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防御型ケルベロス

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「魅了が効かなかったというのは非常に残念だが、まあ致し方ないか」
「そんなことより服着ろ。何堂々としてやがる」
 今剣刃は氷山の頂上でパンツ一枚も履かないで堂々としている。つまり変態である。
「着るわけがないだろう。我が裸の鎧は最強にして無敗。自分から負けになどいかん」
「聞きたくはないけど、それがお前の奥の手なのか?」
 悠馬の問いに刃がドヤ顔をした。つまりこれが切り札だということなんだろう。
「裸の鎧だかなんだか知らないけど殺せば同じよ」
 雪香が氷の槍を刃へと放出する。しかし氷の槍は刃に触れる寸前で消え去った。
「言っただろう?裸の鎧は最強なのだよ」
「うるせぇ!なら物理攻撃だ!」
「物理攻撃も効かないと言わなかったかな?」
 刃は恭平からの攻撃を受け止めようとも交わそうともせずにその場に立ち尽くす。そして恭平の攻撃は刃の目の前で止められた。
「能力による攻撃が効かなくて物理攻撃も効かないとか反則っス!チートっスよチート!」
「ハッハッハ!なんとでも言いたまえ。それより君は自分の意思で私の妻にならないかい?」
「どっからそうなったっス!絶対に、絶対にならないっスよ!!」
 遥香が手裏剣と手榴弾を刃に投げつけるがそれも刃には触れられない。
「なるほど。ならこうすればいいのね」
 雪香が刃に両手を伸ばし手元に氷を作った。
「無駄だよ。君が何をしようとしているのか分からないけど今の私は無敵だ」
「そうかしら?確かに外側からの攻撃は効かないようだけど、内側からなら?」
「な、まさか!私の心臓や血管を凍らせるつもりか!?って気づいたらなんか苦しくなっ・・て」
 刃の血管を全て凍らせたからか刃は突然苦しみだした後その場に倒れた。
「やっ、やったっス!ざまあみろって感じっスね!」
「待て!それはフラグって言うんだぞ!?」
 遥香が言った言葉の影響かそうではないのかは謎だが、刃は突然立ち上がると遥香に向かって剣を振り下ろした。すると刃の剣から白い剣撃が具現化してかまいたちのように襲い掛かった。
「水風刃波!」
 刃が放った攻撃を水刃波とそれの改良バージョンの風刃波で防ぐ。いちいち技名を二回言うのも面倒なので名前は合わせた。
「ほう。私の剣撃波を防ぐとはやるね!だが男だからマイナス二万点だ!」
「前も言ってたけどその点数なんなんだよ!別にマイナス二万点されても悔しくも何ともないわ!!」
「む!ツッコミが鋭いな」
「お前もう喋るな!」
 悠馬は水の球体を作り出し氷山へ投げつけた。そして氷山は砕け周りに白い煙が漂う。
「目隠しかい?まあ私は目を瞑っていても君に倒されることはない。とても安心」
「それはどうかな?」
 悠馬は刃の背後を取ると刃の顔にある物を巻き付けた。
「うわっぷ!これは?」
「それは兄貴の上着だよ。お前の裸の鎧は当然ながら裸じゃないと発動しない!」
 恭平の上着を頭につけた刃は咄嗟に上着を捨てようとするがその瞬間に遥香がガムテープの様な物で上着と顔をグルグルに貼り付けた。
「悠馬さん!」
「黒炎の咆哮!!!!!」
「お、おのれぇぇぇぇぇ!!」
 悠馬の放った黒炎の咆哮に刃が飲み込まれた。
  ◇
「あら?あれは悠馬君の。と言うことはまだ決着はついていないのね?」
「・・・・」
「ねえ。貴方はどちらが勝つと思う?美樹?」
「カハっ!そ、そんなの悠馬君に決まってるでしょう」
 永久氷山から離れた森。傷だらけで木にもたれかかった美樹は白に蹴られた後質問に即答した。
「そう。まあそんなの関係ないか」
 白が美樹のお腹に大きく開いた穴に杖を差し込みクルクルと回す。
(お、お姉ちゃん)
(緑ちゃん、大丈夫よ。安心して)
「さて、悠馬君やあの人間の裏切り者に遺言があるなら伝えておくわよ?何が遺言はある?」
「ハハ、遺言か、そんなのないですよ。私みたいなミジンコより醜い女は悠馬君に遺言なんて残せないって」
「あら?素の美樹に戻っちゃったか。まあ遺言がないならいいわ」
 白が杖を美樹から抜くとその杖をゆっくりと動かして美樹の顔に向けた。
「それじゃあ、三、ニ、一で殺すわね。一緒にカウントダウンする?」
(緑ちゃんだけは)
「あ、ちょっと待って下さい。せめて後五分下さい」
