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13話 剣術勝負 その2
しおりを挟む「くそっ! くそっ!」
身体能力の根本的な違い……それを理解してしまったミュヘルは、基本的な型すら忘れて、パトリックに斬りかかっていた。もちろん、そんな攻撃がパトリックに当たるわけはなく、全て空振りになっている。
「王子殿下……俺は見世物をしたいわけじゃない。そろそろ、終わりにしませんか?」
パトリックなりの優しさだ。彼も王子を斬りつける行為はしたいわけではない。挑発に乗ったパトリックではあるが、少し後悔をしていた。
「ふざけるなよ、下民が! 誰に向かって口を聞いている!? おら、来いよ! 余裕で勝てるなら、実力で証明してみせろ!」
「……わかりました」
パトリックは一言そう言うと、踏み込みを強めた。ミュヘルの斬りかかりのカウンターで出すようなタイミング……最早、彼に避けられる術はない。勝負はパトリックの圧勝に終わる……はずだった。
「……うっ!?」
その時、パトリックはわき腹の辺りに激痛を感じた。ミュヘルに攻撃するはずだった一撃は途中に終わり、その場で片膝をついてしまった。
「ぐっ……!」
「どうした? さっきまでの威勢が消えているじゃないか……ははははっ、滑稽だね」
「……」
おかしい……パトリックは考える。ミュヘルの模擬刀の一撃は喰らっていない。だが、脇腹にはたしかに激痛が走った……。魔法の類は確認できなかったので、別の攻撃ということになる。やはり、攻撃をしたのはミュヘル自身か。
「……少し油断しました」
「ふん、なにが油断だ。その調子に乗っている顔に泥を塗ってやるよ」
周囲には貴族たちギャラリーが多い。あのカウンターを狙ってピンポイントで射撃などは難しいだろう。パトリックは一つの答えに行きついていた。
「……行きます」
「来いよっ!」
パトリックはさらに身体を加速させた。ミュヘルが絶対に反応できないほどの速度だ。彼は模擬刀を振りかぶる余裕すら生まれていなかった。
「くそっ!」
思った通り……彼は模擬刀を振りかぶる動作とは明らかに違う動きに変わっていた。剣での動作が間に合わない以上は、いきなりそちらに頼るしかない。
「……これが、俺の脇腹を撃ち抜いた正体ですね……王子」
「……なっ!? ば、馬鹿な……!」
パトリックはミュヘルの間近で攻撃を止めていた。彼の別の動作の正体を知る為に、そちらの解明に全神経を集中させたのだ。自らの脇腹を撃ち抜いた物の正体は小さな鉄の塊。ミュヘルの両腕に仕込まれた射出機から撃ち出された代物であった。
周辺の貴族たちも何が起きたのかとざわついている。ミュヘルはイカサマをしていたのだ。
「く、くそ……! お前……!」
「……汚名返上はご自分で行ってください。あなたを庇うほど、俺も人間はできていないので」
パトリックは剣術勝負を台無しにしたミュヘルに怒りを覚えていた。最早、彼の中で遠慮という文字は消えている。上段から強烈な一撃をミュヘルに浴びせ、勝利をもぎ取った。
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