74 / 90
男の意地
しおりを挟む「ぐえ!いっつつ。随分と遠くに吹っ飛ばされたな」
恭平が槍悟に吹き飛ばされた場所の周囲を見る。少し太い木が適度に生えている所を見ると林と言う言葉が似合う場所だ。
「ここにいたかケルベロス」
「斎藤槍悟」
恭平が木に触ると林の奥から声が聞こえた。槍の勇者の槍悟だ。
「俺を悠馬達の場所に行かせろって言いたいんだが、行ってもいいか?」
「言うだけなら構わないぜ?ただ、行かせるかどうかは別の話ってな」
恭平が三つの盾を慎重に空中に浮かせて槍悟は自分の腕の中で槍を振り回す。その槍の回転が止まると同時に、戦闘が開始された。
「うおおおお!」
「はぁぁぁぁ!」
槍悟の槍と恭平の盾がぶつかり合う。その結果は槍悟の方が強く盾は恭平の元へと飛んで戻っていく。
「まだまだ!」
恭平は飛んできた盾を左へ避けて残った二つの盾を左右から放った。そしてその後直ぐに飛ばされた盾も頭上へと放つ。
「暴風槍!!」
「ぐっ!なんて威力だよ!」
槍悟が叫ぶと槍には薄っすらと緑色の光が灯りそれを振り下ろす事で槍悟の周りに台風並みの暴風が吹き荒れた。
「盾は飛んだ!こいつで死にな!!!」
槍悟の引き起こした暴風で大盾は遠くに飛ばされてしまった。その後槍悟は暴風槍を止める事なく恭平に振り下ろす。盾を失った恭平に防ぐ術はないし、避けようにも風が強すぎて絶対に避けられない。
「はっ!上等だ!俺の硬さを舐めんなよ!!」
それ故に恭平は暴風槍を全く避けようとしない。それどころか正面から受けて立つ様にどっしりと構えている。
「アホめ。死ね!!」
「死なねえよ!!」
暴風槍が恭平に直撃、する前に突然突風が吹き恭平を飛ばした。
「あれ?」
「何!?一瞬とはいえ暴風槍を消した!?」
恭平と槍悟が二人とも驚き突風が吹き荒れた場所を見た。
「恭平、さん。助けにきましたよ」
「緑か!サンキュー助かった!」
「風磨緑!?そうか、お前は」
「はい。お姉ちゃんに教わって、風を使える様になりました。私も!戦えます!!」
緑は槍悟に力強く言い放ち右腕を大きく振ってかまいたちを起こした。
「それは、美樹の」
槍悟はその能力に少しだけ驚きながらも淡々と躱していく。
「かまいたちだけじゃねえぞ!!これならどうだ!?」
三つ同時に飛んできたかまいたちを避けた槍悟にまたしても三つの盾が襲いかかる。かまいたちと盾の連携は完璧でその隙間に人間が入る隙などない。
「そうか。なら」
槍悟は諦めたかの様に槍を下へ下ろした。そしてかまいたちと盾。全てに槍悟は直撃した。
「よっしゃ!」
「いえ、まだ、です!」
手答えがあったと喜んだ恭平とは違い油断なく槍悟を見ていた緑は恭平に言った。そこには体中に黒いオーラを纏った槍悟がいた。
「破壊槍」
その黒いオーラは槍悟の槍から発生しておりその槍に触れた木が直ぐ様壊された。
「なんだそりゃ、反則だろ!?」
「そうだな。俺もこれは使いたくなかった!」
槍悟が大きく踏み込み槍を持ち突進してくる。その速度はかなり早かったが恭平は大盾を三つ重ねてその突進を防ぐ。
「無駄だ!!」
槍悟の槍の黒いオーラは先端の盾にぶつかっている場所に集まる。そして少しした後一つの盾が壊れた。
「ぐっ!こ、のぉぉ!!」
「きゃっ!恭平、さん!!」
恭平の盾も負けじと硬度を増し破壊槍と戦う。その衝撃は辺りに散り、緑は近づく事も出来ない。どちらもかなり健闘しているが槍悟の方が優勢の様に思われた。
「!!」
その戦いは二つ目の青い盾にヒビが入った瞬間に決まった。そのヒビに恭平は少し動揺したからだ。
「死ねぇぇぇぇ!!!」
その動揺が勝敗を分けた。勢いづいた槍悟が二つの盾を破壊して恭平を貫いた。
「がっ、は!」
「恭平さん!!」
恭平の心臓目掛けて槍を突き刺したが恭平も咄嗟に身を捻った事により心臓ではなく左腕に槍は突き刺さっていた。
「こ、っの!離れ、やがれぇぇぇぇ!!」
「ぐっ!」
恭平は渾身の一撃とも言える頭突きを槍悟にする。よろついた槍悟に次は回し蹴りを繰り出して槍悟を突き放した。
「痛ってぇ。っていだァァァァ!!」
「恭平さん!慈愛の風」
恭平の傷を治そうと緑が慈愛の風を発動させるがその風は恭平の傷を癒さない。
「あれ、どうして」
傷を癒さないどころか刺された部分から黒い痣の様なものが段々広がってくる。
「簡単な事さ。破壊槍は刺したものを絶対に破壊する槍。それはいかなる癒しも受け付けず対象を破壊する。強大な能力故数回しか使えないが、充分な成果だったと言える」
「そういうことか。ならっ!」
恭平は右手の爪を長く伸ばして左腕を切り裂いた。
「恭平さん!?」
「刺されたのが左腕で良かった。これなら破壊の痣が侵食する前に対象出来たからな」
恭平は苦しそうな声を出しながら立ち上がる。地面に落ちた左腕は痣が全てに広まり塵となって消えていった。
「すまねえ。止血を頼めるか?かなり血がドバドバ出る」
「は、はい!慈愛の風!!」
今度の慈愛の風は恭平の腕をしっかり癒し、完全に止血を完了させた。
「躊躇わねえのかよ。自分の腕を切り裂くんだぞ。怖くねえのか?」
槍悟が目を見開きながら恭平に問う。それを恭平は笑って答える。
「怖かった。痛かった。だが、こんなとこじゃ死ねねえ。俺は、家族を守る為なら、なんでもするぜ!!」
ここで恭平が死んだら、誰が緑を守ると言うのだ。緑も強くなっている。しかし、槍悟には敵わない。なら、恭平はこんなことでは死ねない。更に言えば、地球を守り、この世界を救わねば。死んでいった同朋達との約束を果たさねば。
「だから!」
恭平は一つだけ残った右腕を槍悟の前に出し挑発した。
