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弓と城
しおりを挟む巨大な壁に囲まれた場所。そこでは今壁の中から弓が放たれてその弓を壁に防がれる事が連続している。今は魔王の黒瀬悠馬と弓の勇者の弓塚葵の戦闘中なのだ。
「くっ!流石にずっとこの状態はキツいな」
「ならば そのケルベロスを見捨てればいい」
「馬鹿いうなよ。兄貴を、家族を見捨てられるか!!」
「あなたは 本当に 魔王に向いていない」
葵が弓を最大限まで引くと先程までとは威力が違う一撃を放つ。しかし、悠馬の後ろには倒れた恭平がいる。
「防いでやるさ、兄貴!力を貸してくれ!三首の大盾!!」
葵の弓矢を大きな犬の描かれた三つの盾で止める。二つの盾で出来る限りの威力を殺し、赤い盾を光らせ弓矢を爆発させた。
「く、うう」
爆発から悠馬がよろめきながら出る。弓矢の威力は殺しきれなかった。
「決着はついた 大人しく勇者長の元へ」
「はっ!誰が行くかよ」
悠馬がボロボロになりながらも立ち上がる。しかし、悠馬は今にも倒れそうで押せば倒れてしまいそうだった。
「意地を はるな」
葵がもう一度同じ弓矢を放つ。
(もう、ダメか)
「三首の大盾!!」
悠馬が膝をついて弓矢を待っていると、悠馬の前に先程と同じ盾が現れる。
「待たせたな。もう大丈夫だ!」
「兄貴!!」
そこには悠馬と同じ様にボロボロの恭平がいた。
「その傷で何が出来る 無駄な抵抗」
「はっ!俺様は無敵のケルベロスだ!ただでやられたりはしねぇよ!」
恭平がそういうと悠馬にしか聞こえない声でとある言葉を言った。
「なるほど。やってみる価値はあるか」
「おう。魔王と番犬の力を見せてやろうぜ!」
悠馬と恭平が同時に頷くと恭平が葵に向かって走り出した。
葵は深く考えずに恭平に弓を向ける。そしてその瞬間を見計らって、
「フラッーーシュ!!」
「!!?」
悠馬が眩い光を放出した。悠馬に背を向けていた恭平は無事だったが恭平を見ていた葵は光を直視してしまった。この光はただの光ではない。いつの間にか使える様になっていた白の能力だ。(白に操られている間に悠馬は白に触れているのだが悠馬にはその記憶がない)普通の光を見るよりも目の回復が遅い。
「くっ! しかし 転送弓を使えば」
「使わせるかよ、赤盾!」
恭平が手を振ると赤い犬が描かれた盾が一人でに動き出し葵に襲いかかる。
「転送弓!」
その大盾が当たる直前に葵は弓矢を放ち違う穴へ移動する。が
「こ、これは!?」
葵の目が開くと自分の腕が氷により凍らされているのに気がついた。
「兄貴の盾はお前に弓を構えさせる為の囮。弓を放つポーズで凍っちまえば弓矢を取り出せないからな!」
悠馬が足に風を纏い葵のいた穴まで飛び葵を蹴り飛ばした。
「くはっ!」
「さあ、形勢逆転だぜ」
両手を防がれた葵の首元に剣当てる。が、葵は諦めていない。
「まだ、爆裂弓!!」
葵が叫ぶと葵の弓が赤く光って爆発を起こした。
「うぉぉ!」
「この程度でっ!」
「青盾!頼む!」
恭平が青い盾に命ずると青い盾は剣の様な形に変形して葵の右腕を切り裂いた。
「うぁぁ!」
「今!水晶拳!」
腕を斬られた葵に追い討ちをかける様に地面から水晶で出来た腕を作り出して殴りつけた。葵は壁に衝突すると回復用ポーションの様な物を取り出して右腕にかける。だがそのポーションは桜が作ったエリクサー程の効果はないのか腕は戻らず止血だけがされた。
「もういいだろ。俺たちの勝ちだ。俺だって知り合いを殺したくはない」
「何が 知り合いだ 私を見て身の振りした癖に」
「お前と一緒に虐められてたんだからどうしようもなかったんだよ。だから、今度こそは弓塚を助けたい」
悠馬が手を差し伸べると葵はその手から逃れる様に走る。
「お前に助けられる必要はない 私は既に カケル様に助けられている!」
「カケル、様?」
「そうだ!私はあの日 あの人こそが!」
◇
「ヒハハハハ!さっさとゴミ捨ててこいよ!」
痛い。
「は?近寄らないでよブスが!」
痛い。怖い。
「あのブスホント腹立つわよねー。自分が悲劇のヒロインだとでも思ってるのかしら」
痛い。怖い。 死んでしまいたい。
そう思っていたら、弓道部が練習している場所から不自然な弓矢が飛んできて葵の頭を貫いた。
「ようこそ異世界へ。俺はこの世界の支配者、勇者カケルだ」
カケル さん。
「おめでとう。君は選ばれたんだ。君こそがこの世界の勇者、弓の勇者に相応しい」
弓、勇者?
