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男の意地

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「ぐえ!いっつつ。随分と遠くに吹っ飛ばされたな」
 恭平が槍悟に吹き飛ばされた場所の周囲を見る。少し太い木が適度に生えている所を見ると林と言う言葉が似合う場所だ。
「ここにいたかケルベロス」
「斎藤槍悟」
 恭平が木に触ると林の奥から声が聞こえた。槍の勇者の槍悟だ。
「俺を悠馬達の場所に行かせろって言いたいんだが、行ってもいいか?」
「言うだけなら構わないぜ?ただ、行かせるかどうかは別の話ってな」
 恭平が三つの盾を慎重に空中に浮かせて槍悟は自分の腕の中で槍を振り回す。その槍の回転が止まると同時に、戦闘が開始された。
「うおおおお!」
「はぁぁぁぁ!」
 槍悟の槍と恭平の盾がぶつかり合う。その結果は槍悟の方が強く盾は恭平の元へと飛んで戻っていく。
「まだまだ!」
 恭平は飛んできた盾を左へ避けて残った二つの盾を左右から放った。そしてその後直ぐに飛ばされた盾も頭上へと放つ。
「暴風槍!!」
「ぐっ!なんて威力だよ!」
 槍悟が叫ぶと槍には薄っすらと緑色の光が灯りそれを振り下ろす事で槍悟の周りに台風並みの暴風が吹き荒れた。
「盾は飛んだ!こいつで死にな!!!」
 槍悟の引き起こした暴風で大盾は遠くに飛ばされてしまった。その後槍悟は暴風槍を止める事なく恭平に振り下ろす。盾を失った恭平に防ぐ術はないし、避けようにも風が強すぎて絶対に避けられない。
「はっ!上等だ!俺の硬さを舐めんなよ!!」
 それ故に恭平は暴風槍を全く避けようとしない。それどころか正面から受けて立つ様にどっしりと構えている。
「アホめ。死ね!!」
「死なねえよ!!」
 暴風槍が恭平に直撃、する前に突然突風が吹き恭平を飛ばした。
「あれ?」
「何!?一瞬とはいえ暴風槍を消した!?」
 恭平と槍悟が二人とも驚き突風が吹き荒れた場所を見た。
「恭平、さん。助けにきましたよ」
「緑か!サンキュー助かった!」
「風磨緑!?そうか、お前は」
「はい。お姉ちゃんに教わって、風を使える様になりました。私も!戦えます!!」
 緑は槍悟に力強く言い放ち右腕を大きく振ってかまいたちを起こした。
「それは、美樹の」
 槍悟はその能力に少しだけ驚きながらも淡々と躱していく。
「かまいたちだけじゃねえぞ!!これならどうだ!?」
 三つ同時に飛んできたかまいたちを避けた槍悟にまたしても三つの盾が襲いかかる。かまいたちと盾の連携は完璧でその隙間に人間が入る隙などない。
「そうか。なら」
 槍悟は諦めたかの様に槍を下へ下ろした。そしてかまいたちと盾。全てに槍悟は直撃した。
「よっしゃ!」
「いえ、まだ、です!」
 手答えがあったと喜んだ恭平とは違い油断なく槍悟を見ていた緑は恭平に言った。そこには体中に黒いオーラを纏った槍悟がいた。
「破壊槍」
 その黒いオーラは槍悟の槍から発生しておりその槍に触れた木が直ぐ様壊された。
「なんだそりゃ、反則だろ!?」
「そうだな。俺もこれは使いたくなかった!」
 槍悟が大きく踏み込み槍を持ち突進してくる。その速度はかなり早かったが恭平は大盾を三つ重ねてその突進を防ぐ。
「無駄だ!!」
 槍悟の槍の黒いオーラは先端の盾にぶつかっている場所に集まる。そして少しした後一つの盾が壊れた。
「ぐっ!こ、のぉぉ!!」
「きゃっ!恭平、さん!!」
 恭平の盾も負けじと硬度を増し破壊槍と戦う。その衝撃は辺りに散り、緑は近づく事も出来ない。どちらもかなり健闘しているが槍悟の方が優勢の様に思われた。
「!!」
 その戦いは二つ目の青い盾にヒビが入った瞬間に決まった。そのヒビに恭平は少し動揺したからだ。
「死ねぇぇぇぇ!!!」
 その動揺が勝敗を分けた。勢いづいた槍悟が二つの盾を破壊して恭平を貫いた。
「がっ、は!」
「恭平さん!!」
 恭平の心臓目掛けて槍を突き刺したが恭平も咄嗟に身を捻った事により心臓ではなく左腕に槍は突き刺さっていた。
「こ、っの!離れ、やがれぇぇぇぇ!!」
「ぐっ!」
 恭平は渾身の一撃とも言える頭突きを槍悟にする。よろついた槍悟に次は回し蹴りを繰り出して槍悟を突き放した。