「かかってこいよ。お前を倒すことくらい、片腕で充分だ」
「何だと」
槍悟からしてみればこれは失敗だった。本来なら破壊槍を使い恭平の心臓を貫き殺す筈だったのだ。当然恭平が生きているのだから失敗。のはずだが。槍悟は何故か嬉しかった。
「いいなお前!強い精神力を持つ相手は嫌いじゃない!片腕を失って武器も失った!その状況でまだ挑発をする!?戦おうとする!?面白れぇ!!!」
槍悟は破壊槍ではなく通常の槍を構えた。
「お前に破壊槍は使わない。正々堂々とやろう」
「俺の爪とお前の槍、どっちが強いかって事か」
槍悟の提案に恭平は笑った。そして右手の爪を長く伸ばして黒く染める。
「恭平さん!私も」
「いや、大丈夫だ。手を出さないでくれ」
「その通り。これは言わば男と男の意地」
「「どちらの意地が強いか!!ここで決着をつけよう!!」」
恭平と槍悟の声が重なり合う。そうだ。これは男の意地。破壊槍ではなかったとしても槍に炎や風を纏わせれば圧倒的に優位に立てる。恭平にしてもそうだ。緑と協力すればその分勝率は上がる。粘って戦っていれば悠馬達が助けに来るだろう。その方が勝率はもっと上がる。しかし、ここで槍悟と決着を着けたい。
「お互い、守るべきものがあるのにな。どうしてこんなに愚かなんだろうな。男ってのは」
白には槍悟がついていなければならない。槍悟の守るべき者は違う男に全てを捧げてしまっている。もしその男、カケルに命を差し出せと言われれば喜んで差し出すだろう。だから、槍悟がいる。白の幸せを守る為に、槍悟は戦うのだ。
「お前にも守りたいものがあるのか。奇遇だな、俺もだ」
魔王軍の皆は恭平がいなくなっても勇者を止め、世界を救う為に奮闘し続けるだろう。恭平があの中で一番強い訳でもなければジグスでなんでもできる訳でもなく、念話で皆を支える訳でもない。皆恭平より強い。恭平が守る必要などない程に。だが、恭平は守りたいと思う。何があっても、命に変えても、守りたいと願っている。あの輪の中で笑っていたいと、その為に守りたいと。最悪の場合でも皆の笑顔だけは守りたいと、心から願っているのだ。
「じゃあ」
「やろうか」
だが、その様な感情を捨ててまで、この決着を望んでいる。とてつもなくアホな行動だ。一時の気の迷いだ。だが、男には、譲れない戦いがある。
「行くぞぉぉ!!」
「こぉぉぉい!!」
守るべき者を守る為に戦う勇者と、守りたい者も守る為に戦う魔族の戦いが始まる!!
「お前ですか恭平様を傷つけたのはー!!!!!」
始まる前に乱入してきた赤毛の少女に槍悟は吹き飛ばされた。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
異世界TS転生で新たな人生「俺が聖女になるなんて聞いてないよ!」
マロエ
ファンタジー
普通のサラリーマンだった三十歳の男性が、いつも通り残業をこなし帰宅途中に、異世界に転生してしまう。
目を覚ますと、何故か森の中に立っていて、身体も何か違うことに気づく。
近くの水面で姿を確認すると、男性の姿が20代前半~10代後半の美しい女性へと変わっていた。
さらに、異世界の住人たちから「聖女」と呼ばれる存在になってしまい、大混乱。
新たな人生に期待と不安が入り混じりながら、男性は女性として、しかも聖女として異世界を歩み始める。
※表紙、挿絵はAIで作成したイラストを使用しています。
※R15の章には☆マークを入れてます。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
来訪神に転生させてもらえました。石長姫には不老長寿、宇迦之御魂神には豊穣を授かりました。
克全
ファンタジー
ほのぼのスローライフを目指します。賽銭泥棒を取り押さえようとした氏子の田中一郎は、事もあろうに神域である境内の、それも神殿前で殺されてしまった。情けなく申し訳なく思った氏神様は、田中一郎を異世界に転生させて第二の人生を生きられるようにした。
城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?
甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。
友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。
マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に……
そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり……
武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語
転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった
お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。
全力でお母さんと幸せを手に入れます
ーーー
カムイイムカです
今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします
少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^
最後まで行かないシリーズですのでご了承ください
23話でおしまいになります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる