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レッツダンジョン
しおりを挟む「ふっふっふ。遂に、遂に手にいれた」
薄暗い部屋の中で一人。ある女は呟いた。
「これで、これさえあれば!私は魔王になれる!!」
「なにやってんだ遥香?」
「・・・・・・・・・・・」
魔王軍の移動手段、デビルん号こと魔導車の部屋の一室。遥香は悠馬から黙って奪った魔王剣を掲げて厨二っぽいことを呟いていたのだ。
「ぎぃゃゃゃゃゃ!!ゆ、ゆゆゆ悠馬さん!?何故ここにぃ!」
「いや会議の時間になってもミーティングルームに来ないから呼びにきたんだけど。魔王剣持って何してるのさ?」
「・・・すぐ行きます。すぐ行くので先に部屋から出て下さいっス」
「え?いやだから魔王剣で何を」
「いいから出てって下さいっス!でてけっていってんスよぉ!!」
遥香が魔王剣を悠馬に向かって投げつけて悠馬が部屋の外に叩き出される。
「はぁ、はぁ、はぁ、死にたいっス」
今、遥香に黒歴史というものが作成された。
◇
「すーはー。すーはー」
遥香がミーティングルームの前で何度も深呼吸をしている。流石に今悠馬と顔をあわせるのはとても恥ずかしい。
「早く入ってよ遥香」
「うおお!メイさん!いつのまにまに」
「ずっと後ろにいたよ?なんで深呼吸してるの?」
「・・・色々あったんスよ」
遥香がため息をつきながらミーティングルームの扉を開けた。
「あ、遥香。厨二病の発作は治った」
「ちょぉぉぉい!!」
悠馬の言葉が最後まで出る前に遥香が悠馬の口を塞いだ。
「ほい!はにふんだよはうか!」(おい!何すんだよ遥香!)
「そのことは内密にお願いしてするっス。一時の気の迷いなんスよ」
「遥香ちゃん?悠馬さんと何があったんですか?」
悠馬と遥香の距離が近いのが気になったのか桜が怖い声を出す。この声を出すときは大体悠馬に疑いをかける時か、メイを本気で怒るときである。珍しくもないからもう分かる。
「これは誤解だよ。遥香が厨二らし」
「だから一時的な発作っス!忘れて欲しいっス!」
「ちゃんと説明して下さいね?」
悠馬が説明しようとすると遥香が口を塞ぎ、桜が喋ると悠馬が説明しようとして遥香が口を塞ぐ。この繰り返しだ。
「ねえ恭平。メイつまんない」
「お前は悠馬と遥香のやつ興味ないのか?」
「遥香はメイの暁の月の効果が少し残ってるからメイに逆らうことは出来ないからね。パパに手は出せないんだよ。だから安心。メイはママほど怒りっぽくないのである!」
メイが胸を張る。その姿は見栄を張る子供らしい行動だった。
(もう面倒くさいからこっちで話すけど、遥香が魔王剣で厨二病っぽいことしてただけだよ)
「なんだそうだったんですか。それなら安心です」
「言わないでって言ったじゃないっスかぁー!!あと安心ってなんス、か?」
遥香が悠馬にポカポカ殴ろうとしたが何かを思い出したかの様に手を止めた。
「どうした?」
「悠馬さん。さっきどうやって話しました?自分は口を塞いでたと思うっスけど」
「あ、そうえばそうですね」
「ああ。話してなかったっけ」
悠馬が今までのことを話した。
緑と美樹のこと、美樹が勇者になった経緯。緑の能力など。
「つまりは緑の能力である念話が美樹じゃなく緑の魂の時に触れたことにより使える様になった訳だな」
「凄いパパ!ちょっとメイと恭平を繋いでみて!」
「ちょっと待てよ、えっと」
悠馬が集中してイメージを膨らませる。まず悠馬とメイを繋ぎ、悠馬と恭平を繋ぐ。そして最後にメイと恭平を繋ぎ、完成である。完成までおよそ一分くらいかかった。
(パパ、恭平、聞こえる~?」
(聞こえるぞ~)
「うお!凄え!メイと悠馬の声が頭の中に!」
「自分達には聞こえないっスね」
「悠馬さんが繋いだ人にしか聞こえないんですね」
(うーん。でもパパには聞こえちゃうのか)
(そりゃあ俺が繋いでるんだからね)
「おい、俺も繋がれてるのに念話で話せないぞ!?どうやってやるんだ!?」
(なるほど、恭平はバカだね!大バカだ!)
