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40話 侵入者 第二陣 その2

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「おらぁあああああ!」

「グゴオッ!!」

 冒険者チームアジラダのオムニ。大剣でサイコゴーレムの首を切り飛ばした。これで、何体目の討伐であろうか。周辺に居る冒険者たちも彼の勢いに乗っている。


「ドラゴンがなんぼのもんだよ! 出て来るなら来いや~~~!!」

「この調子で行くぜ!」

 金魚のフンのような連中も多いが、この瞬間、確かに彼らは活気づいていた。それはバラクーダやサイコゴーレム達を萎縮させていたのは間違いない。

 並の冒険者では返り討ちに遭うほどに、強力な魔物として認知されているバラクーダとサイコゴーレム。アジラダのメンバーのおかげとはいえ、倒せている事実に、伝説のドラゴンに対する恐怖も薄れていたのだ。


「馬鹿な連中な気がするけど、ああいう鼓舞激励? 的に進むのは良いことかもね」

「意外だな、ミリアム。お前が他人を褒めるとは」

「はっ、あんたも気付いているでしょ? あーしとしては、死にゆく者への賛辞みたいなものよ」

 傭兵団体のミリアムとボグスミートは数十人の冒険者の後ろから、ヨルムンガントの森を進んでいた。

 彼らにしか気付いていない、森を覆う闘気の質……敵の本拠点へ近づいたからなのか、先ほどまでよりも濃くなっていた。

「シルバードラゴンの立場からすれば、これ以上の侵入者の進撃は認められないってところかしら? だとしたら、そろそろ本命が来そうね」

「ああ、そんな頃合いか」

 智司の部下による定石。それはバラクーダとサイコゴーレムを先行させるというものだ。もしも、それで対処できないレベルの者が現れればレドンドが始末する。しかし、今回は事情が異なっていた。


 素早い影が複数見えた。その影は、先行していた冒険者たちを次々と襲って行く。

「ぎゃあああ!」

「な、なんだ……!? なにが起こった!」

 オムニはなんとか影の動きだけを捉えていたが、正体まではわかっていない。その間にも周りの者たちの腕や頭は、どんどん千切れ飛んで行った。冒険者たちの悲鳴が森全体に響き渡る。


「あれってまさか……!」

「……ケルベロスか!」

 数十人の団体のすぐ後ろに居たミリアムとボグスミートだけが、その影の正体を見極めることが出来ていた。彼らとはいえ、原種のケルベロスを見るのは初めてだ。

 それが確認できるだけで3体は居る。


「あれって、ケルベロスで間違いないわよね? あーしも図鑑とかでしか見たことないけど」

「ああ、おそらく。纏っている闘気の強さ的に、ケルベロスマーダーを大きく凌いでいるからな」

 ミリアムとボグスミートは瞬時に最高レベルの戦闘態勢を敷いた。それほどの相手であると理解したのだ。前衛の連中では、正体を知った時にはあの世へ行っている。それほどまでに、ケルベロスの動きは素早かった。



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「へえ、シルバードラゴン以外にケルベロスも居るのか。敵の戦力は相当に高いみたいだね。ニッグ達が敗れるのも、仕方ないってところかな」


 直径1メートルに満たない偵察機を飛ばしているネロは、映像に映っている影の正体を正確に捉えていた。眼鏡を指で上げながら、気取った表情をしている。

「頼むよ、ミリアム、ボグスミート……敵の戦力の全貌を確認してくれ」

 ネロの今回の目的は敵側の「底」を見ることだ。アルビオン王国の教えでは、自らの底は決して見せず、敵の底を把握して対処するというものがある。それを忠実に、彼は実行しているのだった。

「ランカークスのメンバーにも偵察機は飛ばしていたけど……破壊されたのか、見れなくなっているね。あの二人がやったのかな?」

 ネロの偵察機の内、ランカークスのメンバーの動向の確認の為に飛ばした物は、破壊されていた。ネロは彼らほどの実力者であれば、偵察機に気付いて撃ち落としたとしても不思議ではないと考えている。

