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第39話 君とのデート当日⑦
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最後に寄ったのはユカリちゃんのお店だった。ユカリちゃんは小学5年生にして数々の絵画コンクールで受賞したことのある絵描きさんだ。
「つばめちゃんも陣君もいらっしゃい。絵しか置いてないけど、気に入ったのがあったら嬉しいな。」
ユカリちゃんは山石君とも面識があるみたいだった。だからこそお願いできたんだけど。
「山石君もお知り合いなんだね。」
2人が知り合いだったことを知らないふりして白々しく尋ねてみた。
「そうだね。最初は描いてる絵をのぞいたらあまりにも上手すぎて声出しちゃったことがきっかけだったかな。それから何回か絵について教えてもらったりしたんだ。」
山石君はこっちの内心を知るはずもなく、丁寧に出会いから教えてくれる。
「そうそう、陣君が大きな声出すからびっくりしちゃった。あっ、そういえば人物画のコーナーはあっちの方だから見てみてね。」
「へぇー、人の絵も描いてるんだね。ちょっと見てみようか。」
「そうだね。森野さんの絵もあるかもしれないよ。」
「そうだったらいいなー。あははー。」
内心ギクッとしながら、意外に鋭い山石君を人物画コーナーに連れて行く。そこには入院してる子どもたちの遊ぶ姿や笑顔の看護師さんなど、病院内にいる様々な人の絵が飾ってあった。そして、その中の1枚に私の絵が、というか、私と山石君が一緒に描かれている絵があった。私はグランドピアノを弾いており、山石君がその横で囲碁を打っている。
「森野さん、これって……」
「うん、お願いして描いてもらっちゃった。山石君との1番の思い出って、やっぱりあの音楽室での日々かなって。だから、その思い出を形に残したくて。ユカリちゃんも山石君のこと知ってるからって快く引き受けてくれたんだ。」
「ユカリちゃんも……」
気を利かせて離れて接客しているユカリちゃんを振り返り、山石君は感極まって目が潤んでいた。
「すっごくきれいだね……あぁ、今日は大切な思い出と宝物が増えすぎて、なんて幸せな1日なんだろう。これは僕が買うよ。いいかな?」
「もちろん!そうしてくれたらいいなぁって描いてもらったものだから。」
「幸いにして僕は、まだお財布に余裕があるからね。僕はね。」
「そんな僕はって強調しなくたっていいじゃん。どうせ私は計画性なく爆買いしましたよ。」
すねたふりをしていると山石君は笑いながら目をぬぐっていた。良かった、喜んでくれてるみたい。
ユカリちゃんのお店で絵を買うとちょうど2人とも一文無しになってしまったので、バザーを後にして最後の目的地に向かうことにした。
「次が最後だからね。そろそろショッピングにも疲れてお茶したくなってきたでしょ?」
「よく分かったね。通りすがりにカフェがあったら寄ろうかと思ってきょろきょろしてたところだったよ。」
「まーた適当言って。お茶するためにどこ向かってるか分かってるくせに。」
「そうだね。今日は天気が良いみたいだしね。」
軽口をたたきながら再び中庭に向かう。今度は中庭の端、いつもの東屋が目的地だ。
東屋に着くと看護師さんたちがスイーツと紅茶を用意して置いててくれていた。それと電子ピアノも。
「じゃあ、ここでちょっと休憩してお茶しながらおしゃべりしましょ。でも、その前にちょっと待っててね。」
山石君を東屋に残して急いで病棟に向かう。電子ピアノが置いてあることもあり、何の用意してくるのか山石君にも察しがついたようで特に何も聞かれなかった。
バタバタと準備して東屋に戻った時、山石君はこちらを振り返って絶句した。
「……どう、かな?本番でも着たやつなんだけど。」
「……あの、肩が出てるけど寒くない?」
よし、着替えてこよう。病棟に引き返そうとすると、慌てて山石君が引き止める。
「冗談だよ。とってもきれいすぎて、どうして本番見に行けなかったのかとか、一緒に買いに行く予定だったのにとか考えてたら、言葉を失ってしまったよ。うん。すっごいきれいだよ。」
「そうそう。初めからそう言えばいいのに。」
「素直になれない思春期なもので。」
「なにそれ。まぁいっか。じゃあ、BGM代わりに弾かせていただきます。」
「待ってました。」
「とりあえずコンクールの曲だけど、リクエストがあったら弾けたら弾くね。」
「何かあるかなぁ。」
今となっては何の支障もなく弾くことができるようになったピアノを、そのきっかけを与えてくれた張本人である山石君に久しぶりに披露する。聞いている山石君は車いすに体をゆだねて音に身を任せているようだった。最初こそ久しぶりで少し緊張したけど、こうして山石君の隣で弾くことができて、嬉しくなるのと同じくらい気持ちはゆったりと落ち着いていた。やっぱりこれが私の日常だったんだ。
