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黒瀬遥香

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準々決勝最終試合。拳対悠馬の戦いのゴングがなった。
「ではいくぞ!我が全力をもって相手しよう!!うおおおお!!」
拳が直ぐに間合いを詰めて悠馬に襲いかかる。が、悠馬はそれを右に飛んでかわす。
「いいぞ!そうでなくてわなぁー!!!」
(はやい!これじゃあ全部はかわせないぞ!?)
拳は悠馬にどんどん素早くなる殴りを繰り広げ、悠馬がそれをかわす。これが何回も繰り返された。
「おのれ!貴様避けてばかりではないか!!しっかり戦いにこんかぁ!!」
「は?やだね。あんたみたいな脳筋と違って俺は戦略的に戦うんだよ」
「な!なにをぉ!!!」
拳が先程よりも更に一直線に殴りかかってくる。
「悠馬さん。相手を罠にかけましたね!」
「うん。それにしたって単純過ぎない?」
メイと桜がベンチでそう話していると拳が悠馬の前で突然止まった。そして止まらなければ拳がそこにいたであろう場所に水刃龍が地面から這い出てきた。
「は?なんで分かった!?」
「貴様の仲間の声が聞こえたからな。俺を怒らせて罠にかけようとはやるではないか!!」
「そんな、この距離で私達の会話が聞こえたって言うの?」
「どんな耳してるっスか」
「こんな耳だぁ!!」
拳の声に遥香がビクッと震えた。先程の遥香の声もバッチリ聞こえていた様だ。
「拳の勇者は身体能力を上げるって聞いたけど、まさか聴覚も上げられるのか」
「そうだ。これこそが勇者の中で最強の力だと思っている!!」
拳は今度は今までよりもはやく、強いパンチを悠馬に叩きつけた。
「ガッ!!水晶壁!」
拳に吹き飛ばされた悠馬が場外になる前に水晶壁で自分の体を止めて会場に残った。
「なんと!いいな、それでこそ心踊る!!」
「なるほど。出し惜しみなんて出来ないって訳か!」
「右ストレート!!」
「風絶神居!!」
拳の腕と風の鎧がぶつかり合う。拳は悠馬が美樹や美玲の技を使っていることを少しも不思議に思ってもいない様だ。
「リミッター解除!!全ての力をこの腕に!!パーフェクトフィスト!!!!」
「風よ集え!この拳を止めてくれぇ!!」
凄まじい技の激突。悠馬の風が拳の腕により周りに吹き荒れ、周りの冒険者が吹き飛ばされる。
「はぁぁぁぁぁ!!」
「ぐ!ぐぁぁぁぁ!」
悠馬の風が拳に打ち消される。そして悠馬がダンジョンの壁にいくつもの穴を開けた。
「な」
「嘘?」
「パパ!!!」
「勝負あり!この激闘を制したのは、俺だぁぁぁぁ!!!!!」
拳の腕は悠馬の風に切り裂かれ、右腕が会場に落ちていたが、残っている左腕を天に掲げ勝利を叫んだ。
  ◇
「悠馬さんはどうですか?」
悠馬と拳の戦闘からしばらく後。準決勝は一時間後となり、準決勝に進んだ遥香とメイはクジを引いた後意識が戻らない悠馬の元へ戻ってきた。
「ちゃんと息はありますしもうすぐ起きるとは思うんですが」
「パパを殺そうとしやがって!許せん!」
「まあ仕方ねえだろ。悠馬だってあいつの腕を斬ったんだからな」
悠馬は風絶神居が破られることを途中で分かったから魔王剣で一瞬のうちに相手の腕を斬ったのだ。しかし拳に吹き飛ばされる方が早かったのだ。
「よーし!準決勝を始めるぞ!!参加者は集まれぇぇぇぇ!!」
「ママ。パパのことよろしくね」
「任せて。頑張ってくるのよ」
「行ってくるっス」
「おう。気張ってこい!」
準決勝にすすんだのは遥香とメイとスリーと拳の四人だ。この四人の中の優勝者は誰だ!?
