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闇
しおりを挟む「しゅ、ん」
虚空に向かって手を伸ばす。その手を握りしめるもそこには勿論何もない。この傷は致命傷となる。ここで死ぬ。
(けれど、ここで死んだら。俊には会えない)
生きていればまた会えるかもしれない。もしかしたら翔が自分も共に地球へ転送してくれるかもしれない。なら、その可能性が少しでもあるのなら。
「私は、死ねない!」
虚空を掴んだ手は自分の心臓に向け、手の中に光を満ちさせる。
「完治の光!」
白は力一杯に光を出す。この完治の光はその名の通り生物の傷をいかなる傷であっても完治させるものだ。その代わりにかなりの体力を消費するが、背に腹は変えられない。
「まだやるつもり!無駄だよ!」
トドメを確認するまでは宙に浮かせていた血の剣を操作して白に斬りかかる。この剣は血で出来ているので消滅の光でも消せないし、反射の光でも対策は出来る。
「俊足の光!」
しかし白はそのどちらもせずに攻撃を回避した。
「剛腕の光!叡智の光!そして、防壁の光!」
自分に二つの光を纏わせ放ったのは防御する為の光だった。しかしその防壁はメイの血の様に宙を舞い、桜とメイに襲いかかった。
「これはっ!恭平とおんなじやつ!?」
「そうね、でも。氷結の壁!」
白に対抗して桜も同じ攻撃で光と氷がぶつかる。その力はどちらも同じで打ち消し会い、相殺した。白はそれでも構わず何度も防壁を放ってくるが桜も何度も相殺する。
「メイもいるんだぞ!」
メイも負けじと血の剣を分解させて短いを二本へ変形させて白本体を狙う。が、先程の自分強化の光によって身体能力が高まった白は攻撃を全て躱していく。
「どうしてよ、どうしてそんなに抵抗するの」
「はぁ?そんなの死にたくないからに決まってるじゃない。あとパパを助けなきゃだから」
「なら、これならどうかしら!」
白が防壁を自らの意思で消すと次は腕から少し黒ずんだ光を放出した。
「あれは!?メイ!あれに当たってはダメ!」
「それくらいは分かってるよー!」
「これも避けるの?これなら死んだりはしないじゃない!」
白の放つ光は破魔の光。光を浴びたものの能力を消し去るという能力だ。
「能力が無くなったら戦えないからに決まってる。アホになっちゃったの?」
「能力がそんなに必要?あなたには家族がいるのだから、他には何もいらないじゃない!!」
白は目から涙を流しながら光を全方向に、ありったけの力で放つ。
「メイ!ジグス起動、能力殺し!」
その光は避けられないと一瞬にして判断した桜はメイを抱えてジグスを起動した。そして出てきた球体を地面に投げつけた。この能力殺しは強い衝撃により発動して、一度だけ能力を防ぐ事が出来るジキルの自信作だ。
「・・・あいつのあの変化。一体何なの」
「家族がどうとか言ってたね。その前に俊とかも」
「俊、家族」
桜が思考を働かせると、破魔の光が消える。そして、酷い息切れをする白が見えた。
「あなた、もしかして子供がいるの?」
「ハッ!あなたに当てられるなんて、私もだめね。ええ、刈谷俊。私の息子で、私の宝物」
「なるほど。なら状況は分かった」
「分かった?今もなお娘と共にいる貴方に何が分かると言うの!!」
白の怒りは遂に頂点に達し叫ぶ。その叫びは以前までの白なら考えられない様な怒りだ。
「息子に、俊君に会いたいのでしょう。なら、取引をしない?」
「取引、ですって?」
桜は少しだけ笑って白に手を差し伸べる。しかしその笑いは白がいつも感じていた嫌な笑いではなく少し優しい笑みに感じた。
「ええ。内容は私達と共に勇者長、黒瀬翔を倒す事よ」
「は?何を言っているのか分からないわ。どうして私が」
突然の桜の提案に白は目を丸くする。その気持ちは大いに分かる。桜とていきなり悠馬を裏切れと言われたらこうなる。だから
「あなたの目的は、地球の日本に帰って俊君と暮らす事。そして黒瀬翔の目的は地球の侵略。絶望的に噛み合わないでしょう?」
「え、ええ。本当ね?」
「だから黒瀬翔を倒す。そして私達はこの世界を救い、貴方は転送装置で地球の俊君の元へ帰る」
「おお!確かにそれならウィンウィンの関係って奴だね!」
白はこの取引の内容を聞いて呆然としていた。内容は理解している。それが白にとっても有益な取引になる事も理解出来た。だが、悩んでしまっている?嫌、取引など言語道断。絶対にこの女達を殺さなければならないと、考えてしまう。
