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46話 透過武装

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「館……こんなところに」

 イヴァン・ラクジアットは大爆発には巻き込まれず、別ルートから智司の館が見える位置まで辿り着いていた。 伝説のシルバードラゴンの住処かもしれない。実際は、レドンドの包囲網に引っかかってはいたが、彼はこの時、何とも言えない達成感に酔っていた。


 レドンドは敢えて彼を見逃していたわけである。


「ふふふ……これで俺も、ヴィンスヘルムの奴に並べるね。ははははっ」

「あら、それは聞いた名前ね」


 ラクジアットは突然現れた声の主に表情を戻した。目の前に現れた人物は、自分と並び称されている仮面の道化師だったからである。

「ドフォーレ・ヴィンスヘルム……賞金首の中でもトップに君臨している犯罪者ね。賞金額もダントツの1位……」

「おやおや。仮面の道化師の館だったとは驚きだ。こんなところに棲んでいたのか。なかなか見つからないはずだよ」

 仮面の道化師であるハズキにとってはどうでもいい存在のラクジアットだったが、彼からすれば、自分よりも目立つ存在になって来た為に、疎ましい存在になっていた。予想外のところで出会った形になり、ラクジアットは喜んでいる。


「ふふふふふふ。その声、性別が女という噂は本当だったみたいだね。それにとびきり美人そうだ……そそるね」

 ラクジアットは好敵手に出会えたことと、噂の仮面の道化師が女性であったことに喜びを感じていた。

「美人と称してくれるのはありがたいわね。でもお前如きに見せる姿はないわ。どうせならヴィンスヘルムを連れて来ればよかったのに」


 ハズキからしてみれば、ラクジアットなど眼中にない。せめて犯罪者の中でも最強の人間を連れて来いと言っているのだ。ラクジアットの目つきが変わった。先ほどまでの軽口ではない、明らかな戦闘態勢を見せたのだ。ハズキもその変化は敏感に捉えている。


 ラクジアットの使用武器は両手大剣。自分の身長ほどもある剣を具現化して戦うのだ。

 この森へ入った侵入者の中でもトップクラスの闘気を彼は持っていた。評議会序列2位のネロには劣るが、それ以外の者には勝るほどだ。1年前にヴィンスヘルムに瀕死の重傷を負わされ、彼は必死に逃げた時期がある。

 あれから、ヴィンスヘルムを殺す為に、当時から強かったラクジアットはさらに能力を研ぎ澄ましていったのだ。1年の時を経て、彼はさらに強大な力を身に着けた。闘気を全力で開放し、仮面の道化師を威圧する。

 両手大剣を持つ手はサイコゴーレムを握りつぶせるほどの握力を有していた。先ほどまでとは、戦闘力や雰囲気がまるで別人だ。その間、数十秒……ラクジアットは100%の力を発揮することに成功した。

「俺の強化は少し時間を要する。ここまで待ってしまった以上、お前の死は絶対だ」

「……それは楽しみね」

 仮面越しではあるが、ハズキは笑みをこぼし、少しだけラクジアットに期待していた。先ほどよりもはるかに強さが増しているからだ。

 そして、ラクジアットは先手を決める。一撃だ……自らの周囲に蔓延る新米の犯罪者などいらない。さっさと消えてもらおうと彼は考えていたのだ。最初から渾身の一撃をハズキに振り落とした。


 とてつもなく鈍い音がこだまする……ハズキは脳天を貫かれ、臓器などを周囲に散らばらせるダメージを負ったはず……。ラクジアットもそう確信していた。


 だが……


「……!!」


 指一本……本当に指一本でハズキはガードしていた。賞金首の中でも10本の指にはいるであろう強さを誇るラクジアット。その者の渾身の一撃を傷一つ受けずに、指一本で防いだのだ。

「……ば、ばかな……!?」

「いいことを教えてあげるわ。私には、圧倒的な再生能力が備わっているの。レドンドよりもさらに高い再生力を有するわ」

「……!!?」

 淡々と話すハズキだが、ラクジアットはあまりの事態に、ほとんど彼女の言葉が聞こえていない。

「だから、私の指を切り落とせても、大してダメージを与えていなかったのだけれど……切り落とせないどころか、傷一つ付けられないなんて……本当に残念だわ。あなたの名前は良く聞いていただけに、こんな弱いなんて思わなかった」

「あ……う……」

 ラクジアットは声にならない声をあげるので精一杯だった。自らの力の全てを剣に込め振り下ろした渾身の一撃……森の一部を消し飛ばせる程に威力を集中させたものであったが、ハズキには微塵も通用しなかったのだ。


「せっかくだから、あなたには冥土の土産として私の武器を見せてあげる」

「……!!」

 ラクジアットは感じ取った実力差を目の当たりにし、声すら出せない精神状態になっている。そんな状態の彼に、悠然とハズキは少し距離を取り、自らの武器を披露した。



「え……武器……?」

「ええ、もう出しているわよ。と言っても見えないでしょうけどね」

 ハズキは確かに自らの武器を出していたが、ラクジアットには確認できない。

 これが彼女の武器「透過武装」だった。ハズキ本人以外は何人たりとも視認することが出来ない武装。どのような形状かすらわからないのが普通だ。


「じゃあ、行くわよ」

「なっ……!? まっ………!!」

 剣か斧か棍棒か……それすらわからないハズキからの攻撃。

 その答えは「砲弾」であった。撃ち出される際の点火すら透明になっている。さらに音すらもほとんど聞こえない程に静かなのだ。

 ラクジアットは直撃の瞬間まで気配すら追うことが出来ず、彼を木っ端微塵にした爆発で、初めてどういう攻撃かを確認できた。もちろん、ラクジアット自体は確認できなかったが。

 標的に命中した後の爆炎は透過されていない為、その部分は他の者も見ることができる。

 彼女は特殊な迫撃砲を空中に作り出しており、さらに右腕にも武器を持っていた。どちらも視認は出来ないが、彼女が手にしていた物は鞭だ。

 曲線的な動きを見せる鞭……それが見えないだけで、相手からすればどれだけ脅威かは言うまでもない。常人では反応すら出来ないほどの圧倒的な速度も加算されるのだから猶更だ。

 ハズキ以外は視認できない透過武装。それが彼女の最大の技となっていた。

「私も戦闘狂なのかしら。偶には、ある程度の能力を開放しないと疼いてしまうわ……智司様に嫌われないと良いけれど……」

 ハズキのレベルからすれば、ラクジアットも体術のみで十分に息の根を止められる。しかし、彼女はそうしなかった。館を見たことによる制裁など理由は幾つかあるが……一番の理由は、能力を開放したくなったからだ。



 哀れにもその標的になった、賞金首の中で上位10名に入るイヴァン・ラクジアット。彼の最期は原型を留めない程の粉みじん。まさに悪党に相応しい末路と言えるだろうか。

 新しく召喚された者たちを含めても、智司の配下の中で最強の証。ハズキはラクジアットを実験台として、それを証明したのだった。
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