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ツクヨミへの道

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 悠馬達がツクヨミの里へと入って暫く歩いていると里の人に声をかけられた。
「もし、あなた方は何者ですか?」
 既に八十を超えていそうなお婆さんが悠馬に警戒する様に話しかけた。
「えっと、旅の者ですがツクヨミ神殿に入りたいなと思いまして」
「なんと!お主らやはりツクヨミ様へお会いしようというやから!皆の物!此奴らをとめい!」
 お婆さんが叫ぶと里の人が武器を持って悠馬達を囲んだ。
「ええ!いきなり何するっスか!?」
「静かにしろ、悠馬突っ切るぞ」
 恭平が悠馬にそう告げて走り出そうとするが雪香がそれを止めた。
「待ちなさい犬。ここは任せて貰うわよ」
 雪香はそう言いながらお婆さんの前に立った。
「貴方がこの里の村長かしら?」
「いかにも。ワシこそがツクヨミの里の村長にしてツクヨミ様を一番尊敬する者、オーバロじゃ」
「あの、里なのに村長なのは少し違う気がしませんか?」
「しっ!黙っておこう」
 緑が悠馬にしか聞こえない声で呟くがここはあえてツッコまないでおこう。深読みはあえてしない。方がいい気がする。
「そう。私達はツクヨミの試練を受けたいの。それなら別に構わないでしょう?」
「なんじゃと!ツクヨミ様の試練を!?貴様らはツクヨミ式黒魔術が使えるというのか!?」
 オバーロが驚愕の声を上げると里の人々も口々に驚いている。
「あの、ツクヨミの試練って?」
「そうね。緑は仲間になったばかりだし知らないわよね。オバーロさん。説明してもいいかしら?」
 雪香がサラッと他の皆んなは知っている事を前提に話しているが、悠馬もそんなものは知らない。恭平や桜も同じくだ。
「それには及ばん。ツクヨミ様の試練とは凡人がツクヨミ様に謁見する為に必要な試練。その試練をクリアした者には特別にツクヨミ様に謁見出来るアイテム、ツクヨミのコヅチの使用を許そう」
「じゃあそれを使えばメイが助かるって事ですね!良かった」
「おうよ!それじゃさっさとクリアしようぜ!」
 桜と恭平がオバーロに催促する様に言う。
「フッ。お主ら如きにクリア出来るかの!?では始めよう、ツクヨミ様の試練を!!」
 オバーロが叫ぶとツクヨミの里の人々がそれに合わせて叫び出し、去っていった。
「えっ!?ツクヨミの試練するんじゃねぇのかよ!!」
 悠馬が去っていく人々に驚いているといつの間にかオバーロの周りに七人の人が立っていた。
「では、第一試練じゃ!」
  ◇
 とんとん拍子で話が進み、よく分からないまま説明を受ける。
「第一試練はツクヨミ式黒魔術じゃ!ツクヨミ式黒魔術を八型まで使えるのなら合格じゃ。果たしてお主らのパーティーはツクヨミ様に謁見出来るかのぅ。ヒッヒッヒ」
 先程の場所から少し移動した闘技場。どうやらここでツクヨミの試練が行われる様だ。そしてツクヨミの試練はパーティーで挑戦できるらしくパーティーの中の一人でも試練をクリア出来るなら合格らしい。意外と緩いと思ってしまうのは気のせいだろう。
「舐められたもんだな!メイ、やっちまえ!」
 恭平が叫ぶがメイは返事をしなかった。正確に言うと出来なかったのだ。
「兄貴、今のメイには無理だ。桜行けるか?」
「任せて下さい。ジキルグレートスペシャルなら、何でも出来る!」
 桜がカッコよく(本当にカッコいいかは除く)闘技場に降りる。その闘技場にはオバーロではなく違う男が立っていた。
「つまりこの人にツクヨミ式黒魔術をお見舞いしろと言う事ですね。行きます!」
 桜が大きく息を吸うと!