「どう?私達と共に戦いましょう?」
魅力的な取引だ。彼女達に協力すると一番大切な息子に会える。なら
「分かった。私、その取引に応じる」
「ダメじゃないか。そんな悪魔の取引をしちゃあ」
白が取引に応じる寸前で邪魔な声が入った。その声は黒い空間から突然聞こえて来て、そのまま声の持ち主が姿を見せる。
「黒瀬翔!」
「翔、様」
桜と白の様子を見た後翔は白の髪の毛を掴み耳元で囁いた。
「彼女達が本当に君を日本に連れて行ってくれるのか?怪しいよな。だってさっきまで殺し合ってたんだぞ?それにお前は悠馬を洗脳した。あいつらにとっての悠馬はお前の息子と同じ様な物だ。そんな物を取られかけた女に手を貸す?怪しいよな?それにだ。お前は被害者ぶっているが違うぞ?お前は加害者。俺と同類だ。だってそうだろう?息子に会う為だからと言って何人嬲った?何十人苦しめた?何百人、何千人殺した!?そんな真の被害者達が、お前だけが幸せになる事を赦してくれるとでも?」
声は静かだ。桜にもメイにも聞こえない程小さな声。声は穏やかだ。爽やかな何も苦しみなどない人の様な清々しい声。だが、声はうるさく、大きく、残虐で、白を殺してしまう声だった。
「そいつから離れなさい!」
「ほら見ろ!攻撃してきた!彼女らはお前を赦していない!お前は利用するだけ利用された後殺されるのさ!」
「はぁ!?確かにそのババア、白は許せない事をしたけど罪を償えば許してあげるし!しっかり反省すればだけどね!」
「デミヒューマンの反省とはハラキリの事か。恐ろしいな。それと慈悲深いギロチンかもしれないな。良かったなー白。一瞬で苦しまずに死ねるぞ」
桜の行動、メイの発言それら全てを悪い方向へと変化させながら翔は囁きを止めない。
「苦しいなぁ!辛いなぁ!恐ろしいなぁ!!なら、その恐怖から!俺が救ってやろう!!」
翔が手を空へ掲げるとその手には黒い球体があった。そしてその球体を桜とメイに投げると黒い煙を大量に撒き散らした。
「煙幕!?どういうつもり?」
「直接攻撃して来ない?でもこれならまだ取引続けれるかも」
桜とメイが必死に取引をする事にも理由は勿論ある。黒瀬翔が強すぎる事だ。以前戦った時は疲労などもあったとはいえ全く何も出来なかった。そんな相手と戦うのだから、戦力は少しでも多い方が良いのだ。その戦力が白だというのなら更に心強い。
「お願い!私達に力を貸して!」
「虫がいいのは分かるよ!でもメイ達だけじゃもしかしたら負けちゃうかもなの!」
今は翔は白の近くにはいない。何故か煙幕を置いて元の場所へと帰って行った。なら白にも二人の率直な思いが聞こえるだろう。
「そんな、やはり翔様の言う通りだったのね!」
「へ?どう言う事?」
「貴方達は悪魔よ。やはり、甘い言葉は危険だわ!ここで、殺さないと!!」
白の目に映るのは恐怖。二人の言葉がまるで違う言葉に聞こえているかの様に振る舞い、恐れ、翔が置いて行った杖を構える。
「この煙幕、まさか!」
「幻覚症状を起こす煙って事!?メイの幻想世界の煙版!」
「殺すしかない。殺さないと殺される!まだ死ぬ訳には!俊に会う為に!!」
白の心が壊れたと同時に、白の体から大量の闇が溢れる。この闇は使いこなせば力を得る事が出来るもので、使いこなせないものには死を与える激毒。
「白には使いこなせるが、使う気がない。ならば。心を壊して無理やり使わせる。そして奴等を殺してしまおう」
「ァァァァァァァァハハハハハハァァァァ!!」
「そんな。体が、黒く!」
闇に完全に支配された白の体は全身が真っ黒に変化し、理性を完全に失っていた。
「やるしかない。メイ!」
「うん!ここで殺すんだね。息子には会わせてあげられないけど、許してよ!」
闇を放つ白と桜、メイが戦いを始めるのを見ると翔は大声で笑い出した。
「アッハハハハハ!馬鹿だなぁ。とても無意味な事で取引をして、更に破られる。実に無様だ」
「何がそんなに可笑しいんだ?」
「何って、既に死んでいる息子に会いたいが為に息子を殺した男に身を委ねて忠誠を誓ったんだぞ!?更に死に様さえ決められているなんて!滑稽以外の言葉があるか!?なぁ!弟よ!!!」
玉座にどっしりと腰を掛けながら大声で笑う翔に悠馬は無言で剣を向けた。
「やる気満々だな。そんなに俺を殺したいか?でも止めておこうぜ。だってお前、俺に勝った事一度もないだろ?」
「ああ。でも、今回は絶対に勝つさ」
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