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26話 課外活動 その2
しおりを挟む次の日、彼ら4人は学園の入り口にて待ち合わせをしていた。一番早く着いた智司は緊張感に包まれながらも、内心は喜んでいた。トム教官曰く、課外活動という建前はあるが事実上は旅行のようなものだ。
戦闘関連の生徒はこのような課外活動は何度か行うことになっている。
4人が選ばれたのは実力的なもの以外にも気の合う仲間と認識されたことも大きい。途中でのトラブルが少ないと判断されたのだ。
智司は緊張もある中、修学旅行のような気分で高揚もしていた。中学時代の修学旅行は色々な意味で悲惨だったが、今回はどう悪かろうとも楽しめることだけは実感していた。それだけリリー達に対する信頼を持っていることになる。
「早いな、智司」
「ナイゼル。おはよう」
「おう、おはよう」
智司の待っていた入り口に最初に現れたのはナイゼルだ。軽く挨拶を交わした二人であるが、明らかにナイゼルの表情はからかいの感情を秘めていた。智司も嫌な予感がする。
「なあ、智司。どっちが本命なんや? ん?」
「ど、どういう意味だ?」
予想通りのナイゼルからの質問。まさかこんなに早く来るとは考えていなかった智司だが、いずれは来そうだと考えていた。
「決まっとるやろ。リリーとサラや。どっちもその辺のモデルよりも綺麗やしな。ん?」
ナイゼルはどこまでも智司をからかっている。彼の言葉に嘘はなく、智司もモデル以上に綺麗な二人だとは思っているが、さすがにナイゼルに気取ったセリフを言える心境ではなかった。
「やめてくれよ、ナイゼル」
「なんや、草食獣気取りか? がっ! て言ったらええねん、こういう時は。女は強引な引き込みを待ってるもんやで?」
「ほ、本当に?」
少しナイゼルの言葉に揺さぶられる智司。
「俺の見立てやと、どっちも好意的な感じがするで? お前的にはサラが良いんか? いきなり距離縮めて来たし」
「あれは……」
「なんや?」
智司としてもナイゼルの質問は回答に困るところであった。サラとの距離が縮まったように見えた事象に関して、理由を明確にするわけにはいかない。あれのせいで、智司はサラとの距離を縮めにかかったと勘違いをされているのだ。
「サラさんって美人だもんね」
「え……? リリー」
「おはよ、智司。それからナイゼルも」
明るい声が智司たちの耳に届いた。リリー・シリンスがやって来たのだ。
「ああ……おはよう、リリー」
「うん。で? なにか言うことない?」
「えっ……あ、うん……」
リリーはそう言いながら、わざとらしく回転していた。最初に会ったときのも似たような光景があった気がした智司。
彼女の服装は青のミニスカートを身に着けており、ノースリーブの白いシャツを着用している。その上からカーディガンのようなものは羽織っているが、ラフな格好と言えた。
「似合ってるけど……その丈の短いスカートで行くの?」
智司は非常に目線を合わせにくい。彼女は太ももが丸見えになる程、短いスカートを穿いているからだ。
「制服も同じくらい短いじゃん。それにほら、スパッツだし」
「うわっ!」
リリーはスカートを軽くめくり、中を智司達に見せる。その動作は智司の予想外のこともあり、彼は大きな声を出した。期待した物が見えたわけではなく、彼女は黒の短めのスパッツを穿いていた。
「なに、驚いてんのよ? スケベ」
「ご、ごめん……。まあ、スパッツを穿いているなら大丈夫かな?」
「いや、あれはあれでエロいぞ、なんか」
「なにがエロいのよ? 失礼ね。でも、智司は意識してるわよね……」
リリーは智司の様子を見て、彼が照れていることを悟り、少し満足気になっていた。彼女も奮発した服装をしてきたということなのだろう。
しかし、隠れているところに魅力を感じる。ナイゼルはそんな性癖を持っている可能性を秘めており、智司としてはわからない感覚ではないが、リリーとしては頭を抱える事案になっていた。
「まあ、これで智司も私の魅力に……え?」
「あ、サラさん……」
「あら、勢揃いですね。おはようございます」
最後に現れたサラは全体的に白い服装でやってきた。白の半袖の服に白いミニスカートだ。リリー程の短さではないが、膝は出ている。青いポニーテールの髪型と上手く合わさっており、天使を見ているように智司は癒されていた。
彼はひょんなことからサラを意識するようになったが、意識しだすと彼女の魅力がより伝わってくるのだ。
「ど、どうでしょうか、智司君? 私の格好は変じゃありません?」
「いえ、すごい綺麗だと思いますよ、はい!」
思わずテンションを上げてしまった智司。リリーが近くに居たとこをすっかり忘れていた。
「あ、ありがとう……」
サラは嬉しそうにしている。智司としては、その言葉は嬉しかったが……。
「ふ~ん、なるほどね」
「あははははは……」
リリーは自分の服装と、サラの白を前面に出した服装とを交互に見比べていた。そして時折、智司を睨んでいる。
「と、とりあえず、全員揃ったし、馬車を呼ぶで!」
