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第45話 私へのお母さんの想い
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山石君の顔を見た時も、ご両親の挨拶を聞いてる時も、みんな泣いてるのになぜか私だけ全然泣くことができなかった。どこかに、あの病室にでも気持ちを置いてきぼりにしてしまったんだろうか。とにかく、山石君に関わることを全て心に残しておこうと、頭と心に刻み込むように周りの様子を見回してばかりいた。
葬儀が終わった帰り道、みんな泣き終えてスッキリしたのか、この後どこかに寄って帰るかとか学校がどうとかいう話をしていた。若さゆえの残酷さというか無邪気な罪深さというか……その切り替えの早さについていけず、1人歩みを緩めてクラスメイトたちの群れから離れて歩いていた。
その時、会場の方から声を掛けられて振り返ってみると山石君のお母さんが追いかけてきていた。
「つばめちゃん、今日はありがとうね。いや、お礼を言わなきゃなのは今日だけじゃないわね。ずっとお見舞いにも来てくれて、最期まであの子についててくれて本当にありがとう。」
お母さんはしきりにお礼を言ってくれるけど、本当にお礼をしなきゃいけないのはこっちなのに、と思いながらも上手く返す言葉が見つからなかった。お母さんは目を腫らしていたけど、病院で会っていた時と変わらず強く前を向いて毅然とした姿だった。最愛の息子を失ってもまだ、母としての強さは健在だった。
「……本当にね、あなたには私も夫もとっても感謝してるの。あの子、病気が発症したのは小学6年生の時だったの。一番遊び盛りでしょ?それなのに、そこから入院生活が始まってしまって、外で遊ぶこともできなくなって、治療の副作用で勉強や囲碁もできない時もあって、中学にもほとんど行けなかったわね。そこに重ねるように大好きだったお爺ちゃんまで亡くなっちゃって、大好きだった囲碁も全然できなくなってしまって……私たちはあの子に、大好きなものに熱中する時間も、同年代の友達を作る機会も、誰かと共に歩むはずだった未来も、何もあげることができなかった……そう思って私たちの方が沈み込んだこともあったの。
あの子は優しいから、そんなこと気にしないで、僕は今すっごい徳をためてるんだ、この病気が治ったらきっととっても良いことが起こるからって言って、逆にこっちを慰めたりしてくれて、気丈に振る舞ってたわ。それでも、時々寂しそうにするあの子を見てるとどうしようもなく辛くなって……何度もあの子に隠れて泣いてた。こんなに辛い思いをさせしまうのに産んで良かったんだろうか、こんな人生しか送らせてあげられなくてごめんなさいって。
でもね、高校生になってつばめちゃんと出会ってからは本当に毎日楽しそうで、再入院になっても病室であなたと一緒に笑うあの子を見て、あぁこの子を産んでも良かったんだ、この子も幸せな人生を送ることができるんだって思って。つばめちゃんとの出会いは、あの子だけじゃなくて私たち両親の気持ちも救ってくれたの。本当に感謝してもしきれないくらいなのよ。
もちろん、あの子もつばめちゃんのおかげで活き活きするようになって、あんなに楽しそうに将来の話をしてくれたのは病気になってから初めてだったかもしれない。本当はね……この1年すっごく苦しくて大変な治療が続いてたの。それでもあの子は、森野さんと一緒に練習するんだ、早く復帰しないと、負けてられないんだって言って、笑顔であなたの話をして、治療にも前向きに取り組んで……あの子がこんなに長生きできたのはあなたのおかげ。本当に出会ってくれてありがとう。あの子に幸せな人生を送らせてくれてありがとう。」
話し終えると同時に固く握られたその手は細く華奢ながらも、私の芯まで想いを届かせようとしているような、そんな力強さがあった。
私はただ自分がしたいようにしてきたつもりだった。だから、それが山石君たちにこんなにも大きな影響を与えてたなんて思いも寄らなかった。でも、私のしてきたことが山石君たちの役に立てていたんだと知ることができて、何か胸にこみ上げてくる熱いものがあった。
