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10、病院の友達
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翼宿が、病院で友達ができたと、すばると翼宿に話したのは、中二の秋だ。
すばるは、翼宿が病院に通っている本当の理由を知っていたし、その頻度を心配していた。夏の悪夢の時に、病院に行く回数が増えるのはわかるけれど、秋になっても減っていない。そのことが気になって、最初は、どこの誰と友達になったのか詳しく聞かなかった。
帰り道、いつも通り三人で歩いていたが、駅に向かう道に差し掛かると、翼宿は、言いにくそうに手で髪を触る。
「あ、俺、今日も駅に行くから・・」
「今日も病院?」
望の驚く声に、翼宿は、困った顔で取り繕うように笑う。
「あ、あぁ。いや、この前言った、病院で友達になったA中学のやつと会うんだ。むこうは、病院にリハビリに通ってるから」
「あぁ、そういうことか」
翼宿が診察を受けているわけじゃないとわかって、望は、納得したように頷きながら、メガネをずらして眠そうに切れ長の目をこすった。
望は、すばると同様に、翼宿が病院に行く理由を、小さい時に治った病気の経過観察のために、今でも定期的に通っていると言われているから、真実を知らないし、すばるも真実を知らないことになっている。だから、すばるは、何も言わなかったが、翼宿の母親に、病院で友達に会っていることも事実だが、行くたびにカウンセリングを受けていることも確認済みだった。
今さら、翼宿の身を守るための嘘を暴くつもりはなく、仲良くなったという友達のことを聞いてみた。
「リハビリってことは、その人、どこが悪いの?」
翼宿は、「うーん」と、頭をかいた。
「足かな・・?」
「足ってことは、骨折とか? じん帯?」
煮え切らない翼宿の答えに違和感を感じて、さらに質問を重ねた。
「あー、骨折かな。結構激しく骨折したみたいで・・。足っていうか、腰のとこからやってるみたいで」
「それ、かなり重傷なんじゃねぇの?」
望も思っていたケガと違ったようで驚いていた。
「あ、あぁ・・」
「今は、じゃあ、車いすとか?」
のぞきこんで翼宿の表情を確認しながら聞くと、あからさまに翼宿は目を泳がせた。
「う、うん、まぁ・・」
「え、そこまでのケガって、学校で? 事故とか?」
すばると望が交互に聞いてくるから、翼宿は眉間にしわを寄せつつも、何とか答えているが、この状況を切り抜けようとしているにしか感じられなかった。
「あ、いや、事故とかじゃないらしいんだけど、俺もなんでケガしたのか聞いてないから」
「最近、よく会ってるのに?」
「や、そうなんだけど、なんか、いつも、そういう話までいかないっていうか、ハヤトとはくだらない話しかしてないんだけど・・」
「ハヤト?」
さっきまで眠そうだった望の目が、すっと翼宿を見る。
「あー!! いや、あの、は、早く行かないと。バスの時間もあるし!」
翼宿は、振り向きもせずに、「じゃあ、明日!」と、走って行ってしまった。
「・・なんだ、あいつ」
望が短い髪をなでつけながら、呆れながらそう言ったが、すばるは、衝撃を受けていた。
A中学のハヤト。
(そうか、それで・・)
翼宿が曖昧に答えて隠そうとしていた理由がわかった。
(あぁ、でも、望が言っていた通り、自殺に失敗して、目を覚ましたんだ)
富士ハヤトが生きていることに、心からよかったと思った。本当にそう思ったが、今の富士ハヤトの状況を知らない。
(富士ハヤト自身が、自殺に失敗してよかったと思えているだろうか?)
すばるは、胸に手を当てて、ぎゅっと目を閉じた。
(どうか、生きいていてよかったと思える状況でありますように)
「すばる? どうした?」
望に声をかけられて、すばるは、いつものように笑顔になる。
「ううん、なんでもない」
すばるは、ゆっくり歩きだし、望には脈絡がなくて唐突だと感じるだろうとは思ったが、「俺さ」と、話し出した。懐かしい思い出。精神年齢を引き上げた一度目の体験を。
「小二の時、へらへらして気持ち悪いって言われたことがあるんだ」
「・・うん」
望は、一瞬だけ眉をひそめたが、直ぐに真剣な顔で頷く。
「にこにこしてていいねって、大人から褒められることは多かったし、そんな風に言われたことなかったから、すごくショックで。しかも、それから、事あるごとに、へらへらしやがってって、他の人に気づかれないようにわざとぶつかってきたり・・。そういうのが続いて、学校行くのも嫌になって」
「うん」
すばるの息継ぎに合わせて望の声変わりの終わった低い声が、ちゃんと受け止めてくれる。
「でも、学校でどんなに嫌なことがあっても、家に帰ってきたら、翼宿がいて、毎日夕方まで遊んで、その時間だけが楽しかったんだ。あ、その時は、翼宿とは違うクラスだったから、翼宿はそのことを全然知らないんだけどさ」
「うん」
「アレは、いじめの中では軽い方だったのかもしれないけど、それでも、辛かった。翼宿との楽しい時間があったから、負けなかったし、へらへらし続けてやるって思ってたら、そのうちなくなったけど」
「うん」
「それで、俺、友達ってこういうのを言うんだなって思った。他の場所での俺を知らないけど、いつでもここにくれば対等な関係でいられるもの」
「・・。うん」
最後は、望の頷きに随分間があり、何か考えている感じだった。
「まぁ、そういうことがあったっていうだけ。なんか、思い出したからさ」
「なんだよ、それ」
望の目は何かまだ考え、すばるを観察しているが、それ以上は追及してこなかった。望らしい。
(だから、富士ハヤトの辛さが、想像できる。わかるとは到底言えないけれど)
もう一度胸に手を当てて願う。
(どうか、富士ハヤトにもそういう場所や友達ができますように)
でも、ここで、富士ハヤトと翼宿が出会ったことに何か意味があるのかもしれない。
その予感は、なぜか、全身に鳥肌を立たせた。
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