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43話 ネロとの戦い その2

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 場所は変わり、アゾットタウン……。


 智司はカシムと共にソウルタワーの200階以上に挑戦していた。直通エレベーターで200階へ上り、そこから上階を目指し進んでいるのだ。

「智司くん、そちらへ向かったぞ!」

「はいっ!」

 智司の背後に迫る気配。オーガロード以上の闘気を放つそれは、漆黒の甲冑に覆われた地獄騎士であった。両手に持たれるランスが智司を貫く為に、高速で迫っていた。

 しかし、その強烈な一撃は空を切ることになる。智司が咄嗟にしゃがみ、地獄騎士の足元に潜りこんだからだ。

「!!」

「残念だけど、終わりだ」

 智司は冷静にそう言うと、手に持つ魔神の剣を素早く振り抜いた。地獄騎士は仮面ごと首を斬り飛ばされ、そのまま地面に倒れこんだ。



「さすがだ、智司くん。地獄騎士すらも容易く葬れるとは」

「ありがとうございます」

 現在の攻略階層は224階。まだ魔神の能力を出す必要はないとはいえ、回避を考える攻撃力になって来ている。智司としても想像以上のレベルの上がり方に感じられた。


「しかし、拙者と君の二人だけで、201階から224階まで進めるとは。それも1日で……」

「このペースは早いんですか?」

「相当に早いな。これも君の強さゆえだが」

 今回の挑戦は、智司が200階以上の敵を倒せるかどうかを見る意味合いが強かった。その為に、カシムは智司の動きを観察し適度に加勢、無理だと判断すればすぐに引き返すことを考えていた。

「君は全く加勢を必要としないし、本当に大したものだ。むしろ、拙者が足手まといにならないように気を付けないといけないな」

「……いえ、そんな……」

 智司は照れながら、カシムの言葉に恐縮していた。カシムも自らに襲い掛かる敵は打ち倒している。それらを見る限り、彼が足手まといになることは考えられなかった。智司にとっても不満はない。

 強いて言えば、カシムが近くに居る状態では魔神の能力を発揮できないことだろうか。周囲の敵も強くなって来ている為に、本気を出して一掃していきたい衝動には駆られている。

 しかし、彼の前では魔神の衣を纏うことは避けたかった。

「しかし、安心もしていられない。レアモンスターのブラッドハーケンが現れれば、そこで拙者たち二人はゲームオーバーだろう。ここは魔法空間ではない為、あの世行きというわけだ」

「俺とカシムさんの二人が相手でも勝てそうにないですか?」

「おそらく。智司くんもかなりの強者だが、ブラッドハーケンはさらに上をいくだろう」

「……」

 智司は真剣な眼差しを見せていた。十分に智司を買っているカシムが、そう言い切っているのだ。彼の回答の根拠にはルビシャスのメンバーが殺されていることがあった。

 100階を楽に超えられる面子で構成された4人組のルビシャス。その全ての者達が183階層でブラッドハーケンに殺された。その事実はとても重要だ。

「ルビシャスの4人の冒険者は、1人1人がとても強かった。それこそ、200階を超えられるレベルでね。その4人を同時に相手にしてもブラッドハーケンを倒すことはできなかったようだ」

「ブラッドハーケン……なるほど」

 智司はそのレアモンスターの名前を自然と口に出していた。ぜひとも出会ってみたいという感情が生まれている。1パーセント以下の遭遇率とは言われているが、出会えそうな予感はしていた。


「そういえば、シルヴィさんとマークノイヤさんでしたっけ? ヨルムンガントの森に行かれたのは」

「ああ。そうか……そろそろ、調査が開始されている頃合いかもしれないな」

 カシムはソウルタワーから、見えるはずはないが森の方角に視線を向けた。今はヨルムンガントの森で死闘が繰り広げられているかもしれない。シルバードラゴンは見つかったのだろうか……仲間の無事を願うカシムであった。


「……」

 智司もカシムが合わせる視線と同じ方向を見ている。彼が思うのは冒険者たちのことではなく、自らの配下たちの安否だ。ハズキやレドンドに関してはそれほど心配はしていないが、他の者達は無事だろうか? 並の冒険者にやられることはあり得ないが。

 念のために召喚した「もう一人の側近」もそろそろ目覚めているはず。

「浮かない顔をしているな、智司くん。君の友達も参加しているのか?」

「え? いや、あの……なんというか……」

 カシムは表情に現われていた智司を気遣い、声をかける。智司は思わずしどろもどろになってしまった。まさか、心配してる対象が丸っきり逆だとは言えない。

「なに、そんなに照れることでもないさ。今回の旅だって、なかなかどうして、良い友達を持っているようじゃないか」

「……? ナイゼル達ですか? ええ、確かにナイゼルやサラさん、リリーとは仲良くさせてもらってます」


 同じ学校の者達の名前だ。まだ過ごした期間はそこまで長くはないが、智司にとっては掛け替えのないものになりつつあった。出来る限り、彼らを失いたくないと思っている。


「はっはっはっ、良い友達関係と言うのはもちろんだが。青春のにおいもあるんじゃないか?」

「せ、青春……ち、違いますよ……!」

「ああ、ただし避妊はしておいた方がいいぞ?」

 トム教官と全く同じ発想の師匠……ついこの間、同じことを言われたばかりだ。

「トム教官にも同じことを言われました……」

「なんと、これは不味いな……う~む」

 師弟とは似てしまうものなのかもしれない。

 青春時代を謳歌している若者に優しい笑顔を向けているカシム。リリーとサラとの微妙な関係を彼に悟られていると知り、智司は恥ずかしくなってしまった。

 元々智司は、青春を謳歌したいからこそ学園に入ることを考えた。カシムから見て、そのように映るのはむしろ歓迎なのだが……ソウルタワーを224階まで進んだ、極少数の部類に入る智司だが、まだまだ小心者なところは変わらなかった。

 ソウルタワーにて、このような会話が行われている間にも、森での戦闘は開始されていた。戦局については二人はまだ知らない。

 ソウルタワーからでは、通信機は通じない。ここを降りたら、ハズキに連絡を取ってみようと考える智司であった。


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 そして場所は、ヨルムンガントの森へと戻る……。


「ギルルルル」

「くっ……! ……これが希少種のワイバーン……!」


 エルメスは地上からレイの魔法なので、ワイバーンに攻撃をしていたが、上空を高速で飛びながら、強力な雷撃を撃ち落としてくるワイバーンが優勢になっていた。


 既にその雷撃を何発も受け、エルメスは相当なダメージを負っている。


「あはははははっ。滑稽だね、エルメス。僕の眷属であるワイバーンにも勝てないなんて。まあ、ワイバーンに勝てる奴なんてほとんど居ないから、気に病むことはないよ」

 ネロはエルメスのやられ具合に満足しているのか、ワイバーンに気を取られ、隙だらけになっている彼女に攻撃を仕掛ける様子はない。

 先行したエルメスだが、完全な劣勢状態になってしまっていた。
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