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ウォーリス

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 七十章 ウォーリス
「あなた達はなんなんですか!?イザヨイ倒れてましたよね!?どうして無視するんですか!?」
 魔導車が揺れたと思ったらそのまま三回転した。その状態を見るために魔導車から出たら赤く長い髪を揺らしなにやら怒っている女の子がいた。
「えっと、ごめん。ちょうど魔導車をオート運転モードにしてて俺たち外を見てなかったんだ」
「ふむ」
 悠馬がイザヨイと言っている少女にコンタクトを取ると手で顎を触りながら悠馬をじっとみた。
「あの、何か?」
「ゆーまさーん?」
 悠馬を見続けるイザヨイに圧力をかける様に黒いオーラを大量に放つ桜が割り込む。
「おっと失礼。ではあなたも」
「はい?」
 イザヨイは悠馬を見終わったと思うと即座に桜の元へ行き、桜を凝視し始めた。
「ええ!?なんなんですかあなたー!」
「じー」
 その後満足したイザヨイは遥香、緑、メイ、ツクヨミの順で凝視して最後に恭平の元へやってきた。
「な、なんだかよく分からんが見るなら見やがれー!」
 恭平が覚悟を決めて両手を上げて目を閉じる。何をされるつもりでいるのだろうか。
「はっ!あなたは!」
 イザヨイは恭平を少し見ると目を見開いて恭平に突撃した。
「ぐはっ!」
「兄貴ー!?」
 突撃した後には体の至る所をペタペタと触り「はー」と言って恭平から離れた。
「はぁ。ようやく終わったか?一体何を」
「せぇい!」
「ぶっほぉぁ!」
 イザヨイが恭平から離れると見事な回し蹴りを披露して恭平を吹き飛ばした。
「「「えええええ!?」」」
「何すんだー!!」
 恭平は鼻血と頭から血を流しながら立ち上がる。回し蹴りで鼻をやられて更に激突した壁に頭をやられるとは可哀想だ。
「あーやっぱり!あなただったんですねー!」
「うん?よく分かんないけどそうだぜ」
「多分だけどメイ違うと思うよ」
 よく分からない質問に肯定する恭平と否定するメイ。しかしイザヨイはそのどちらの意見も無関係という様に恭平に抱きついた。
「見つけましたよー!イザヨイの旦那様ー!!!」
「「「だっ!旦那様ー!!!」」」
  ◇
 イザヨイに抱きつかれたその後、恭平がイザヨイに連れて行かれたのでとりあえずついて行くことにした悠馬達。
「まさか恭平さんが女の人に好かれるとは思ってなかったっス」
「ホント。変わった子もいるもんだね。メイはやめた方がいいと思うな」
「あの、みなさん。恭平さんに、失礼じゃ」
 イザヨイと恭平は仲良く?腕を組んで早足でどんどん進んでいってしまう。そこまで速いわけではないので見失う事は無いが魔導車で進んだ方が圧倒的に早いのにという考えが浮かぶ。
「なあ、イザヨイちゃん?俺の腕に抱きつくのやめてくれねえかな?歩き辛くって」
「えっ!?恭平様、イザヨイの事嫌いですか!?イザヨイのこと嫌いなんですか!?」
「いや!嫌いじゃねえ!むしろ顔は凄い可愛いしスタイルいいし凄く魅力的だと思うが」
(む、胸がっ!!)
