上 下
25 / 126

25話 課外活動 その1

しおりを挟む

「しまった……」
「え、えっと……」

 サラはもじもじと身体を震わせながら、智司から目線を逸らしている。場所はランシール学園のSランク教室だ。智司は少し固まった表情になっており、目の前のサラ・ガーランドは顔を赤らめている。

 周囲の生徒たちも何事かと彼らに目線を合わせていた。近くに居た、リリーとナイゼルも同様だ。

「なんだ、相沢? てめぇもしかして、サラ・ガーランドに惚れてるのか? ふはははは! これは傑作だな!」
「ま、待て……! ……そ、そういうわけでは……!」

 同じく近くに居た、デルトがからかい半分の顔をしながら、智司に対して言葉を発した。周囲の生徒たちは必死に弁解しようとしている智司に半笑いの表情を見せている。どうしてこのような状態になったのか……。原因は数分前、サラが教室に入ってきたところから始まった。


------------------------


「サラさん!」
「えっ? 智司くん?」

 ヨルムンガントの森の一件から数日。サラの姿が見えない為に、不安が募っていた智司であったが、彼女は特に怪我をしている様子はなく、教室に現れたのだ。

 周囲の者達からすれば、いつものサラの光景であったので、別段不思議はないのだが、事情を把握している智司は違っていた。

 彼女の前に現れると、告白でもするかのような勢いで話し始めたのだ。

「サラさん! 無事だったんですね?」
「えっ? 無事って……なにに対してでしょう?」

 智司はこの瞬間、不味い発言をしてしまったと思い至る。この数日間でも評議会のメンバーが死亡したという情報は流れていなかった。おそらくは公式では明らかになっていない事態と言えるだろう。それだけに、彼女への言葉が矛盾してしまうのだ。サラも怪訝な表情で智司を見ている。


「あ、いえ……南の森へ調査に行ったとは聞いていたので……」
「そうですか……」

 サラの表情は暗くなった。それだけで智司は理解した。レドンドが逃がした人物はサラに間違いないと。自らの住処を襲われかけた上での正当防衛のような撃退であったと自負はしている智司だが、サラの心情を察知すると、少し複雑な気持ちになっていた。

「あそこは突然変異の魔物も出るって聞いていたので。サラさんが無事で良かったです、本当に……」
「え? ええ、ありがとう……。で、でも智司くん……あの、その言葉は……」
「えっ?」

 智司は、なぜか顔を赤くして目を逸らしているサラを不思議に思っていた。この言葉が周囲への勘違いの元になったとは、少しの間、分からない智司であった……。



---------------------




 智司は困惑していた。一度話した言葉を否定するのは難しい。彼女を心から心配していたのは事実である為だ。

「ちょ、智司?」
「リリー? な、なに?」

 リリーの焦ったような声。めずらしい声色であった為に、智司は何事かと思い彼女の方向へ振り返った。

「え、えと……どういうつもりよ?」
「な、なにが?」

 智司はリリーの言葉を理解できなかった。思わず聞き返してしまう。

「だから……智司ってサラさんのこと好きなの?」
「あ、いや違う……そりゃ、好きか嫌いかで言えば好きだけどさ……」
「智司くん……そ、それは……? いえ、智司くんにそのように言ってもらえるのは嬉しいですが」

 恋愛経験のないサラはさらに顔を赤くした。特に嫌な表情をしていないことが、周囲をより面白くさせている。智司の言葉を勘違いしている節は多分にある態度ではあるが、智司もなんとなく泥沼に嵌っているような感覚になっていた。

「智司……そ、そうなんだ……」
「いや……あの、勘違いしてるような気がするんだけど……」

 暗い表情になっているリリーに智司は悪いことをしたのかと思い言葉をかけた。だが、彼女に智司の言葉はあまり伝わっていない。

「ほほう、これはこれは。三角関係の様相を呈しとるな」

 ナイゼルは一人、冷静に状況を分析し、事態を楽しんでいた。そう、智司とサラ、リリーの3人は下手をすると三角関係のような仲になりそうであったのだ。智司はまだ気づいていないが、ある意味では彼の求める充実した生活と言えるだろう。