胸がいっぱいになってしまった私は言葉が思うように出てこず、ただお母さんの手を握り返しながら何度もうなずくことしかできなかった。
葬儀が終わった帰り道、みんな泣き終えてスッキリしたのか、この後どこかに寄って帰るかとか学校がどうとかいう話をしていた。若さゆえの残酷さというか無邪気な罪深さというか……その切り替えの早さについていけず、1人歩みを緩めてクラスメイトたちの群れから離れて歩いていた。
その時、会場の方から声を掛けられて振り返ってみると山石君のお母さんが追いかけてきていた。
「つばめちゃん、今日はありがとうね。いや、お礼を言わなきゃなのは今日だけじゃないわね。ずっとお見舞いにも来てくれて、最期まであの子についててくれて本当にありがとう。」
お母さんはしきりにお礼を言ってくれるけど、本当にお礼をしなきゃいけないのはこっちなのに、と思いながらも上手く返す言葉が見つからなかった。お母さんは目を腫らしていたけど、病院で会っていた時と変わらず強く前を向いて毅然とした姿だった。最愛の息子を失ってもまだ、母としての強さは健在だった。
「……本当にね、あなたには私も夫もとっても感謝してるの。あの子、病気が発症したのは小学6年生の時だったの。一番遊び盛りでしょ?それなのに、そこから入院生活が始まってしまって、外で遊ぶこともできなくなって、治療の副作用で勉強や囲碁もできない時もあって、中学にもほとんど行けなかったわね。そこに重ねるように大好きだったお爺ちゃんまで亡くなっちゃって、大好きだった囲碁も全然できなくなってしまって……私たちはあの子に、大好きなものに熱中する時間も、同年代の友達を作る機会も、誰かと共に歩むはずだった未来も、何もあげることができなかった……そう思って私たちの方が沈み込んだこともあったの。
あの子は優しいから、そんなこと気にしないで、僕は今すっごい徳をためてるんだ、この病気が治ったらきっととっても良いことが起こるからって言って、逆にこっちを慰めたりしてくれて、気丈に振る舞ってたわ。それでも、時々寂しそうにするあの子を見てるとどうしようもなく辛くなって……何度もあの子に隠れて泣いてた。こんなに辛い思いをさせしまうのに産んで良かったんだろうか、こんな人生しか送らせてあげられなくてごめんなさいって。
でもね、高校生になってつばめちゃんと出会ってからは本当に毎日楽しそうで、再入院になっても病室であなたと一緒に笑うあの子を見て、あぁこの子を産んでも良かったんだ、この子も幸せな人生を送ることができるんだって思って。つばめちゃんとの出会いは、あの子だけじゃなくて私たち両親の気持ちも救ってくれたの。本当に感謝してもしきれないくらいなのよ。
もちろん、あの子もつばめちゃんのおかげで活き活きするようになって、あんなに楽しそうに将来の話をしてくれたのは病気になってから初めてだったかもしれない。本当はね……この1年すっごく苦しくて大変な治療が続いてたの。それでもあの子は、森野さんと一緒に練習するんだ、早く復帰しないと、負けてられないんだって言って、笑顔であなたの話をして、治療にも前向きに取り組んで……あの子がこんなに長生きできたのはあなたのおかげ。本当に出会ってくれてありがとう。あの子に幸せな人生を送らせてくれてありがとう。」
話し終えると同時に固く握られたその手は細く華奢ながらも、私の芯まで想いを届かせようとしているような、そんな力強さがあった。
私はただ自分がしたいようにしてきたつもりだった。だから、それが山石君たちにこんなにも大きな影響を与えてたなんて思いも寄らなかった。でも、私のしてきたことが山石君たちの役に立てていたんだと知ることができて、何か胸にこみ上げてくる熱いものがあった。
胸がいっぱいになってしまった私は言葉が思うように出てこず、ただお母さんの手を握り返しながら何度もうなずくことしかできなかった。
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