平和の代償

藤丸セブン

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七話 アヴィオール・ヴィヴィクテス

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「遅いぞ」
「ごめん。美少女を助けていた」
 とっくに鍛錬が始まっている鍛錬場に辿り着いたアルタイルはアヴィオールの言葉に言い訳を繰り出す。偶然にも眼鏡を持っており偶然にもミラを助ける事が出来たので言い訳としては完璧だろう。
「見たところ嘘をついている目ではないな。だが、女の子を助けて二時間以上も遅れるとは考えずらい。大方変な事をしようと考えて遅刻。急いでこちらに向かう間に偶然困っている女の子を発見して救助。そしてそれを言えば遅刻の言い訳になると考えたのだろう」
「エスパー?」
「これでもお前と十年近く共に暮らしてきた。お前のしそうな事くらいは分かるさ」
 首を傾げるアルタイルにアヴィオールは笑いながら答える。こういう時は素直に謝罪するに限る。
「遅刻してごめんなさい」
「もういい。今後は遅刻などしない様に」
 優しく頭を叩きアヴィオールはアルタイルから離れる。今回は完全にアルタイルが悪い。しっかり反省して次に活かすとしよう。遅れた分を取り返そうと魔剣を握ると、
「敵襲ー!アヴィオール隊!出撃をお願いします!」
 見張りと思われる魔剣士ではない兵士が走って叫んだ。
「敵襲だと!?敵国は!?」
「ワールスア帝国です!」
「ワールスア。一番大きな国か」
 ワールスア帝国は平和戦争をしている四つの国で一番大きな国である。対してアルタイル達が在籍しているスタレイスは四つの中で一番小さな国だ。人口もワールスアとスタレイスでは2.3倍の差がある。つまり全力もそれだけの差があるという事だ。
「敵兵の数は?」
「およそ一万程です」
 レグルスの問いに兵士が答える。アヴィオール隊の総員は約五千人。数は確実に不利だ。
「ちなみに他の隊は出られないのか?」
「プロキオン隊は現在進軍中でスタレイスにおりませんし、アトラス隊は現在負傷兵が多く出撃は困難です」
「そうだな。行けるのは俺たちだけだ」
 レグルスが厳しい顔を見せるとアヴィオールは切り替える様にレグルスの肩を叩く。アヴィオールは他の隊の状況は理解していた様だ。
「部隊って三つしか無いのか?」
 アルタイルが疑問に思った事を口に出し、ベガもうんうんと頷く。
「あんたらは。小隊とかも含めるともう少しあるけど、基本は大隊の中に小隊がある感じなの。それに一箇所の戦闘に全軍を出す訳にもいかないでしょ」
 二人の質問にシリウスが答える。ただでさえスタレイスは魔剣士が少ない。故に出撃できる魔剣士も少ない。
「よし!アヴィオール隊出撃!全員万全の準備を整えて行け!」
「「「了解!」」」
 突然の事ではあるものの一同は即座に行動し始めた。
  ◇
 スタレイス帝国南門。そこから出て数時間進んだ場所で一同は待機した。
「見えるか?」
「はい。ワールスアの旗と大軍が見えます」
 遠くまでよく見える望遠鏡で隊員の一人が状況を伝える。どうやら兵士の情報は間違っていなかった様だ。
「よし。総員出撃!救急班も待機してくれてはいるが、無茶はするな!生きて帰れ!」
「「「了解!」」」
 アヴィオールの言葉に呼応して魔剣士達が一斉に駆け出す。その様子は壮観だがただ見ている訳にはいかない。
「ベガ!」
「分かってる!」
 駆け出した他のメンバーに少し遅れてアルタイルとベガも走り出す。そしてベガが強化された腕でアルタイルを掴み前線へアルタイルを投げ飛ばす。
「フレアフレイム!」
 大きく飛び上がった剣先から高熱度の火炎を放つ。味方は巻き込まずに敵だけを焼き尽くす。見事な先制攻撃だ。
「なにぃ!?」
 しかし敵軍はみな無傷。アルタイルの火炎は最も簡単に防がれていた。
「総員!構えぇ!」
 敵軍の大将と思わしき声が響くとワールスアの魔剣士達が一斉に剣を構える。
「やべっ!」
「放てぇぇ!」
