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しおりを挟む「ここは?何処だ?」
目の前が光に包まれた悠馬は暫くして目を開けた。するとそこは四方を壁で囲まれた牢屋の様な場所の真ん中だった。そしてその壁には所々穴が空いている様だが、人は通れなさそうなサイズだった。
「確か俺たちが魔導車の前に落ちてきた岩を壊そうとしたら目の前が光ったんだ。それは分かるが、ここどこ!」
悠馬が叫んでみるが何の反応も返事もない。まあ、当然ではあるだろう。そして次の瞬間、悠馬に向かって弓矢が放たれた。
「避けろ悠馬!」
「うっわ!」
その弓矢は悠馬に当たらずに壁に突き刺さる。そして悠馬を助けたのは
「兄貴!何処にいたんだよ!?」
「お前の足の下」
「あらごめんなさい!」
悠馬は驚き半分で恭平に謝罪する。そして恭平は少し不機嫌そうに唸った。
「そんな事よりさっきの狙撃だ。残る勇者で、ってか弓矢を使う雪香なんて一人しかいねえ」
「弓の勇者!」
「・・・」
悠馬が声をあげると東の穴の上から三つ目の穴から弓の勇者、弓塚葵が顔を出した。
「久しぶりだな弓塚。俺のこと覚えてる?」
「は?悠馬、あいつと知り合いか?」
「まあね」
悠馬が魔王剣を構えながら話し始める。
「弓塚葵は俺の中学の同級生だ。そして女の中のいじめられっ子。俺は男で弓塚は女の代表いじめられっ子だった」
悠馬がそう言うと葵が静かに弓矢を放つ。
「うわっと!当たらないぜ」
「爆裂弓」
葵の言葉に応じる様に弓矢が赤く光ると弓矢は悠馬を巻き込んで爆発した。
「アッツ!爆発するのかよ!」
「雷神弓」
「今度は雷!?」
悠馬の足元に弓矢が刺さるとその後葵の発言通りの属性が辺りに放たれる。
「暴風弓」
「させるかっ!」
葵が弓を手に取ると同時に恭平が走りだし壁をよじ登り始めた。
「待って兄貴!ダメだ!」
恭平が葵が弓矢を放つ前に壁を登り切って爪で葵を攻撃する。が、
「なんだこれ!俺の爪が壁の中に入らない!?」
「当然 ここ防壁ある 私以外が入るなんて不可能」
葵は抑揚のない声で恭平に弓矢を放った。しかしその弓矢は恭平に当たる前に緑色に光ると暴風が発生した。
「ぐおおお!!」
「くそ!水壁!」
風で吹き飛ばされた恭平を悠馬が作った水の壁で衝撃を和らげる。しかし葵はまた弓矢を手にして弓を構える。
「待った!いきなり攻撃してくるな!まあ、勇者と魔王なんだから当然かもしれないけど、状況が全く分からないんだか!?」
「説明 不要」
「クッソ!兄貴やるぞ!なんとかしてこいつを倒す!」
◇
「私達の分断が狙いだったのね。そうすれば貴方達の勝機は高まるから」
そこは足元に砂が大量にあり太陽が熱を多く発生させる場所。簡単に言うと砂漠。その砂漠に四人の人影が見れる。
「その通り。お前らの力は個ではなく和。ならその力を分断させれば行けるんじゃねえかって話さ」
四人の中の一人、槍の勇者の斎藤槍悟は余裕そうな顔で答えた。
「そう。それはそうね。この炎天下じゃ私も全力は出せないし」
槍悟が投げた光の玉はいわゆるワープ道具。その光に包まれたものを特定の空間に送るというものだ。今回はその空間を三つに設定してそれぞれ剣、槍、弓の勇者が魔王軍を迎え撃つという作戦らしい。
「ふざけるでない!妾は既にメイに力を九割渡した身!直接戦闘など範囲外じゃ!」
「わ、私、攻撃できな、い」
砂漠エリアに飛んだのは先程言った通り四人。槍の勇者、斎藤槍悟。魔王軍幹部の雪女、黒瀬雪香。月の女神にして黒魔術創設者、ツクヨミ。風の勇者の妹、風磨緑。槍悟は勇者の中で三番目に強い猛者だが、魔王軍の三人の中で二人が非戦闘員だった。
「ツクヨミ。あの技は威力が落ちていても効果は変わらないわよね?」
「ああ。他の型は使いもんにならんじゃろうが血液の反逆なら効果は何も変わらん。あと妾に何か会った時に直ぐ逃げられる様に心臓移動だけはまともに使えるぞ」
雪香は槍悟から目線を離すことはなかったが小さく頷く。ツクヨミは何とか戦える。最悪戦えなくても自分の身を守ることは出来る。が、問題はもう一人だ。
「あの、えっと、はの、」
(緑。この子の能力は伝達。どう考えてもこの戦いでは足手まといだわ)