「痛ってぇ。っていだァァァァ!!」
「恭平さん!慈愛の風」
 恭平の傷を治そうと緑が慈愛の風を発動させるがその風は恭平の傷を癒さない。
「あれ、どうして」
 傷を癒さないどころか刺された部分から黒い痣の様なものが段々広がってくる。
「簡単な事さ。破壊槍は刺したものを絶対に破壊する槍。それはいかなる癒しも受け付けず対象を破壊する。強大な能力故数回しか使えないが、充分な成果だったと言える」
「そういうことか。ならっ!」
 恭平は右手の爪を長く伸ばして左腕を切り裂いた。
「恭平さん!?」
「刺されたのが左腕で良かった。これなら破壊の痣が侵食する前に対象出来たからな」
 恭平は苦しそうな声を出しながら立ち上がる。地面に落ちた左腕は痣が全てに広まり塵となって消えていった。
「すまねえ。止血を頼めるか?かなり血がドバドバ出る」
「は、はい!慈愛の風!!」
 今度の慈愛の風は恭平の腕をしっかり癒し、完全に止血を完了させた。
「躊躇わねえのかよ。自分の腕を切り裂くんだぞ。怖くねえのか?」
 槍悟が目を見開きながら恭平に問う。それを恭平は笑って答える。
「怖かった。痛かった。だが、こんなとこじゃ死ねねえ。俺は、家族を守る為なら、なんでもするぜ!!」
 ここで恭平が死んだら、誰が緑を守ると言うのだ。緑も強くなっている。しかし、槍悟には敵わない。なら、恭平はこんなことでは死ねない。更に言えば、地球を守り、この世界を救わねば。死んでいった同朋達との約束を果たさねば。
「だから!」
 恭平は一つだけ残った右腕を槍悟の前に出し挑発した。
「かかってこいよ。お前を倒すことくらい、片腕で充分だ」
「何だと」
 槍悟からしてみればこれは失敗だった。本来なら破壊槍を使い恭平の心臓を貫き殺す筈だったのだ。当然恭平が生きているのだから失敗。のはずだが。槍悟は何故か嬉しかった。
「いいなお前!強い精神力を持つ相手は嫌いじゃない!片腕を失って武器も失った!その状況でまだ挑発をする!?戦おうとする!?面白れぇ!!!」
 槍悟は破壊槍ではなく通常の槍を構えた。
「お前に破壊槍は使わない。正々堂々とやろう」
「俺の爪とお前の槍、どっちが強いかって事か」
 槍悟の提案に恭平は笑った。そして右手の爪を長く伸ばして黒く染める。
「恭平さん!私も」
「いや、大丈夫だ。手を出さないでくれ」
「その通り。これは言わば男と男の意地」
「「どちらの意地が強いか!!ここで決着をつけよう!!」」
 恭平と槍悟の声が重なり合う。そうだ。これは男の意地。破壊槍ではなかったとしても槍に炎や風を纏わせれば圧倒的に優位に立てる。恭平にしてもそうだ。緑と協力すればその分勝率は上がる。粘って戦っていれば悠馬達が助けに来るだろう。その方が勝率はもっと上がる。しかし、ここで槍悟と決着を着けたい。
「お互い、守るべきものがあるのにな。どうしてこんなに愚かなんだろうな。男ってのは」
 白には槍悟がついていなければならない。槍悟の守るべき者は違う男に全てを捧げてしまっている。もしその男、カケルに命を差し出せと言われれば喜んで差し出すだろう。だから、槍悟がいる。白の幸せを守る為に、槍悟は戦うのだ。
「お前にも守りたいものがあるのか。奇遇だな、俺もだ」
 魔王軍の皆は恭平がいなくなっても勇者を止め、世界を救う為に奮闘し続けるだろう。恭平があの中で一番強い訳でもなければジグスでなんでもできる訳でもなく、念話で皆を支える訳でもない。皆恭平より強い。恭平が守る必要などない程に。だが、恭平は守りたいと思う。何があっても、命に変えても、守りたいと願っている。あの輪の中で笑っていたいと、その為に守りたいと。最悪の場合でも皆の笑顔だけは守りたいと、心から願っているのだ。
「じゃあ」
「やろうか」
 だが、その様な感情を捨ててまで、この決着を望んでいる。とてつもなくアホな行動だ。一時の気の迷いだ。だが、男には、譲れない戦いがある。
「行くぞぉぉ!!」
「こぉぉぉい!!」
 守るべき者を守る為に戦う勇者と、守りたい者も守る為に戦う魔族の戦いが始まる!!
「お前ですか恭平様を傷つけたのはー!!!!!」
 始まる前に乱入してきた赤毛の少女に槍悟は吹き飛ばされた。
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