「幻想世界!ウイルス作成!静止の魔眼!心臓移動!血液の反逆!肉体改造!血液造形!暁の月!」
「えっ?いきなり全部うううう!!」
「な!なんじゃとぉぉ!?」
 全力全霊で男にツクヨミ式黒魔術の全てを叩き込んだ。
「す、すげえっス。こんなめちゃくちゃメイさんにもできるかどうか」
「その前にあの人生きてる!?魔王軍だからって簡単に人を殺していい事になんてならないぞ!!」
 大地が走って男に駆け寄り心臓に耳を当てる。その後ホッとした様な顔をしたところを見ると生きていたのだろう。
「大地さんとか言いましたっけ。ちゃんとウイルス作成で何をしても死なないウイルスかけておいたので生きてますよ」
 桜の笑顔に大地と大地の仲間達は驚愕とした。つまりウイルスがなければ死んでいたという事だから。
「は、早すぎてよく見えんかったが、しっかり全ての技がかかっとる。合格じゃ」
 オバーロが男を運ばせながら悔しそうにする。そして「次!」と怒鳴った。
「第二試練は攻撃力!この里一番の肉体、ゴリンを一撃で倒してみせよ!!」
 里一番の肉体(自称)のゴリンが闘技場の真ん中で仁王立ちした。そしてこの試練の挑戦者は。
「私よ」
「雪香で大丈夫なのか?雪香は攻撃って感じじゃないだろ?」
 悠馬が心配してそう言うと雪香は軽く笑いながら闘技場に降りた。
「女だと?ふふふ、フハハハ!このゴリン様が女にやられる筈がなかろう!」
「では始めい!」
 オバーロの声により雪香がゴリンに向かって走る。
「ふっ俺にはとっておきがあるのさ、ツクヨミ式黒魔術、六型、肉体改造!!」
「何!卑怯っス!」
 ゴリンは雪香がたどり着く前に肉体改造で自分の肉体を更に強くした。しかし雪香はそれを気にする事なく
「死になさい」
 勢いよく股間に蹴りを入れた。
「ハゥゥゥゥ!!」
「「「うわー!!!!」」」
 雪香の思わぬ攻撃に男性陣が叫んだ。男だからこそ分かる痛み。あれは相当な痛み。というか生死が関わる攻撃だった。
「雪香さんえげつねぇ」
「俺大地様が魔王軍と協力する意味が分かったぜ。あんなことされたら俺死ぬ」
 エールとクランが自分の股間を守りながら呟く。あれは見ているこちら正気ではいられない。
「しい」
「え?どうした大地?」
「美しい!なんて美しさだ!あれ程強烈な蹴りの後にあの蔑んだ瞳!いかん、何かに目覚めそうだ」
「やめろその道には進むな!エール、クラン!あんたらの主人を止めろ!」
 大地がくねくねを身をくねらせるのを止めていると雪香が足を洗って帰ってきた。
「第二試練クリアですね!流石雪香さんです!」
「えげつないっスね!えげつないっスね!!」
「コワスギマスヨ」
「ありがとうでいいのかしら?」
 雪香が女性陣の元に戻ると同時に大地は雪香の元へと走り出した。
「やめろ大地!死ぬぞぉー!」
 悠馬が必死に服を掴んだが大地は服を脱いで走り続ける。
「雪香さん!いえ、雪香様!この私も痛ぶって下さい!蔑んだ瞳で罵倒してぇぇぇぇ!!」
「「「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」
  ◇
「キモがられた。ウザがられた」
「蹴られなくて良かったよ。いや本当に」
 次の試練には少し準備に時間がかかるということなのでここは闘技場の休憩所。そこで虐められる事の喜びに目覚めてしまった男を仲間達と悠馬で慰めていた。
「大地さん。あの女は辞めておこう。あんたが死んじまう」
「そうだぜ大地さんよ。男じゃなくなっちまうかもしれねえぞ!」
「そうよ!あの女とキナならまだキナの方が安全よ!キナにしときな」
「皆さんの言う通り!あんな女より私の方が、いまリートさんなんて言いました?」
 大地は仲間達の意見を聞いて笑った。
 大地の笑い顔を見て皆胸を撫で下ろすと。
「俺は雪香さんに恋したぜ」
 大地がとんでもない一言を発した。
「なんかあっちはうるさいですね。何かあったんでしょうか?」
「どう言う訳が知らないけど土の男が私に惚れたらしいわね。まあ私はあの人一筋だからあんな男興味無いけどね」
「あれを見て惚れたのなら性癖汚れすぎてるっスよ?」
 魔王軍女子メンバーは蔑んだ瞳で大地を見る。すると大地が興奮した様に飛び上がると雪香に氷漬けにされた。
「大地がまさかこんな性癖持ってるなんて知らなかったな」
「高校で一緒だったのに知らなかったのか?」
「そりゃ性癖まではね」
 その様な会話をしていると休憩所の扉が開かれた。
「第三の試練の準備が整った。至急来るが良い」
 悠馬は意識を切り替える様に自分の頬を叩き寝込んでいるメイを背負って闘技場に向かった。
「これは?」
 闘技場に戻ると既に試練相手は存在していた。大きな熊が三匹。その闘技場の中に放出されていたのだ。
「第三の試練はこの熊の攻撃を一時間耐える事。これが第三の試練じゃ」
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