で彼はブラッドハーケンを討伐している。何か月も前の話にはなるが。


「ブラッドハーケンより、レッドドラゴンは強い……?」

「そうだ。ブラッドハーケンは体感としては、600階層のイビルベアキャットと互角くらいか」


 聞き慣れない魔物の名前ではあるが、ブラッドハーケンの強さは大体わかった智司。600階層という高階層でようやく、あのレベルの魔物が現れるということだ。

 目の前に座っている男のベールは剥いでおいたほうが良い。智司の本能もそう告げていた。


「そういえば、ヨルムンガントの森にはシルバードラゴンが居るらしいの」


 話題はレッドドラゴンの話からレドンドの件へと移って行く。ある意味、必然と言うべきか。


「シルバードラゴンか……」

「言い伝えでは、ゴールドドラゴンとシルバードラゴンが竜族の双頭らしい。レッドドラゴンよりも強いかもしれぬな」

「くくく……それは楽しみだ。俺のリファインコマンドで封殺してやるとするか」


 圧倒的な自信……今までにも、自信に満ち溢れた者は何人も居た。しかし、これほどまでに説得力のある自信を持つ人間は初めてだった。レッドドラゴンを討伐しただけでも、後世に語り継がれるであろう英雄。


 シルバードラゴンのレドンドですら、本当にどうなるかわからない相手だ。今の智司の館は戦力が集中しているが、最初はハズキが不在の時もありレドンドだけで警備していた時もあった。もしもその時に攻め込まれていたら厳しかっただろう。

 レドンドだけで、この超人レベルの二人の相手はさすがに出来ない。ソウルタワーの頂上に最も近い存在……その実力は伊達ではないということだ。



「しかし、あのブラッドハーケンを倒せるガキというのは面白いな……くくくっ」

「デュラン……全く、悪い癖が出ておるな」


 デュランの怪しい笑みに、シャルムは溜息を付いていた。デュランは立ち上がると、酒場の外を指差す。


「貴様の力を見てやろう。表に出な」


 デュランは有無を言わさぬように、自信満々に言ってのけた。カシムも怯んでしまう内容だったが、智司は違った。笑みを見せながら戦闘狂の表情をしていたのだ。
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