ナイゼルは雰囲気が怖くなったのを察知したのか、通信機で誰かと話し出した。唯一の見方のナイゼルを失った智司君はしばらくの間、このなんとも言えない雰囲気の中に佇む羽目になる……。
そして、少し時間が経ち、御者を乗せた馬車が学園の入り口付近に停車した。学園の入り口には学生の姿も見られ、時々視線を感じていた。
「ほな、アゾットタウンまでお願いしますね」
「承知いたしました。トム教官からも依頼は受けていますので。お乗りください」
御者に先導され、智司達は馬車へと乗り込む。内部は窓が4つ付いており、思っている以上に広々としていた。6人は十分に乗れるくらいの広さがある。
そして、御者により連れて行かれる智司たち4人組。ランシール学園は瞬く間に離れて行った。
「サーバン共和国領内に入って、アゾットタウンを目指す方向やな。街道を通るから、比較的安全やろ」
「どのくらいで着くんだろ?」
「距離的には馬車で3日くらいやな。さすがに24時間走り続けるわけにも行かんし」
「御者の方が倒れますよ」
馬車に揺られながら、彼らはそんな会話を楽しんでいた。アゾットタウンに到着する前に途中の街で食料の調達や着替え、宿泊を行う必要が出て来る旅になるのだ。
智司は時折、前を座るリリーとサラに視線を移していた。どうしても、下半身に目が行ってしまうのは男の性と言えるだろうか。期待する物が見えないと分かっていても、二人共ミニスカートを穿いている為に、綺麗な脚は見放題の状態になっているのだ。
「ナイゼル、冒険者っていう職業だけどさ。やっぱり、かなりポピュラーだよね」
あまり彼女たちの脚を見ているのも失礼かと感じ、智司は話題を冒険者の話へと持って行った。
「ん? なんや、お前の故郷には居らんのか?」
「そうだね。辺境の村……いや、村とも呼べない地域だからな」
「そうなんか、大分田舎やねんな」
智司はもっともらしい方便を述べる。辺境地が住処という意味合いでは嘘ではない為に、彼も自然と話すことができたのだ。ナイゼルも疑っている様子もなく話した。
「まあ、サーバン共和国が冒険者の発祥地やけど、今では大陸中、それだけやなく他の大陸にも派生しとるからな。ポピュラーな職業やで」
「しかしそうなると、全員が稼げるわけでもないんだろ? 実力差も出そうだし」
「そらな。実力差は天と地以上とも言われとる。最上位と最下位なんて、人間とミジンコの欠片くらいの差があるやろ。それだけに、アゾットタウンの冒険者は稼いでるで?」
智司は人間とミジンコの欠片の差という言葉に笑いを堪えていた。ミジンコは微生物な為に目には見えないが、その欠片とナイゼルは言ったのだ。最早、どれだけ小さいか想像すら困難だった。
「まあ、アゾットタウンもかなり人が集中してるからな。昼間から酒場で飲んだり、楽しいことしてるんやろうな~。メッチャ羨ましい生活やわ」
「俗物的な考え方ね。まあ、生活の心配せずに遊びにお金を使えるって理想ではあるわよね。人間なんて、その生活を求めて生きてるんだろうし」
リリーはナイゼルの言葉に多少は反論しつつも納得していた。智司も納得している。人間は自らの生活基盤を安定させる為に働くのだ。それはどのような世の中だろうと変わりはない。例え異世界であってもだ。
「それにしても、アゾットタウンは私も初めて行きますが……少し、楽しみですね」
そんな時、サラは怪しく笑っていた。彼女は最高クラスの冒険者が集まるとされているアゾットタウンに興味を示しているのだ。評議会序列10位のプライドといったところだろうか。
「ですよね~。私も興味深々ですよ。アゾットタウンで大した冒険者が居なかったら、拍子抜けもいいところですし」
リリーも同じ気持ちなのか、両手を後頭部に回しながら話していた。彼女も相当に楽しみにしているようだ。
「リリーはプロの冒険者を見たことはあるの?」
「そうね、私の出身はコムズレイ女王国なんだけどさ。そこでは何組かの冒険者は見たことあるわ。中堅以下くらいの人たちで、私よりも弱かったけど」
「なるほど、プロの冒険者を見た上での発言だったのか。ほら、以前の自分の方がプロよりも強いって言ってたの」
「当たり前じゃん。実証もなく自信を持つほど馬鹿じゃないわよ」
仲良さそうに話す智司とリリーの二人。同じ歳であるからか、彼らの会話は非常に自然だ。隣に座るサラとしては、少し気になるところでもあった。
「仲が良い。……そうですよね」
「なんや、言いたいことあるなら、はっきり言った方がいいんちゃうか? 後悔しても知らんで?」
「な、なんのことですか?」
ナイゼルの冗談めいた言葉に、サラは慌てていた。恋……とはまだ違う何か。それを意識し始めたサラは何となく恥ずかしくなり、馬車の窓から空を見上げる。
ソウルタワーは少しずつ近づいており、まだはるか彼方ではあるが霧の中にその微かな影を捉えられるところまで来ていた。
彼ら4人を乗せた馬車はそんなアゾットタウンに向けて順調に歩を進めていた。
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