「ああ。君は勇者だ。この世界の勝利者だ!頼む、この俺に協力してくれないか?俺には君の力が必要なんだ」
力が 必要?
「わ 私は ひ ひつ 必要?」
「その通りだ。君こそ俺の探し求めていた子だ!さあ!君のその力を!意志を!俺に捧げろ!!!」
その時葵に希望の光が差した。死んでしまいたいと思っていたのが嘘の様に。誰かに頼りにされる、誰かに必要とされる事でここまで幸せになれるんだ。
「はい カケル様 貴方に全てを捧げます」
◇
「お前達の助けなんていらない 私にはカケル様がいる カケル様の命令は必ず果たす!」
葵が叫ぶと落ちていた弓が宙に浮き矢を構える。
「な!?飛んでるっ!?」
「増殖弓」
葵が言葉を発すると弓が二つへと増える。
「増殖弓!」
二つに増えた葵の弓が四つに。
「増殖弓! 増殖弓! 増殖弓! 増殖弓! 」
四つから八つ。八つから十六。十六から三十二。そして全部で六十四個もの弓が葵の周りに現れ、弓矢を構えた。
「やばい!下がれ悠馬!」
「放て」
葵が感情のない声で呟くとその声からは想像が出来ない威力で爆裂弓が放たれる。六十四もの弓が全て恭平に向かって飛び、全てが同時に爆発した。
「兄貴ぃぃ!!」
爆発が収まると恭平は少し笑って倒れた。
「兄貴!兄貴!しっかりしろ!」
「爆裂弓、構え」
「やばい!あの威力の技がもう一発!?」
壁の準備を。間に合わない。それに間に合ったとしても簡単に壊されてしまう。どうすれば
「放て」
またしても葵の声だけで六十四の弓矢が放たれる。魔王軍最強の防御力を持つ恭平ですら倒れた攻撃を防ぐ。そんな事が出来るのか?しかし出来なければ、死ぬ。
「くっそぉぉぉ!!」
「悠、馬」
「兄貴!?」
恭平が目を開けて一言だけ呟いた。
「城だ」
城?この世界での城と言えば魔王城の事だろう。しかし、何故それを。
「あ、兄貴まさか」
以前悠馬は聞いたことがあったのだ。「魔王城ってのは魔王様が作り上げた建物だから魔王様の能力であると言っても過言じゃないんだぜ」 と。
「つまり!今の俺の心臓。魔王の心臓なら!」
悠馬が両手を前に出して魔王の力を解放する。すると悠馬の心臓が今までないほどに脈を打つ。これなら、出来る!
「兄貴を、家族を守ってくれ!!魔王城ー!!!」
爆発弓が恭平と悠馬に当たる前に巨大な魔王城が一瞬で建設された。
「ば、バカな」
葵が目を見開いて驚くが、驚いているのは悠馬も一緒だ。魔王城を建てた瞬間にその構造全てが頭の中に入ってきたのだから。
「魔王城!迎撃態勢!魔王城主砲、魔王の心臓起動!」
悠馬が叫ぶと爆発弓を全て防ぎ切った魔王城が黒く、しかしどこか綺麗な魔力を纏う。
「魔王城主砲!魔王の咆哮(デビルズブラスト)!!撃てぇぇぇぇ!!!」
そして真っ黒な主砲から六十四の爆裂弓を上回る魔力の塊が放出される。
「ああ!きゃゃぁぁぁ!!」
圧倒的な魔力の塊に直撃した葵はその熱により焼き尽くされた。
「はぁはぁはぁ。すまない。葵」
主砲を撃ち終わると魔王城は即座に消え悠馬と恭平だけが取り残された。助けたいと、言ったすぐ後にこれだ。悠馬は自分に絶望感を覚えた。その時、空が光ったかと思うと三人の人影が見えた。
「悠馬さん!悠馬さん!大丈夫ですか!?」
「さ、桜?どうしてここに」
「後で説明するっス!それより勇者は!?」
「倒したぜ。俺と悠馬の二人でな」
「わぁ!流石パパ!恭平もよくやったんじゃない?」
その後悠馬と恭平は桜からこの魔道具の話を聞き、少し休息を取って雪香達の援護に行くこととなった。家族だけは、絶対に守ってみせるという決意を持って。
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