「まあいいや。ミリアム達の動向を確認するだけでも、相当な情報が確保できるだろうし」

 ネロはそう言って、残っている偵察機に集中することにした。犯罪者であるラクジアットにも偵察機は飛ばそうと考えていたが、すぐに破壊されるだろうと考えた為に行ってはいない。

 彼は再び、ミリアム達の攻防に目を向けた。



----------------------------



 合計5体のケルベロスが確認された。ほとんどの者が影でしか追うことは出来ず、狩りを楽しんでいるのか、その内の2体しか動いていない。しかし、それだけでも前の冒険者たちはほぼ壊滅状態になっていた。

 アジラダのメンバーとて同じだ。

「ぬあああああ!!」

 オムニは大剣をケルベロスに向けて振り下ろした。相当な大振りである為に、ケルベロスの速度であれば、容易に避けることができるが……ケルベロスは敢えて避けることはせず、直撃したのだ。

「グルルルル」

「な、なに……無傷だと……!?」

 ケルベロスの闘気を貫通することは出来なかった。その事実を突きつけられた直後、彼の頭は無くなっていた。動いていなかった3体目のケルベロスがオムニの頭を食い破ったのだ。そのままの勢いで、後方に居るミリアムとボグスミートに突進を開始した。

「ミリアム、こっちに来るぞ!」

「見せてやるわよ、これが本当のファイアボールよ!」

 アジラダのメンバーが撃ち出したそれとは、明らかに違うミリアムのファイアボール。巨大な剛火球がとんでもない速度でケルベロスを捉えた。

 だが、狙われたケルベロスの1体は身体を捻って火球を躱す。しかしそれは、ミリアムの想定内だった。

「サンダーボルト!」

「!!」

 天空からの雷撃だ。避けた瞬間のわずかなタイムロスを見逃さず、ミリアムは次の魔法を行使したのだ。だが、その攻撃すらもケルベロスは避けた。そして、今度はミリアムが攻撃の隙を突かれた。ケルベロスの強靭な顎が、ミリアムの急所目掛けて飛んで来る。

「不味い!」

「はああああ!」

「ぎゃん!!」

 喰らえば致命傷になっていたであろう攻撃。それを逸らしたのはボグスミートだ。咄嗟に繰り出した打撃でケルベロスの身体ごと吹き飛ばしたのだ。だが、ケルベロスは特にダメージを負っていない。


「グルルルルル……」

「ちっ……! 不味いわね……あーしが劣勢になるなんて……!」

「ああ……これがケルベロスの実力か。俺達二人がかりでなんとか1体を仕留められるかどうかってところだな」


 ミリアムとボグスミートは、冷静に敵の戦力を把握していた。そんな魔物があと4体も居るのだ。彼ら以外の周囲の冒険者は戦意喪失どころの話ではない。


「あなた方はここで死亡する。その事実に変わりはありません」

 そんな時、ケルベロスの間を縫って現れた人物。黒いメイド服に身を包んだエルメスだった。

「おい、あの人物は……」

「まさか……評議会のエルメス!? なんでここに……死亡したって聞いてたけど……」

 意外な人物の登場にミリアムとボグスミートは驚きを隠せないでいた。



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「へえ、これは驚いた。エルメスは生きていたのか。いや……あれは生きているとは言えないな」

 エルメスの目や纏う闘気。映像越しとはいえ、ネロは正確に彼女の状態を判断する。

「魔神とかいう主に操られているのかな? それとも、配下として転生……生まれ変わったのか。人間ではなくなっているみたいだ」

 魔族とでも呼べばいいのか。外見上は人間の頃とあまり変わらないが、最早、人としての常識は消えてしまっている。記憶は残っているだけに余計に性質が悪いといったところか。

 ベクトルは違うが、この世界にやって来た智司と状況は似ていた。


「……さてと、もう味方でもなさそうだし、一掃してしまおうかな。ミリアムとボグスミートも思っていたほど、強くはないみたいだしね……用済みか」

 ケルベロスとの攻防を見て、そう判断したネロ。モニターを見ながら、何かのタイミングを測っているようだった。彼の残酷とも取れる言葉は、誰もいない野営地に響いていたのだ。
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