「作戦会議は終わったか?そろそろやり合いたいんだ」
「チッ!考えてる時間は無いわね。ツクヨミは私の背後から援護、緑は安全な所まで逃げなさい!逃げ終わったら念話を開いて!」
「了解じゃ」
「ふぁ、ふぁい!」
雪香は二人に指示を出すと氷の剣を作り出して槍悟の槍を受け止めた。
◇
「つまり残ったのはこの私!剣の勇者、剣刃!そう、私さ」
「さっき聞いたよクソゴミ。一度私達に負けた分際でいいご身分だね」
「本当、バカみたいな奴でしたよね」
ここは辺りに岩が多く散りばめられた平地。壁に囲まれていたり砂漠だったり特別なものは何もない。その平地にもまた四人の人が転送させられていた。
剣の勇者剣刃。魔王の一人娘黒瀬メイ。魔王軍サポート係、メドゥーサ、黒瀬桜。裏切りのくノ一、黒瀬遥香だ。
「自分の会話がなかったっス。地味にショック」
「え?遥香ちゃんは何の話をしてるの?」
「なんでもないっス桜さん!とっととこいつ仕留めて悠馬さん達のアシストに行きましょう!」
「ほう。この私が君達三人に殺されるとでも!?焼死!いや笑止!君達が生き残る選択は私の妻になることしか残っていない!」
刃が足を開き手を顔の前に出し勢いよく指を刺す。しかしそこにはもう三人の姿はなく刃の背後に足の様な物があった。
「ぐはぁ!」
「そんなのどうでもいいっス!さっさと死んじまってくださいっス!」
遥香が刃に煙玉を放つ。だがその煙玉は煙が出る前に刃に掴まれた。
「その程度で私を倒せると」
「「ツクヨミ式黒魔術 五型 血液の反逆!」」
片手で煙玉を持っている刃に桜とメイの血液の反逆が飛ぶ。この状況で二方面からの血を避けるなど不可能。
「だが!いでよ!ブラッツナーイツっ!!」
血が刃に当たる寸前で刃の周りに合わられた黒い鎧の騎士に止められた。血液の反逆は触れた者の血を逆流させ全身から血を吹き出させる強力な技だが、血液が流れていないゴーレムやブラックナイトには効かないのだ。ちなみに鎧などに当たっても効かないのだがそこについては心配無用。何故なら。
「本気を出そう。裸の鎧!我が最強の鎧!!」
この男は全裸族。しかもそれが転生した時に悪い方向に働き全裸でいる時は物理攻撃、魔法攻撃を全て無効化できるのだ。だから服や鎧は着ない。
「チッ!面倒な!ママどうする?」
「時間はかかるかも知れないわね。あの黒い騎士はいくら倒しても湧いてくるし血液の反逆以外の技はあの変態に効かない」
「あいつに服を着させる作戦しかないっスかね?」
「いえ、方法ならいくらでもある。出来るだけ早く倒して悠馬さん達の援護に行かないと!」
「あ!そうだ。君達には特別に今の状況を教えてあげよう」
刃が思い出した様に手を叩いていった。が、メイが「大体予想つくから要らない」と言った。
「酷いな。だが、誰が誰と戦っているかは知らないだろう」
またメイが要らないと言おうとするが桜がそれを止める。情報とはあって困るものではない。むしろ大切なものだ。それが得られるのならゲットしておくべきだろう。
「現在弓の勇者の葵と黒瀬悠馬、犬塚恭平が戦闘中。そして槍の勇者、斎藤槍悟さんと雪女、風の妹、神モドキが戦闘を開始した様だ。良かったね情報を知れて」
(悠馬さんと恭平さん。この二人なら弓の勇者にも引けは取らないから大丈夫。でも、雪香さんは危ないかも知れない)
「やばいじゃないっスか!雪香さんの所まともに戦えるの雪香さん一人っスよ!」
「ヨミも戦闘能力はほとんど無いし、ママ!急いでこいつを殺さないと!」
「ええ。行くわよ!」
「おっと、情報をあげたのに辛辣だな。ご褒美はないのかいご褒美は。例えばほっぺにチューしてくれるとか胸を見せてくれるとか!!」
「「「死ね!!!」」」
こうして刃対桜、メイ、遥香が始まった。
◇
「うふふ。始まったわね」
魔王軍が乗っていた魔導車の頭上。三つの映像が流れているのを杖に乗りながら悠然と見ている女がいた。副勇者長にして光の勇者。刈谷白だ。
「さて、この中で一体誰が死ぬのかしら。犬?雪女?それとも、あの忌々しい小娘?うっふふふふふせいぜい私を楽しませてね、悠馬君」
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