 前線に立っている魔剣士達がそれぞれの魔法をアヴィオール隊に放つ。現在そのアヴィオール隊の最前線に立っているのはまさしくアルタイルである。
「くっ!」
 着地と同時に敵の攻撃が飛んでくる。それ故に炎による防御が間に合わない。
「・・・あれ?」
 しかし覚悟していたダメージは来なかった。よく見るとアルタイルや他の隊員達の前に透明な障壁が張られていた。
「迂闊に攻めるな、死ぬぞ」
「助かった。肝に銘じるよ」
 アルタイルがレグルスにお礼を言っている間に他の隊員達は障壁を盾に前進。敵に挑みかかっていた。
「くそ、出遅れた」
「どうしたのアル。いつものアルらしくない」
 先陣に加われなかったことをアルタイルが少し悔しそうに呟きその様子にベガが疑問を持つ。
「アルは好戦的だけど、別に手柄が凄く欲しいって感じじゃ無いじゃん」
「ああ、確かにそうだな」
 アルタイルはベガに言われて初めて自分が活躍するという事に執着している事に気がついた。アルタイルは魔剣士となってから変わった。しかし幾ら変わろうとアルタイル・ヴェルガスである事は変わらない。自分の心情の変化にあまり興味がない。それがアルタイル・ヴェルガスという男だ。
「何かあったの?」
「いや、別に何かがあったって訳じゃないが」
 アルタイルの脳裏に今日初めて出会った少女の言葉が響く。「あなたは魔剣士として立派に活躍して!」と。どうしてその言葉を特別視しているのか、どうしてその言葉が妙に頭に残っているのか。その意味は分からない。分からないが。
「何となく、その期待に応えたいと思ったんだ」
「ふぅん。よくわからないけど、アルは活躍したいの?」
「・・・ああ、手伝ってくれるか?」
「いいよ。私達は運命共同体だから」
 ベガが少し微笑んで前を向く。戦場は更に激化していた。
「アヴィオール殿!後方からワールスアの援軍があります!数は、およそ五千!」
「ここで援軍か、これ以上の戦争の激化は不味い」
 ただでさえ数で負けており、敵兵は一人一人も強い。だというのにこれ以上の数での差は明確な敗北に繋がる。
「ここは、自分達の国へお帰り頂こうか」
 アヴィオールがそういうとゆっくりと前線へと出ていく。
「アヴィオール様!?総大将が前線に出ては」
「大丈夫だ。俺はどうにも後方で指示をするのには向いていなくてな。やはり戦場に出たくなる」
 アヴィオールは腰から下げられている自分の魔剣を鞘から抜き地面に突き立てる。
「俺の名はアヴィオール・ヴィヴィクテス!この軍の大将だ!」
 敵兵一人一人に声が響く様にアヴィオールが叫ぶ。
「この部隊は俺が指揮しており指揮官が不在となってはこの戦いの明確な敗北に繋がるだろう!故に!俺は大将戦を申し込む!!!」
 大将戦。それはその名の通りその隊を率いる大将同士が殺し合い、生き残った方が勝者という実に分かりやすいルールである。
「大将戦だと?数で有利な俺たちがわざわざ大将戦なんか受ける訳ねえだろうが!!」
 ワールスアの大柄の魔剣士はアヴィオールの提案を断り五人程で一気にアヴィオールへ襲いかかった。
「アヴィオール!?」
「大丈夫だ、見ていろ」
 魔剣に切り裂かれそうなアヴィオールを心配してアルタイルが声を荒げるがその声をレグルスが制止する。
「やれやれ。お前たちの犠牲を少なくしてやろうと思っての提案だったのだがな。残念だ」
 アヴィオールは五人による剣撃をたった一本の剣で防いでいた。
「なっ!」
 大柄の魔剣士がアヴィオールに攻撃を防がれた事に驚愕する。その次の瞬間、首が胴体から離れた。
「ひっ!」
 それを目の前で見て悲鳴をあげそうになった魔剣士も悲鳴を上げる事が出来ずに息を引き取った。その他の三人に至っては一言すら発する事は無かった。
「さて、もう一度問おうか。俺は君達の大将と一騎打ちを。大将戦を望む」
 アヴィオールが今一度そういうとワールスアの魔剣士達はアヴィオールの言葉を後方にいる大将に伝える為に撤退していった。
「強い」
「当たり前だ。あの人こそが、我らスタレイス帝国一の魔剣士。アヴィオール・ヴィヴィクテスなのだから」
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