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9話 舞踏会 その3

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 貴族街の庭園の一区画に設置されている大きなホール。その中が舞踏会の会場となっていた。中に入ったエルザとパトリック。パーティは既に始まっている。


「もう始まっているんだ……特に合図とかもなしに」


「主賓の挨拶……結婚式とかだとあるけど、定期的に開催される舞踏会は省かれることもあるわ」


 なるべく一般人にも開放的なパーティを謳っている為、堅苦しい雰囲気は排除する傾向になっている。そうは行っても早々たるメンバーが揃う場ではあるので、凄腕の執事たちが警護には当たっているが。この時点で庶民的からはかけ離れていた。


「おお、これはこれはエルザ様。相変わらずお美しいですな」


「ありがとうございます、ニルモド伯爵。伯爵もお召し物がとてもお似合いですね」


「エルザ殿、本日は晴天に恵まれて……」


 何名かの有名な貴族たちが、エルザと挨拶を交わして行く。パトリックとは縁がないので素通りではあるが、彼を卑下する者は居なかった。舞踏会が一般に開放されて、何年も経過している。その中で貴族たちの考えも変わっていったのだ。

 パトリックは自由に食べ物などを選べている。もう少し窮屈なパーティになると予想していただけに、嬉しい状況ではあった。


「パトリック、勿体ないからどんどん食べていきましょう」

「庶民的な考えだね、エルザ……」


 おそらくパトリック以上に庶民的な貴族令嬢、エルザ。テーブルに並んだご馳走を片っ端からつまみ食いしていく。パトリックもその姿には苦笑いを隠せなかった。



「おやおや、エルザじゃないか」


「えっ……あ、ミュヘル王子……」


 それなりの勢いでつまみ食いしていたエルザの表情が変化した。少し前に婚約破棄をされた相手ではあるが、それまではステータス的に、憧れていた相手でもある。どういう表情をしていいのかわからず、エルザはとりあえず笑顔を作った。


「ミュヘル王子、ご無沙汰しています」

「ああ。冒険者として登録したという話は聞いているよ。なかなか頑張っているみたいだな。まあ、お前の強さなら、冒険者がお似合いかもしれないが……」


 ミュヘルは少し棘のある口調で話しているが、エルザはあまり気にしている様子はない。パトリックはこの状況がなんとなく気に入らなかった。


「ミュヘル王子殿下。私も挨拶をさせていただいてもよろしいでしょうか?」

「ああ、構わない。ここは民衆にも開放されている場だからな」


 パトリックは心の中に生まれたわだかまりの正体に気付いていなかった。だが、エルザがミュヘルに、笑顔を向けたことがきっかけだ。嫉妬になるのだろうか。


「エルザの冒険者パートナーである、パトリック・ジーンと申します。以後、お見知りおきを」


 パトリックは宣戦布告とばかりに、ミュヘルに高らかに挨拶をした。

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