「では組み合わせ発表といきたいが、その前にこれを」
「は?なにこれ?」
拳がメイに真っ白な球を差し出した。
「これは副勇者様に作って頂いた回復の光の入った球だ。ユージに使ってやって欲しい」
「え?いいっスか?」
「勘違いするな。これはあくまで参加者にする対応。お前達はこれが終わった後必ず殺す」
「な!スリーさん。やっぱバレてました?」
拳がいつまでも気づかないことに痺れを切らしたスリーが遥香に話しかけた。
「ここまで派手にやって気づかないのは情報を知らない奴か余程のバカだ。そこのやつの様にな」
二人の会話を気にせずメイは白の作ったものと聞いて不満を露わにしたが、悠馬の回復を優先して桜に回復の球を持って行った。
「よし。これで躊躇わず戦える。では準決勝第一試合!!スリー対ハルだぁぁ!!!」
「「!!」」
遥香とスリーが驚いた様に目を見開く。二分の一の確率なのだからそこまで驚くこともないが、驚かずにはいられなかった。
「ってことは?」
「ああ。お前の相手は俺だ!もちろん腕を治っているから全力で戦えるぞ!!」
「パパの仇だ。お前はしっかり殺すからな」
メイと拳が言葉を交わし終えると会場を後にした。とはいえ会場は既にボロボロだったが、新しく準備する時間もないのでこのままの会場で続けることになった。
「遥香ちゃん。頑張って」
「大丈夫だ桜。遥香を信じよう」
桜が両手を合わせて祈る様にしていると後ろから悠馬の手が左肩に置かれた。
「あ!悠馬さん!起きたんですね!!」
「まあね。メイのお陰かな。それよりほら、始まるよ」
「準決勝第一試合!スリー対ハル!開始!!!!!」
「はぁぁぁぁぁ!!」
「せぇぇぇぇい!!」
スリーと遥香のクナイがぶつかり合う。そしてお互いに距離を取り手裏剣を投げる。お互いの手裏剣がまたしてもぶつかり合い、またクナイを持って襲いかかる。スリーと遥香は全く同じ戦い方をしていた。
「「起爆手裏剣!」」
会場の真ん中で起爆札のついた手裏剣が爆発した。しかし今度はスリーが少し早くクナイで襲いかかった。
「フォーよ。何故勇者を裏切った?どうして私達を裏切った!」
「うんざりだったんスよ!本当の口調を隠すのも!厳しい特訓も!勇者からのセクハラも!味の薄くて少ない飯も!!」
遥香がクナイを弾いてスリーの腹に蹴りを入れる。
「だから抜けた!自分は忍者になりたかった訳じゃないっス!!」
「なら、何故まだ続けているんだ!忍者を!!」
遥香とスリーがクナイをまたしてもぶつからせる。もう手裏剣や起爆札は使わずに。
「そんなもん、人助けが出来るから、スよ。あのまま水の勇者に仕えてても、人を助けることなんて出来ない。でも!悠馬さんなら、皆となら助けてあげられる!もう二度と自分の様な捨て子がいない世界を作ってやるっス!!!」
「甘えたことを!私達では勇者には勝てない!だから、この世界は変わらないんだ!」
「変えられるっス!確かに自分だけじゃあ無理っスよ。でも!悠馬さんと!桜さんと!メイさんと!恭平さん。皆の力を合わせれば出来るっス」
遥香がクナイに更に力を加える。スリーも負けじと力を更に入れるが遥香の方が一歩有利な状態だ。
「お前は強いな。ああ。認める。お前は強いよ。私達が逆らうことが出来なかったのにお前は逆らったんだ。凄いと思う。けどな、だけど!現実を見てみろ!!」
力負けしたスリーは煙幕を地面に発生させて姿を消すと遥香の首を掴んだ。
「ぐ!うぐぅぅぅ」
「これが現実。魔王は勇者に敗れお前もここで負ける。世界を変えることなんて出来ないんだ。フォー」
「ち、が、う」
「何?」
「違うっスね。さっき言ったでしょ?一人じゃ無理だって」
遥香の言葉を聞いて少し動きが止まっていたスリーの目の前に起爆札が見える。
「しまっ!」
そして起爆札は遥香とスリーを巻き込んで大爆発を起こす。
「自分は変われた。たとえ世界を変えることは出来なくても、自分を変えることは出来る。変わった自分と変わっていないあんたじゃどっちが勝つかは明白っス」
「おのれナンバーフォー!!!」
「今の自分は遥香!魔王軍の協力者の、黒瀬遥香だぁぁぁぁ!!!!!」
遥香とスリーがクナイでお互いを斬り合った。そして居合斬りの最後の様に二人が止まる。
「見事だ。"遥香"」
そして、スリーが倒れ遥香だけが立っていた。
「勝負あり!準決勝第一試合を制したのは!ハルだぁぁぁぁ!!!!!」
「悠馬さん。桜さん。メイさん。自分、やった、ス」
遥香は皆の歓声を受けながら前のめりに倒れこんだ。
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