 恭平は腕に当たる柔らかい感触に顔を真っ赤にして視線を逸らす。これ以上の刺激は恭平を殺してしまう。桜曰く恭平はあまり女の子に興味がなかったらしい。しかし悠馬が召喚されて、悠馬と桜を見て羨ましくなったのか三年前くらいに女の子を意識し始めたらしい。
「そんな!イザヨイが凄く魅力的だなんて!イザヨイ照れてしまいます」
 もう少しで恭平がまた鼻血を出して倒れる所でイザヨイが手を顔に当ててクネクネと恥ずかしがる。ギリギリセーフだった。
「はあ。なあイザヨイちゃん。君はウォーリスの末裔なんだろ。俺達はウォーリスに用があってきたんだ」
「承知していますよ。それと私のことはイザヨイと。いつも通りの口調で構いませんよ」
 イザヨイは笑顔で恭平にそう言うと後ろに振り返って「皆様もいつも通りでいいですよ」と言った。
「凄いな。兄貴がいつも通りじゃない事分かってたんだな」
「ええ。ウォーリスの観察眼は相手を見ることである程度の闘い方、仕草、常日頃の生活が分かります。黒瀬悠馬さん」
「名前まで分かるんですか?じゃあ私の名前は?」
「いえ、名前までは分かりませんよ。貴方達の名前はジキルという方から聞いているだけです。黒瀬桜さん」
「ジキルさんが。そうでしたか」
 その後みんなが思い思いの自己紹介をするがイザヨイは全てのことを知っていた。これはジキルにこれだけの情報を知られていたと言うことだろうか。もしかすると勇者の耳にも入っているのだろうか。
「見えてきました。ウォーリスの集落です」
 イザヨイは何もない所で立ち止まりそう言った。
「え?何もないじゃん。メイを馬鹿にしてる?」
「いいえ、風が、おかしいです。ここに、あると思います」
「流石に風の勇者の血を持つ者。イザヨイ感心!」
「えっ?あ、アハハ、、ぅれしいですぅ」
 緑が素直にイザヨイに褒められた事で顔から火を吹き縮こまった。
「あーあ。緑、大丈夫っスか?」
「うん。えへへへへ」
 その姿に満足したイザヨイが虚空を手刀で切り裂く。すると空間がグニリャリと曲がり一本の線が現れた。
「では、入りましょうか」
 イザヨイがその線に入り込んで消える。その様子を見て悠馬は驚嘆の声を上げる。
「次メーイ!」
「あ!もうメイったら!」
「おお!パパ達も早くおいでよー!」
 メイが線に飛び込み、それを桜が追いかけて抱っこして共に線に入る。その後線の奥からメイの元気な声が聞こえてくる。
「俺達も行こうか」
「はいっス」
「おう」
「は、い」
「うむ。っというか妾今回のセリフこれだけかの!?」
 そして皆線に入り込んだ。
  ◇
「きたか白。ひとまずは無事で何より」
「はっ!ありがとうございます。カケル様」
 白は膝を突いて勇者長、カケルに礼を言う。ここは王城。王都の一番左に聳え立つ城だ。カケルはその王の座席に深く腰をかけていた。
「カケル様よ。今回の招集はどの様なもんなんだ?」
「様付けなんていらない。俺とお前の仲だろ?槍悟」
「・・・そうか。じゃあ、なんの為の招集だカケル」
「我の名を呼び捨てだと!?無礼だぞ勇者!」
「・・・」
「・・・」
「勇者長様。御言葉ですが先程槍悟に」
「フフフ。フハハハハ!冗談冗談!気にするなよ槍悟」
 カケルは王の椅子で腹を抱えて目に少し涙を浮かべて笑う。その様子はとても残虐な勇者を率いている勇者の長とは思えない。
「ふー!面白いなぁ。特に白。まさか本気にするとは。いや、いつもそうだから知っていたが、知っていても面白い」
「なっ!カケル様!」
「本題に入ろうぜカケル」
 槍悟の言葉に「ああ」と短く返事をするとカケルは指を鳴らす。すると王都の実験場の光景が虚空に浮かぶ。
「こいつらは!」
「完成したのですね」
「ああ。次の作戦ではこいつらを使う、出撃するのは白と緑だ」
 白と緑が了承を意味する様に膝を突く。しかし槍悟は違った。
「何故だ?もう残った勇者は俺達三人。いや、四人か。なら俺も出撃すべきだろう」
「ん?いや、槍悟の出る幕はないかと思ってな」
「慢心するな。お前の悪い癖だ」
「ちょっと槍悟!」
 槍悟とカケルは暫く視線を合わせたまま動かなかった。そして先に動いたのはカケルだった。
「分かった分かった。じゃあお前に緑の役割をしてもらおう。緑は白に着いとけ」
「は!」
「承知しました」
「おう」
 皆がそれぞれの返事をするとカケルは微笑んで一枚の紙を三人に投げる。
「ではそれ通りに動いてくれ」
 カケルは作戦指示書を投げた後にターゲットの人物二人を示した。
「さあ行け。新しい勇者(コマ)の回収に」
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