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娘と名前
しおりを挟む悠馬が異世界に召喚されてから、四年の月日が経った。
その四年間は驚くほど平和で悠馬は思う存分特訓ができた。
「はああ!」
悠馬がケルベロスに剣を振るう。
「甘いぜ!黒爪(ダーククロー)!] 解説黒爪とはケルベロスの能力の一つである。爪を長くして剣の様にする能力。黒い。
現在悠馬は実戦場でケルベロスと特訓中だった。
「喰らえ!咆哮!
「咆哮!」
ケルベロスの咆哮を悠馬も同じ技で打ち消す!
「ドレイン!!」
悠馬がケルベロスも腹に手をあてた。
「げ、しまっ、た」
ドサッ。 ケルベロスが倒れた。
「また俺の勝ちだね。兄貴」
「くっそぉ。これで百五十七連敗じゃねえか」
(数えてたのかよ)
悠馬が少し失望した目をした。
「パパー!!!!!!!!」
突然に悠馬の腹に小さいものが飛び込んできた。しかし悠馬は優しく受け止める。
「えへへ~。止められちゃった」
この混魔族、デミヒューマンの女の子は悠馬とメドゥーサの娘の黒瀬メイ。三歳である。
母親譲りの薄紫の髪と牙。髪の毛はロングでコウモリの髪飾りをつけている。
「お疲れ様。悠馬さん。ケルベロスさん」
少し大きくなったメドゥーサはそう言ってタオルを差し出す。
「今思ったが悠馬。お前でかくなったな」
唐突にケルベロスが言う。現在の悠馬の身長は百七十二センチで、それほどでかくはない、筈だ。
「まあ身長は置いといて強くなった気はするかな」
「パパは強いもんねー」
「はい。パパは強いですね」
「俺が弱いって言いたいのか?」
ケルベロスが不満そうな声を出す。拗ねているのだろう。
「別にそんなこと言ってないじゃんか。兄貴も強いと思うよ?」
「でもパパの方が強いよねー」
なんでこの子は傷を深くしてしまうのか。
「じゃあそろそろ行くか?」
「おお!遂にですか」
二人がなにやら深刻そうな声を出した。
「何?どっか行くの?」
「お前強くなった目的忘れてるんじゃないだろうな?勇者退治だよ」
ケルベロスが呆れたように言う。
「あ、そっか。それじゃあ名前考えようよ」
「名前、ですか?」
メドゥーサとケルベロスが首を傾げる。まあ当然の反応だろう。
「いつまでもメドゥーサとケルベロスじゃあダメでしょ。街に出たら他の人間もいるんだから違う名前決めなきゃ」
「メイはメイじゃなくなるの?」
「いや、メイはメイのままでいいんだよ」
そう答えながらメイの頭を撫でる。メイは頭を撫でられると凄く嬉しそうな顔をした。
「えへへ~そっかー」
「じゃあ俺とメドゥーサの名前だけ決めないとな」
「実はもう考えてあるんだけど、いいかな?」
悠馬は発言するときの様に手を上げた。
「メドゥーサは黒瀬桜で兄貴は犬塚恭平でどう?」
「黒瀬桜ですか!可愛い名前ですね!」
「ママは桜ちゃんだぁー!」
この二人を見ているとなんだか口元が緩んでしまう。この親子のやりとりはそれだけ微笑ましいものなんだとよく分かる。
「おおい!なんで俺だけ黒瀬じゃないんだよ!?」
「だってケルベロスっていったら犬ってついた苗字かなって」
「別にメドゥーサだって桜関係ないけど桜じゃねえか!恭平はいいとしてなんで黒瀬じゃねえんだ!!」
何故この人はここまで否定してくるのだろう。別に苗字が違ったところで仲間はずれにとかそんなことしないのに。
「恭平だけ仲間はずれだぁー!」
あ、されてる。まさかメイに仲間はずれにされているとは思わなんだ。流石の悠馬さんもビックリです。…なにキャラだこれ。
「とにかくやり直しを要求する!さっきも言ったがメドゥーサと桜は関係ねえじゃねえか!」
「関係ならある!」
悠馬がやけに鋭い声で反論する。
「メドゥーサといったら桜!桜といったらメドゥーサという関係がある!」
「どんな関係だ!いってみろお!」
流石にそれはいけない気がする。この名前を使っちゃっていいのかすら微妙なところなのに、関係性をいうのは流石にいかんだろう。
「恭平は犬塚が合ってると思うの。メイが言うんだから間違いないよ!」
「こらメイ!ケルベロスさん、じゃなくて恭平さんをいじめちゃダメですよ!」
体育座りして落ち込む犬塚恭平(仮)の足をメイがぺしぺしと叩く。流石に可哀想になってきた。
「じゃあいいよ。兄貴も黒瀬で」
「その言葉を待ってたぜ!これで俺は黒瀬恭平だ!」
急に恭平が立ち上がって叫ぶ。正直うるさい。
「ねえパパ。メイは似合わないと思うの」
主語がないのではっきりはいえないが、メイは黒瀬恭平が似合わないと言っているということは分かった。だが黒瀬にしないとこの人はまた拗ねてしまいそうだ。どうしよう。
「ねえパパァ!恭平に黒瀬は似合わないよぉ!」
「何言ってんだメイ!めちゃくちゃ似合うだろうが!」
恭平とメイがお互いの服を掴みあって口論している。ほっとくと服が伸びてしまいそうだ。
「服が伸びるので掴むのはやめましょうね?服を作るのは誰か忘れてはいないでしょう?」
メドゥーサ、桜が静かにしかし迫力のある声を出す。
「…………」スッ
二人は無言で自分の手を元の場所に戻した。
桜のこういうところは本当に怖い。悠馬は怒らせないようにしようと改めて決意した。
「で!俺の苗字は黒瀬だよな?な?」
「恭平は犬塚だよねぇ!ねぇ!」
こんどは悠馬の目の前にきて抗議を始めた。正直どっちでもよくなってきた。
「頼むよ!黒瀬にしてくれたらジュース奢ってやるから!」
恭平はこういっているがこの世界に自販機は無い。ついでにいうと食料や飲料水はジキル先生?という人が作った機械を使い桜が調達している。あの機械はどれだけ便利なのだろう。法律に引っかからないだろうか。まあドリンクは桜が作ってくれるからジュースを奢ってもらう必要は無い。
「パパ!恭平を犬塚にしてくれたら、えっと、えっと、チューしてあげるよ!」
「これは後者かな」
ちなみに悠馬はメイに結構甘い。だが悠馬は「父親なら誰でも娘には甘い!はずだ」と語った。
「おおい!諦めるな悠馬!」
いったい俺は何を諦めようとしているのだ?全く分からない。
「パパァ!パパってばぁ!」
「ん?」
「メイのお願い、きいてくれないの?」
メイが涙目の上目遣いで言ってくる。ケルベロスの苗字が犬塚に決まった瞬間だった。
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