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30話 ソウルタワー その1

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 ソウルタワー……推定階数1000階以上の世界最大にして、最古の建物。はるか昔に神々により建てられた塔として有名である。

 現代過去と問わず、未だに踏破した者が存在しない伝説のダンジョンとして認知されるに至っており、冒険者たちの間では最終目標の一つともされる程である。


 そんなソウルタワーの1階に、魔法空間上の再現として佇むことに成功した智司達。見た目は石造りの塔ではあったが、疑似空間であるにも関わらず、その圧倒的な存在感には心を奪われてしまう。

「1階は天井までの高さが50メートルはありそうやな……。各階層が30メートルと仮定すれば、30000メートル以上の塔か……地上からこの星の大気圏までの距離はもっとあるやろうから、大気圏まで伸びてる言うんは言い過ぎかもな」
「そんなことどうでもいいでしょ。それよりも、これがソウルタワー……?」

 1階の雰囲気を感じ取り、リリーの雰囲気は明らかに変わっていた。通常の遺跡などとは明らかに違う。広さはもちろんだが、出て来る魔物のレベルが違うことが雰囲気だけで感じ取れてしまったのだ。

「リリーの驚きはもっともやな。俺もさっきから恐怖を感じてるわ……例え死んでも疑似空間やから大丈夫やけど、それを踏まえても、1階からここまでの威圧感とはな。舐めとったわ……」

 ナイゼルも汗はまだ流していないが、周囲の雰囲気に明らかに真剣な表情を見せていた。智司は周囲の雰囲気を感じ取りながらも、平然としているが。

「とりあえず、2階を目指しましょうか。4人で協力すれば、それなりの階層には行けるかと思いますが」

 サラも表情としては非常に冷静だ。レドンドの前では全く相手にならなかった彼女ではあるが、少なくとも1階の雰囲気はあの時よりもはるかにマシであったのだ。

「そうですね。丁度、階段も目の前にあることですし」

 そう言いながら智司は少し離れた階段に向かって歩き出した。リリー達も彼の後を自然と追っていた。

 だが、そんな簡単に2階へ行けるはずもなく……階段の目の前には、明らかにさっきまではいなかった魔物の姿があったのだ。ソウルタワーは魔物が無限に現れることでも有名であった。


「……あれは、サイコゴーレムか」
「智司くんはサイコゴーレムを見たことがあるんですね。その通りです」

「へぇ、あれが有名なサイコゴーレムか。見るんは初めてやな」
「私も」

 智司はレドンドの配下になっているサイコゴーレムの名を無意識に出してしまっていたが、誰も怪しむことはなかったので安心していた。

 智司からすれば、全く恐れる相手ではないが、他の者達はどうかはわからない。智司としても大事な仲間だけに、ナイゼルたちを心配していた。

「ナイゼル、リリー? 倒せそう?」
「なんや、智司は余裕そうやな。初めての敵やからなんとも言えんが……こんなところでやられてたら話にならんやろ」
「まさか、1階からヨルムンガントの森の強敵が出て来るなんてね。流石は伝説のダンジョンって感じかしら?」

 ナイゼルもリリーも目の前のサイコゴーレム2体に敬意を表しながらも、その表情からは余裕が感じられた。

 サラの表情からは、サイコゴーレム程度には苦戦しないと思われる余裕が感じられた。あとはリリーとナイゼルだ。彼らの強さはまだまだわかっていないところが多い。

「智司はトム教官も余裕だったし、サイコゴーレムもいけそうね。なら、私が行くわ」
「んなら、俺も行かせてもらおか」

 やる気満々のリリーとナイゼルが智司達の前に立つ。標的は2体のサイコゴーレムだ。リリーもナイゼルも初めての相手だけにその表情は幾分か強張っていた。その反応は当たり前であり、むしろ智司の表情の方が不自然と言える。

 サラは天網評議会での経験がある為に普通ではあったが。

「相当な闘気を感じられるけど、負ける気はしないわね」
「奇遇やな、俺もや」


 学内ランキング13位のリリーと4位のナイゼル。本来学生の身では、とても倒せない強敵ではあったが、彼らは特別だった。それなりの打ち合いをしつつも、彼らは危なげなく、サイコゴーレムを撃破することに成功する。

 さすがに、天網評議会のエルメスやランパードのように一瞬で片を付けることはできなかったが、ほとんどダメージを負うことなくリリーは強烈な蹴りでゴーレムの顔面を破壊し、ナイゼルは装備していた薙刀を全力で振り抜き、サイコゴーレムの首を切断したのだ。

「お見事です、二人共。まさか、サイコゴーレムをそんなに短時間で倒せるとは」
「お疲れ様、リリー。それからナイゼルも」

 多少、息を切らせてはいたが、危なげなく勝利した二人を心から労う智司とサラ。彼ら敵には本気で誉めていたが、リリー達にはそうは見えなかったようだ。

「う~ん……なんか差を感じる」
「ホンマやな。自分らの方が上やと思ってる感じがビシビシと伝わって来るで」
「え? いや、そんなつもりじゃ……」

 リリーもナイゼルも半笑いになっていた為に、すぐに冗談だとわかった智司ではあったが、彼らとの実力差があることは悟られたのだと判断していた。そう、リリー達と智司との間には天地の差があるのだ。

「智司が戦ってたら、もっと余裕だっただろうし。さすがにトム教官を一撃で倒しただけはあるわ」
「一撃? マジか……あのトム教官をな……」

 リリーの言葉に反応するようにナイゼルは驚いていた。ナイゼルとしても学内ランキング11位の智司の実力を見誤っていたという感じだろうか。彼はそれほどに驚いている。

「積もる話もあるでしょうが、早く2階に行きませんか? 塔の疑似攻略はこれからですし」
「そうやな、ならさっさと2階へ行こか。やれやれ、1階からサイコゴーレムとか、ソウルタワー恐ろしいわ……先が思いやられるで……」

 ナイゼルの溜息を付くような沈んだ言葉は、ソウルタワー全体に響いていた。疑似空間とはいえ、100階もの高さを誇る塔の攻略。

 彼らの前途が多難であることは疑いようもないことは、言うまでもない。サバイバルゲームはこうして始まりを告げたのだ。
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