「いいわよ。じゃあ三、ニ、一、零」
 白は顔に向けていた杖をいつの間にか剣の様な形状に変えて美樹のお腹を切り裂いた。
「アハッ!真っ二つになっちゃった!これじゃあ赤ちゃん産めないわね!アッハハハハハ」
 白は高笑いをしながらその場を去っていった。
(緑ちゃんだけは・・・守るから)
  ◇
「ぐぁぁぁぁ!!死なん!私は死なない!この程度で、死んでたまるカァァァン!!!!」
「はあ!?黒炎の咆哮を切り裂いたぁ!?」
 刃は悠馬が放った黒炎の咆哮と恭平の服を見事に切り裂き悠馬の左腕を胴から切り離した。
「死ねぇ!黒瀬悠馬!!」
「させるかよっ!!」
 刃が振り下ろした剣を恭平が両手で受け止める。悠馬の腕を軽々と切り裂いた剣だというのに、恭平の両手からは血は出るものの切り裂かれたりはしない。
「ッ!兄貴!!」
「さっさと、どけ!」
「うわっ!」
 恭平が空いている足で悠馬を蹴って遠くに飛ばすと刃の剣から人一人飲み込む程の剣撃波が放たれる。
「あ!兄貴ィィィ!!!」
 刃の剣撃波が放たれた場所には恭平の姿は無かった。
「嘘、だろ?」
 左腕が切り裂かれた痛みも感じないほどに驚愕する。そして止血もしないまま悠馬が立ち尽くす。そんな悠馬を見て刃は口角を上げて歩み寄る。
「ヒッヒッヒ!次は貴様だぁぁぁぁ!!」
 そして悠馬に向かって剣を下ろす。
「ボサッとしてんじゃねぇ!死にてえのか悠馬ァァァ!!!」
「おぐふぅぅ!」
 悠馬に剣が振り下ろされる前に何者かが刃に鋭い頭突きをし刃を吹き飛ばす。その者は
「ア、兄貴ィ!」
「ハッ!攻撃力や能力は恐らく魔王軍最弱だが、俺の防御力は魔王軍一だ!舐めんじゃねえ!!」
 全身血だらけの恭平だった。
「いやそんなことより傷の治療っス!!」
 遥香が涙目で二人を叱るようにありったけのエリクサーを投げつける。エリクサーとは以前桜が作った万能薬で、どんな傷でも癒すアイテムだ。
「あ、そうだったわ。危うく出血死するとこだったって腕痛ぁぁぁぁぁ!!!」
「ったく。魔王とはいえまだまだ修行が足りねえなぁ。って痛ぇぇぇぇ!全身がめちゃくちゃ痛えぇぇぇ!!!!」
 エリクサーを浴びた悠馬と恭平が光ると恭平の傷が治り悠馬の腕がくっついた。悠馬の腕は遥香が回収してくれていた様だ。
「あんたら二人ともアホなんですか!?しっかりして下さいよ!!」
「あまりにも悲惨だったわよ。さっきの貴方達」
「「なんかすいません」」
 そう言っていると刃が氷山を砕き姿を現した。恭平の頭突きを食らっただけであれほど吹き飛んだということは恭平の頭がどれだけ硬いかの証明だったのだろうか。
「全く!君達は何なんだ!いや君達というよりそこのケルベロスだ!魔王の腕さえ簡単に切り裂いた剣の最高威力の剣撃波だぞ!?何故生きている!?形すら残らないかも知れない程の威力なんだぞ!?というか何故裸の鎧を破れたんだ!?魔王の攻撃を切り裂いたときに上着は斬ったから私はパーフェクトの筈だというのに!?」
「一つ一つ質問してくれ。よく聞き取れない」
「うるさいよケルベロス!何が一つ一つ質問してくれだ!ふざけるんじゃない!私程のエレガントな男に向かって一つ一つ質問しろだとおぅ!?ふざけるのも大概にせぇい!」
 今まで全く見せなかった怒りを露わにして刃は恭平に突っかかった。それも子供の様に。
「キャラ崩壊始まってるっスね」
「そうだな」
「ジャカマシィィィ!じゃなかった!キャラ崩壊などする訳がなかろう。私は剣の勇者だよ?ハッハッハ」
「あ、直した」
 刃は話を逸らす様にわざとらしい咳払いをした後恭平に剣向けた。
「今私は君に聞いているんだケルベロス。君の防御力はどうなっているんだ」
「どうっていわれてもな?雪香に死ぬ程攻撃されたらこうなったとしか言えないな。何回か俺の中の二人のケルベロスが川の向こうでコッチに来るなって叫びまくってる幻覚見えたぜ」
「馬鹿な!?」
「兄貴!それ三途の川だよ!ってかケルベロスって地獄の番人じゃなかった!?三途の川の川ってある意味ピッタリ!?」
「どうでもいいでしょそんなの」
 悠馬が雪香に軽く殴られる。
「とにかくだ!私は君に興味が湧いた!一対一の決闘と洒落込もうじゃないか!!」
「は?やだね面倒くさい」
「何故なんだぁぁ!!」
 またまた悔しそうな刃の声が永久氷山に響き渡った。
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