「つばめちゃんも陣君もいらっしゃい。絵しか置いてないけど、気に入ったのがあったら嬉しいな。」
ユカリちゃんは山石君とも面識があるみたいだった。だからこそお願いできたんだけど。
「山石君もお知り合いなんだね。」
2人が知り合いだったことを知らないふりして白々しく尋ねてみた。
「そうだね。最初は描いてる絵をのぞいたらあまりにも上手すぎて声出しちゃったことがきっかけだったかな。それから何回か絵について教えてもらったりしたんだ。」
山石君はこっちの内心を知るはずもなく、丁寧に出会いから教えてくれる。
「そうそう、陣君が大きな声出すからびっくりしちゃった。あっ、そういえば人物画のコーナーはあっちの方だから見てみてね。」
「へぇー、人の絵も描いてるんだね。ちょっと見てみようか。」
「そうだね。森野さんの絵もあるかもしれないよ。」
「そうだったらいいなー。あははー。」
内心ギクッとしながら、意外に鋭い山石君を人物画コーナーに連れて行く。そこには入院してる子どもたちの遊ぶ姿や笑顔の看護師さんなど、病院内にいる様々な人の絵が飾ってあった。そして、その中の1枚に私の絵が、というか、私と山石君が一緒に描かれている絵があった。私はグランドピアノを弾いており、山石君がその横で囲碁を打っている。
「森野さん、これって……」
「うん、お願いして描いてもらっちゃった。山石君との1番の思い出って、やっぱりあの音楽室での日々かなって。だから、その思い出を形に残したくて。ユカリちゃんも山石君のこと知ってるからって快く引き受けてくれたんだ。」
「ユカリちゃんも……」
気を利かせて離れて接客しているユカリちゃんを振り返り、山石君は感極まって目が潤んでいた。
「すっごくきれいだね……あぁ、今日は大切な思い出と宝物が増えすぎて、なんて幸せな1日なんだろう。これは僕が買うよ。いいかな?」
「もちろん!そうしてくれたらいいなぁって描いてもらったものだから。」
「幸いにして僕は、まだお財布に余裕があるからね。僕はね。」
「そんな僕はって強調しなくたっていいじゃん。どうせ私は計画性なく爆買いしましたよ。」
すねたふりをしていると山石君は笑いながら目をぬぐっていた。良かった、喜んでくれてるみたい。
ユカリちゃんのお店で絵を買うとちょうど2人とも一文無しになってしまったので、バザーを後にして最後の目的地に向かうことにした。
「次が最後だからね。そろそろショッピングにも疲れてお茶したくなってきたでしょ?」
「よく分かったね。通りすがりにカフェがあったら寄ろうかと思ってきょろきょろしてたところだったよ。」
「まーた適当言って。お茶するためにどこ向かってるか分かってるくせに。」
「そうだね。今日は天気が良いみたいだしね。」
軽口をたたきながら再び中庭に向かう。今度は中庭の端、いつもの東屋が目的地だ。
東屋に着くと看護師さんたちがスイーツと紅茶を用意して置いててくれていた。それと電子ピアノも。
「じゃあ、ここでちょっと休憩してお茶しながらおしゃべりしましょ。でも、その前にちょっと待っててね。」
山石君を東屋に残して急いで病棟に向かう。電子ピアノが置いてあることもあり、何の用意してくるのか山石君にも察しがついたようで特に何も聞かれなかった。
バタバタと準備して東屋に戻った時、山石君はこちらを振り返って絶句した。
「……どう、かな?本番でも着たやつなんだけど。」
「……あの、肩が出てるけど寒くない?」
よし、着替えてこよう。病棟に引き返そうとすると、慌てて山石君が引き止める。
「冗談だよ。とってもきれいすぎて、どうして本番見に行けなかったのかとか、一緒に買いに行く予定だったのにとか考えてたら、言葉を失ってしまったよ。うん。すっごいきれいだよ。」
「そうそう。初めからそう言えばいいのに。」
「素直になれない思春期なもので。」
「なにそれ。まぁいっか。じゃあ、BGM代わりに弾かせていただきます。」
「待ってました。」
「とりあえずコンクールの曲だけど、リクエストがあったら弾けたら弾くね。」
「何かあるかなぁ。」
今となっては何の支障もなく弾くことができるようになったピアノを、そのきっかけを与えてくれた張本人である山石君に久しぶりに披露する。聞いている山石君は車いすに体をゆだねて音に身を任せているようだった。最初こそ久しぶりで少し緊張したけど、こうして山石君の隣で弾くことができて、嬉しくなるのと同じくらい気持ちはゆったりと落ち着いていた。やっぱりこれが私の日常だったんだ。
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