「な、なんだと!!」
「いつまで経っても」
「本題に入りませんね」
その後念話の練習が始まって、会議は二時間程遅れて始まった。
◇
(よし。じゃあ本題に入ろう)
「ちょっと待てよ。なんでまだ念話を続ける?もういいだろ」
(拗ねるなよ~恭平だけ念話出来なかったからって~)
「う!うるせー!!」
始めて念話を披露してから二時間。悠馬はもちろん、メイ、桜、遥香はすんなりと念話を受信して発信することが出来たのだが、恭平だけは受信しか出来なかった。もちろん悠馬が最初に始めなければ皆出来ないし、皆と繋げるのに時間がかかることもあり実践では使えないだろう。改良する必要がある。
「今度こそ本題に入ろう。今俺たちが向かっているのは拳の勇者がいる場所。武神のダンジョンだ」
「ぶしんのだんじょん?」
メイが意味が分からないと首を傾げて教えてくれたので桜にお願いしてホワイトボードをまた出してもらった。
「武神のダンジョンとは、かつてこの地に降り立った神、タケミカヅチの魂が眠ると言われている迷宮のこと。武神と呼ばれる神タケミカヅチはその名の通り武術のエキスパートらしく、その魂に認められた者は武神の力を授かれるらしい」
「本当にそんなのあるっスか?まあ本当にあったらめちゃくちゃロマンだし絶対欲しいっスけど」
「そんなもんある訳ねえだろ。夢見んなよ?」
遥香が楽しそうにしている所を恭平が邪魔した。そしてそのことに怒ったのか遥香が恭平に見事なアッパーを炸裂させた。
「どうっス、武術には多少の心構えがあるっスよ!」
「いや、だからなんだよ」
「悠馬さん質問です。そんな所に拳の勇者は何をしに?」
恭平が殴られているのを無視して桜が手を挙げた。
「武神の力が欲しいって言って急に旅立ったらしい。拳の勇者、笹野拳(ささの けん)の能力は自分の限界を突き破る力らしいよ」
悠馬が美樹から聞いた話をそのまま伝える。美樹の話によると、笹野拳は生前はプロボクサーだった。なんでもどんな大会にも参加しては優勝をもぎ取って回っていたらしい。家族構成は父がプロボクサー。母もプロボクサー。ついでに祖父もプロボクサー。先祖代々プロボクサー。というアニメみたいな家族構成。言われてみれば笹野拳って少し聞いたことがある名前だった。日本にいる時に聞いたのだろうか。
「まあそれで拳の勇者の能力が自分の限界を超えた力を出せるってことだからその自分の力をさらに強く出来たら更なる力が出せると思って半年前からダンジョンに行ったと」
「拳の勇者がダンジョンに行ったって話は聞いていたが、そんな理由だったとはな」
「理解した!」
どうやら皆ここまでは分かった様だ。
「まあ俺たちの目的は当然拳の勇者、笹野拳の討伐。そして拳の勇者の能力である限界突破の力を手に入れることだ」
「ええ。私もメイも以前よりは強くなりましたが、それでもあの女には勝てる気がしませんからね」
「刈谷白。あのゴミクソ勇者」
桜の言葉を聞いた途端メイの口調が悪くなる。メイは時々言葉が悪くなったり汚い言葉を殺意を込めて放ったりする。桜によるとまだメイは幼いので神ツクヨミの力を制御しきれていないとのことだ。神ツクヨミの喋り方はこんなの何だろうか。
「とにかく、今回の目的は俺たちのパワーアップって事だ」
「もしかしたら自分達の誰かが武神タケミカヅチの魂に気に入られるかもっスよ!そしたら更にパワーアップっス!」
「だからそんなの居ねえって」
「信じる人に神は舞い降りるんスよ~」
などと話している間にデビルん号のスピードが遅くなって止まった。
「お、ついたな」
「そうですね。では行きましょう、悠馬さん」
「ああ!ダンジョン攻略だ!!!」
悠馬はいち早く準備していた荷物を抱えてデビルん号から飛び出した。ダンジョンにまだ見ぬ冒険と出会いを求めて!
「「「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っちゃいなーい!!!!」」」
「何行ってんだお前ら」
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