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54話 レッドドラゴン その1
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「よし、こんなものか」
魔神の能力を開放し、ブラッドハーケンを撃退した智司。すぐに魔神の衣を解除し、素の状態に戻った。
「サトシ様……すごい、凄過ぎる」
彼の足元からいつの間にか出て来ていたレジナは、とてもたどたどしく興奮していた。必死さは伝わってくるが、言葉が追い付いていないのだ。
「うん、ありがとうレジナ。誉めてくれるのは嬉しいんだけど……カシムさんが戻って来そうだ。すぐに隠れてくれない?」
「……ん、わかった」
レジナはまだまだ誉め言葉を言いたげではあったが、素直に頷いて彼の足元へと消えて行った。
それからすぐに現れるカシム。その表情は予想通り、とても驚きに満ちていた。
「まさか……ブラッドハーケンを倒してしまうとは……! いや、それよりもさっきの大地震の衝撃波一体……!?」
カシムから飛び出て来る言葉は智司の想定内だ。智司はどのように返答をするか、既に決めていた。おもむろに人差し指を口元に当てる。
「……企業秘密です」
どこかで聞いたセリフではあるが、智司は結局、カシムの問いかけに答えることはなかった。カシムとしてもソウルタワー全体を揺るがす程の衝撃の正体はぜひとも知りたかったが、無理強いはできなかった。
彼としてもブラッドハーケンの脅威がなくなったことの方がはるかに重要なのだから。
「……本当にとんでもないよ、君は」
「いえ……恐縮です」
智司は自慢する気もなく、カシムからの称賛も必要以上には受け止めなかった。カシムにとっては、それがより智司の評価に繋がる。決して驕らない強者……。
「ぜひ、君にはアルノートゥンの2人に会ってもらいたいな。いい刺激になると思うよ」
時折出て来る、最強の冒険者の名前……智司としても、興味のある内容ではあった。
「その人たちは、何階層まで行っているんですか?」
「そうだな……拙者も完全には把握していないが、おそらくは……」
カシムは自らが知っている情報を智司に伝え始めた……。
--------------------------------------
その頃……舞台は智司達の居る階層のはるか上に移っていく。
ソウルタワー800階層……この前人未到と思われる階層に、二人の人間の姿があったのだ。地上最強の冒険者として認知されている「アルノートゥン」の二人組だ。
一人は赤い髪の短髪の男。鬼のような顔と牙を要した人物であり、筋骨隆々の骨格と相まって人間かどうか怪しかった。
「この衝撃は……下の階か」
800階層に居る彼にも、智司の魔神の一撃の衝撃音は伝わっていた。特に驚いている様子は見受けられないが……。
「おそらくは、相当下の階層からじゃな……799階以下の階層で、これ程の一撃を放てる魔物は居らん。となると……冒険者か」
金色の髪をストレートに伸ばした女性。白いロングスカートのドレスに黒のタイツを纏った服装をしていた。彼女は下からの衝撃音を敏感に感じ取ったのだ。
「ほう、それは楽しみだな」
鋭い牙を剥き出しにし、男は笑った。
「さて、この階層のエリアボスは誰だ?」
「ふむ、それなりの魔物が現れるやもしれぬ。デュラン、余計なお世話かもしれぬが、最大限の警戒を怠らぬようにな」
「こっちの台詞だ、シャルム」
「うむ、ではわらわは霊体化しておこうかの」
デュラン・ウェンデッタ 31歳とシャルム・ローズ 30歳。冒険者として十分な知識や経験値を獲得し、さらに上へと目指す年齢だが、彼ら二人はとっくに頂点に立っていた。
ソウルタワーをたった二人でこの階層まで登って来ているのだ。最早、現代の冒険者の中で彼らに追いつける者は居ないとさえ言われている。
エリアボス特有の荘厳な扉が開かれて行く……中の巨大な空間、その中央に座しているのは。
「赤い竜……」
「ふむ、レッドドラゴンじゃな」
伝説の中の伝説の魔物……竜族に該当するレッドドラゴンの姿があった。
「ブオオオオ……」
「下層までの魔物とは格が違うの。デュラン、どうするかの?」
竜族と聞けば、大抵の者が最初に思い浮かべるであろう肌の色。レッドドラゴンはまさに、その色を有しているドラゴンであった。現在では完全な絶滅種……文献の中でしか見ることの出来ない伝説の魔物だ。
圧倒的過ぎる闘気と気配を纏っており、余裕の雰囲気でこちらの出方を伺っているレッドドラゴン。引き返す者は追わない王者の貫禄と言える。
「ドラゴンは1体で、国を容易に滅ぼせると言われておる。現代と当時の国を比べることは出来ぬが……ふむ、例を挙げれば天網評議会の全勢力ですら、倒せるかわからんと言ったところか」
「……ほう、それは凄いな」
デュランはシャルムの話を聞いても動じる様子はなかった。太ももの辺りまでスリットを入れた白いドレスを纏っているシャルム。予想通りの反応なのか、微かに微笑んでいた。
「まあ、ドラゴンが闊歩していたのは評議会が生まれる前の話じゃ。単純に比べることは出来ぬがの」
「シャルムはそこで待機していろ。俺が相手をしてくる」
「うむ、期待しておるぞ、デュラン」
レッドドラゴンと相対するアルノートゥンのメンバー。相手をするのはその片割れ、デュラン・ウェンデッタであった。
