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7話 ランシール学園 その4

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「へえ、結構似合うじゃん。馬子にも衣装って言いたかったのに」
「その言葉使いたいだけだろ」
「あはは、言えてる」

 試験から二日が経過していた。智司とリリーの二人は学園の制服を着た状態で、学園の入り口に立っている。ブレザー姿ではあるが、二人共、黒色のブレザーを着用しており、傍目から見ると、リリーはセーラー服のように見えなくもない。リリーのスカートの丈も非常に短く、智司としては視線に困るところだ。

「私の学生服だけどさ、結構可愛くない? 丈が短いのが気になるけど」

 そう言いながら、リリーは元気よく回転してみせる。スカートがなびく度に視線を逸らす智司。意外と小心者の表れであった。

「う、うん。可愛いと……思う」

 智司は小さな言葉で言うのが精一杯だった。リリーはそんな言葉も聞き取っていたのか、にっこりと笑いながら回転を止める。

「二人とも入学出来て良かったわね! しかもSランク合格だし!」
「ああ、本当にね……俺の楽しい計画が最初から頓挫するところだった」
「楽しい計画?」
「いや、こっちの話」

 智司は心底安心したような表情をとっていた。実際に彼は、パワーマシンなどを破壊するという行為の為に、数値参考不可としてEランク入学や入学拒否もあり得たのだ。

 しかし、そういった意見が出る中、トムを始めとした試験官が彼の強さは証明されているとして抗議。見事にSランク合格となったのだ。


「トムって先生? には感謝よね。あいつ、私のスカートばかり見てたエロオヤジかと思ったけど。結構、しっかり見ていたみたいだし」

「確かに。本当に感謝したいよ」

 智司はこの二日間は近くの宿に泊まっていた。資金については、ハズキが事前調査の為にデイトナに訪れた際に調達している物を使ったのだ。住居にしている館には相当量の金貨などが遺されていたが、そちらにはまだ、手を付けていない。

「んじゃ、行きましょうか。どのみち同じクラス……ていうより、Sランクの教室は1つだけだしね」
「ああ」

 二人はそこまで話し終えると、ランシール学園内に入って行った。

 5000人を超えるランシール学園内はランク制が採用されており、それぞれ実力順でS~Eランクに分かれている。それぞれ幾つかの教室に分かれているのが普通ではあるが、Sランクに選ばれている者は30人程度しかいない為、1つの教室で賄っているのだ。

 リリーと智司は受付の女性に連れられて、3階の教室の前まで来ていた。左側は強化ガラスにより、グラウンドが一望できる。備え付けの設備は射的のような物から、剣術の木人、大砲のような物まであり、通常の高校とは明らかに異なっていた。

「ここがそうよ。既に入る許可は頂いているから。それにしても……あなた達、二人共Sランクなんて凄いわね」

 入学の際に初めて話した彼女は、智司のことを鮮明に覚えていた。リリーとも面識があるのか視線も時折、彼女に向かう。

「はい、おかげ様で。合格することができました」
「よかったわね。私は受付嬢のリンナと言うの。わからないことがあれば、いつでも声をかけてくれて構わないわ」

 そう言うと、リンナは手を振りながらその場から去って行った。

「なかなか良い人そうで安心かな」
「そうね。よ~し、それじゃあ早速、たのも~~~~」
「それ、流行ってるの?」

 リリーは元気よくSランクの教室の扉を開けた。

「おう、来たか……」
「ん? ああっ! エロオヤジ先生じゃん!」

 最初にリリーと智司を出迎えたのは、試験官として面識のあったトムだ。黒髪をボサボサにしており、口髭もだらしなく生やしている。ワイシャツのような服を着ているが、胸の辺りからは濃い毛が見えていた。

「誰がエロオヤジだ……ガキに興味なんてねぇよ」
「うっそだ~。私のパンツ見ようとしてたくせにっ」

「くっくくくく……!」

 トムとリリーの会話を聞いていた教室の生徒たちは、所々で笑い声やひそひそ話を始めていた。リリーと智司の入学は事前に伝えられており、その時の試験結果も、ある程度は伝えられている。智司は自分たちへの視線が非常に強いことを実感していた。