 そんな時、教室内にトム教官が入ってくる。ホームルームなどを始めるわけではなく、いきなり智司たちを呼び出した。

「智司、ナイゼル。あとは……そうだな、リリーとサラも来てくれるか?」
「えっ、俺達ですか?」
「そうだよ、急いで教官室まで来てくれ」

 突然入ってきたトム教官からの呼び出し。特に心当たりはない彼らは、一体何事かと訝し気な表情にもなっていた。


---------------------------------


「課外授業?」

 智司達は教官室で聞かされた内容に、同時に声をあげた。ナイゼルやサラはそこまで驚いていないが、入ったばかりの智司とリリーは驚いている。

「ああ、将来的に就く確率の高い職業がどういったものか……それを含めて確認に行ってもらうことだ。課外授業ってよりは、見学会って言った方が正しいかもな」

 トム教官は明るく言ってのけた。智司達4人で泊まり込みで職業見学会に行って来いということである。さらに、その場所は……。

「場所はアゾットタウンだ。冒険者組合もその街には存在しているし、丁度いいだろ」

 アゾットタウン……智司としては聞き覚えのない単語ではあるが、ナイゼルは頭を抱えていた。

「よりにもよって、ソウルタワーの麓の街ですやん。どういう意図があるんですの? 普通はサーバン共和国の首都である、モンバールに行くんが普通でしょ」

 ナイゼルも怪訝な表情を見せていた。課外活動として、見学会は定期的に行われているが、ソウルタワー攻略の拠点である、アゾットタウンに行くことはめずらしいことであった。

「お前ら4人なら、良い刺激になるんじゃないかと思ってな。あそこは冒険者でもトップクラスの連中が集う街だ。お前らの実力的にも見合う場所だろ?」

 トムの提案は智司達、4人の実力を認めてのものだ。そこそこの強さの者には決して提案しない事柄。如何に彼が、4人を認めているかが分かる内容であった。

「まあ、中途半端な冒険者見てもしょうがないもんね。見学するなら、有名な冒険者の方が参考になるわ」

 リリーはトムに感謝しつつ、自信満々に言ってのけた。彼女の自信がよく表れている発言だ、リリーは並みの冒険者に実力で劣るなど微塵も思ってはいない。

「ああ、それで俺の師匠が在籍している「ランカークス」って冒険者チームを訪ねるといい。話は通してあるからよ」

 以前に聞いたトム教官の師匠の話。その師匠が道案内の役割をしてくれるというわけだ。

「ランカークスって……かなりの有名冒険者パーティやん。トム教官ってあのチームと仲良いねんな」
「まあな。俺の師匠が在籍してるってだけで、ランカークスのチーム自体とは面識はないけどな。まあ、ランカークスは塔の攻略組の中でも上位に存在しているチームだ。その点でも刺激になると思うぜ」

「確かに、刺激になりそうですね」

 サラもトム教官の言葉には肯定的であった。智司としても、プロの冒険者がどういった連中なのかを把握することには賛成であった。異論を唱えるつもりはない。ないのだが……泊まりでの4人旅。先ほどの、サラとの微妙な空気もあるだけに、どうしても意識してしまう智司。