ソウルタワー800階層まで登った実力が発揮されることになる。
魔神の能力を開放し、ブラッドハーケンを撃退した智司。すぐに魔神の衣を解除し、素の状態に戻った。
「サトシ様……すごい、凄過ぎる」
彼の足元からいつの間にか出て来ていたレジナは、とてもたどたどしく興奮していた。必死さは伝わってくるが、言葉が追い付いていないのだ。
「うん、ありがとうレジナ。誉めてくれるのは嬉しいんだけど……カシムさんが戻って来そうだ。すぐに隠れてくれない?」
「……ん、わかった」
レジナはまだまだ誉め言葉を言いたげではあったが、素直に頷いて彼の足元へと消えて行った。
それからすぐに現れるカシム。その表情は予想通り、とても驚きに満ちていた。
「まさか……ブラッドハーケンを倒してしまうとは……! いや、それよりもさっきの大地震の衝撃波一体……!?」
カシムから飛び出て来る言葉は智司の想定内だ。智司はどのように返答をするか、既に決めていた。おもむろに人差し指を口元に当てる。
「……企業秘密です」
どこかで聞いたセリフではあるが、智司は結局、カシムの問いかけに答えることはなかった。カシムとしてもソウルタワー全体を揺るがす程の衝撃の正体はぜひとも知りたかったが、無理強いはできなかった。
彼としてもブラッドハーケンの脅威がなくなったことの方がはるかに重要なのだから。
「……本当にとんでもないよ、君は」
「いえ……恐縮です」
智司は自慢する気もなく、カシムからの称賛も必要以上には受け止めなかった。カシムにとっては、それがより智司の評価に繋がる。決して驕らない強者……。
「ぜひ、君にはアルノートゥンの2人に会ってもらいたいな。いい刺激になると思うよ」
時折出て来る、最強の冒険者の名前……智司としても、興味のある内容ではあった。
「その人たちは、何階層まで行っているんですか?」
「そうだな……拙者も完全には把握していないが、おそらくは……」
カシムは自らが知っている情報を智司に伝え始めた……。
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その頃……舞台は智司達の居る階層のはるか上に移っていく。
ソウルタワー800階層……この前人未到と思われる階層に、二人の人間の姿があったのだ。地上最強の冒険者として認知されている「アルノートゥン」の二人組だ。
一人は赤い髪の短髪の男。鬼のような顔と牙を要した人物であり、筋骨隆々の骨格と相まって人間かどうか怪しかった。
「この衝撃は……下の階か」
800階層に居る彼にも、智司の魔神の一撃の衝撃音は伝わっていた。特に驚いている様子は見受けられないが……。
「おそらくは、相当下の階層からじゃな……799階以下の階層で、これ程の一撃を放てる魔物は居らん。となると……冒険者か」
金色の髪をストレートに伸ばした女性。白いロングスカートのドレスに黒のタイツを纏った服装をしていた。彼女は下からの衝撃音を敏感に感じ取ったのだ。
「ほう、それは楽しみだな」
鋭い牙を剥き出しにし、男は笑った。
「さて、この階層のエリアボスは誰だ?」
「ふむ、それなりの魔物が現れるやもしれぬ。デュラン、余計なお世話かもしれぬが、最大限の警戒を怠らぬようにな」
「こっちの台詞だ、シャルム」
「うむ、ではわらわは霊体化しておこうかの」
デュラン・ウェンデッタ 31歳とシャルム・ローズ 30歳。冒険者として十分な知識や経験値を獲得し、さらに上へと目指す年齢だが、彼ら二人はとっくに頂点に立っていた。
ソウルタワーをたった二人でこの階層まで登って来ているのだ。最早、現代の冒険者の中で彼らに追いつける者は居ないとさえ言われている。
エリアボス特有の荘厳な扉が開かれて行く……中の巨大な空間、その中央に座しているのは。
「赤い竜……」
「ふむ、レッドドラゴンじゃな」
伝説の中の伝説の魔物……竜族に該当するレッドドラゴンの姿があった。
「ブオオオオ……」
「下層までの魔物とは格が違うの。デュラン、どうするかの?」
竜族と聞けば、大抵の者が最初に思い浮かべるであろう肌の色。レッドドラゴンはまさに、その色を有しているドラゴンであった。現在では完全な絶滅種……文献の中でしか見ることの出来ない伝説の魔物だ。
圧倒的過ぎる闘気と気配を纏っており、余裕の雰囲気でこちらの出方を伺っているレッドドラゴン。引き返す者は追わない王者の貫禄と言える。
「ドラゴンは1体で、国を容易に滅ぼせると言われておる。現代と当時の国を比べることは出来ぬが……ふむ、例を挙げれば天網評議会の全勢力ですら、倒せるかわからんと言ったところか」
「……ほう、それは凄いな」
デュランはシャルムの話を聞いても動じる様子はなかった。太ももの辺りまでスリットを入れた白いドレスを纏っているシャルム。予想通りの反応なのか、微かに微笑んでいた。
「まあ、ドラゴンが闊歩していたのは評議会が生まれる前の話じゃ。単純に比べることは出来ぬがの」
「シャルムはそこで待機していろ。俺が相手をしてくる」
「うむ、期待しておるぞ、デュラン」
レッドドラゴンと相対するアルノートゥンのメンバー。相手をするのはその片割れ、デュラン・ウェンデッタであった。
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