「静かにしろ、既に伝えてある通り、この二人が今回の入学者だ」

 トムはリリーとの話をすぐに打ち切り表情を変えた。その時の威圧感は、試験官の時とは一線を画している。ひそひそと話していた者達もすぐに静まった。

「ま、適当に自己紹介でもしてくれ」
「じゃあ、私から。リリー・シリンスです、よろしくねっ。あ、友達とか彼氏も募集中です。彼氏は出来たことないけど」

 リリーの魅力に溢れる自己紹介。普通の女子がこれをやると引かれる可能性があるが、彼女ほどの美人であれば別であった。何人かの者が黄色い歓声のような物をあげている。

「相沢智司です……珍しい名前だと思いますけど。あ、智司が名前です」

 智司はそこまで緊張はしていなかったが、特に話すこともなかったので、軽く挨拶だけを済ませた。

「んじゃ、席だが……つっても決まった席なんてないからな。適当に座ってくれ」
「うっわ、適当……」
「うるせぇよ。ここは普通の学園じゃねぇんだ」

 智司は席に目をやる。大学の講義室のような長机が階段のように段差を付けて並べられている教室だ。30数名程度の生徒では全く埋まっておらず、どこにでも座れそうだ。


「しょうがないわね……智司、どこに座る?」
「えっ? 一緒に座るの?」

 リリーからの突然の言葉に智司は驚いた。彼女は智司の隣に座る気でいたからだ。

「別にいいじゃん。それとも一緒に座るの嫌とか?」
「そ、そんなことは全然ないけど……」

 智司は咄嗟のリリーの提案……いや、自然と出て来た言葉を否定しそうになったことを悔やんでいた。そうだ、これはチャンスなのだと。彼の充実した学園生活の始まりはとっくに告げているのだ。いきなり失敗して、リリーを遠ざけるのは、とてつもなく勿体ない。

 智司は高速回転した頭を整理して、リリーに話しかけた。

「じゃあ、適当に端の方にでも座ろうか」
「そうね」

「お~い、こっちに座り~や!」

 智司とリリーが端の席に移動しようとした時、反対側の生徒が一人、立ち上がった。リリーと同じく金髪の生徒だが、やや黄色がかっている。細い目をした長身の男だ。髪の長さは耳を覆う程となっており、それなりの長さをしていた。

関西弁のような口調に、智司は懐かしい雰囲気を覚えていた。大きな声と相まって、自然と脚がそちらに向かう。リリーも彼に付いてくる形でその男の隣に座ることになった。席の位置としては右斜め上の最後尾の窓際だ。

「あんたは何?」
「俺はナイゼルや、ナイゼル・シュミットや。よろしゅうな」

 ナイゼルと名乗った関西弁の男はニコニコとした口調で智司やリリーに挨拶を求めてきた。若干の胡散臭さはあったが、智司も彼と握手を交わす。

 それから程なくして、トムは教室から出て行った。それを確認してから、他の生徒からもざわつき始める。

「ここはどういう授業を受けるんだ? 普通はすぐに始まるんじゃないのか?」

 ホームルームなどもなく、トム自身もすぐに戻って来る気配はない。教室内は自由時間のような雰囲気になっており、智司の知る学校とは別物だ。それだけに不安感が襲ってきていた。

「そういえばそうよね。授業の進行とかどうするの?」
「ま、そう焦らんでも大丈夫やて。ここは学園最高峰のSランクが集う場所やで?」

 ナイゼルはなにを思っているのか、挑発的な視線を智司とリリーに向けている。敵意が感じられるわけではないが、獲物を見るような目つきだ。智司はそれと同時に、他のSランクの生徒たちもこちらを注視していることに気付いていた。

「あんたら二人は適正試験で凄まじい点数を出したそうやな? 聞いてるで?」

 既にナイゼルは全てを知っているような口調だ。こちらの答えを待つことなく話を続ける。

「リリーやったっけ? そっちが体力試験で1200? 1500とかの数値出したみたいやん」
「へえ、既に知ってるんだ。エロオヤジ先生も口が軽いみたいね」
「ああ、トム教官やない。適性試験の数値は廊下に貼りだされるからな。それがここの決まりや……で、そっちの智司、でええんか? お前はパワーマシンとかを何台も壊したらしいな。そんな奴は前代未聞やで?」

 智司だけでなく、リリーも教室内の空気が変化していることは理解していた。ナイゼルを含め、他の30名程度の者達は学園内でトップクラスに居る者達。当然、それ相応の誇りなどを持っている者達。

 突然現れた、智司とリリーの存在をどのように感じているかなど、一目瞭然でもあったのだ。この時、智司には一触即発のイメージさえ感じられていた。
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