「ああ、念のため言っとくが、変なことはするなよ? 一応、お前ら若いんだからよ」

 トム教官は智司たちに先回りをする形で釘を刺した。その言葉に真っ先に反応したのはサラだ。

「な、なにを言ってるんですか、教官! そんなこと起こらないです……!」
「そ、そうですよ……!」

 サラに釣られるようにして言葉を発したのは智司だ。思わず、サラの方向を見てしまった。彼女も彼を見ていたようで、お互いの視線は交差する。

「あ、いや……」
「え、ええ……」

 二人は顔を赤らめながら視線を外した。それを見た教官は苦笑いだ。彼らの微妙な空気を察知したのだ。

「おいおい、お前らのその反応……満更でもないってことか? ガキが色気づきやがって。間違いを起こしてもいいが、程々にな」

 意外にも肯定的なトム教官の発言。なんとなく応援しているようにも感じられた。智司とサラは余計に恥ずかしくなってしまう。

「避妊はしておけよ」
「どういう意味ですか!」

 トム教官の度を越した発言。智司とサラは同時に彼に叫んだ。二人の顔はリンゴのように真っ赤になっている。そんなやり取りを、リリーは口を尖らせて見ていた。


「ちょっと……なんか、釈然としない……」
「おいおい、なんかおもろい事態になりそうやんけ」

 リリーとナイゼルも各々口を開いた。前途多難な職業見学会。それぞれの恋愛的なことも含めて、先が思いやられるものとなっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

追放されたギルドの書記ですが、落ちこぼれスキル《転写》が覚醒して何でも《コピー》出来るようになったので、魔法を極めることにしました

遥 かずら
ファンタジー
冒険者ギルドに所属しているエンジは剣と魔法の才能が無く、文字を書くことだけが取り柄であった。落ちこぼれスキル【転写】を使いギルド帳の筆記作業で生計を立てていた。そんなある日、立ち寄った勇者パーティーの貴重な古代書を間違って書き写してしまい、盗人扱いされ、勇者によってギルドから追放されてしまう。 追放されたエンジは、【転写】スキルが、物やスキル、ステータスや魔法に至るまで何でも【コピー】できるほどに極められていることに気が付く。 やがて彼は【コピー】マスターと呼ばれ、世界最強の冒険者となっていくのであった。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる

けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ  俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる  だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

転生鍛冶師は異世界で幸せを掴みます! 〜物作りチートで楽々異世界生活〜

かむら
ファンタジー
 剣持匠真は生来の不幸体質により、地球で命を落としてしまった。  その後、その不幸体質が神様によるミスだったことを告げられ、それの詫びも含めて匠真は異世界へと転生することとなった。  思ったよりも有能な能力ももらい、様々な人と出会い、匠真は今度こそ幸せになるために異世界での暮らしを始めるのであった。 ☆ゆるゆると話が進んでいきます。 主人公サイドの登場人物が死んだりなどの大きなシリアス展開はないのでご安心を。 ※感想などの応援はいつでもウェルカムです! いいねやエール機能での応援もめちゃくちゃ助かります! 逆に否定的な意見などはわざわざ送ったりするのは控えてください。 誤字報告もなるべくやさしーく教えてくださると助かります! #80くらいまでは執筆済みなので、その辺りまでは毎日投稿。

異世界転生でチートを授かった俺、最弱劣等職なのに実は最強だけど目立ちたくないのでまったりスローライフをめざす ~奴隷を買って魔法学(以下略)

朝食ダンゴ
ファンタジー
不慮の事故(死神の手違い)で命を落としてしまった日本人・御厨 蓮(みくりや れん)は、間違えて死んでしまったお詫びにチートスキルを与えられ、ロートス・アルバレスとして異世界に転生する。 「目立つとろくなことがない。絶対に目立たず生きていくぞ」 生前、目立っていたことで死神に間違えられ死ぬことになってしまった経験から、異世界では決して目立たないことを決意するロートス。 十三歳の誕生日に行われた「鑑定の儀」で、クソスキルを与えられたロートスは、最弱劣等職「無職」となる。 そうなると、両親に将来を心配され、半ば強制的に魔法学園へ入学させられてしまう。 魔法学園のある王都ブランドンに向かう途中で、捨て売りされていた奴隷少女サラを購入したロートスは、とにかく目立たない平穏な学園生活を願うのだった……。 ※『小説家になろう』でも掲載しています。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

処理中です...