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第六章

本当の理由

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最後の視察地、カビニアでの商談を終えた一行は、クポラに戻ってきた。

ウィレムは、兄に手紙を書こうと机に向かっていたが、なんと書けばいいのか迷っていた。

エレノアの護衛というのは半分は方便で、本当はウィレムは兄とエレノアによりを戻して欲しくてポリニエールに乗り込んだのだ。
兄夫婦の間に何があったかなんてわからない。口を挟むことではないのもわかってる。
けれど、ロゼンタールの名が汚されるのは嫌だった。
ただでさえ、あらぬ噂を立てられているうえに、本当に離婚だなんてことになればひどい醜聞だ、そうなる前に、義姉の意思を探りに行くことにしたのだ。



ウィレムはフィデリタス騎士学校を卒業してすぐに、ロゼンタール領地のアラメールへと向かった。
戦争が落ち着いたため、他国との貿易が盛んなアラメールの治安に注力するため、叔父が率いるロゼンタール騎士団の多くが港町アラメールに駐在していたからだ。
風光明媚な港町アラメールは、別荘地としても人気が高い。
ウィレムの学友たちも、家業をついだり騎士団に入団する前の最後の自由なひと時を謳歌しようとアラメールの別荘地に集まって飲んで騒いだ。

その日も学友たちと街の店を借り切って飲んでいた。
「ウィレム、君の兄上殿が離婚するって本当か?」
かなり飲んで出来上がってきた頃に、一人の友人が唐突に聞いてきた。
「は?」
そんな話しは初耳だ。
「俺も聞いたぞ、王都ではロゼンタールに嫁げるなら後妻でも構わないって、令嬢たちが盛り上がってたぞ。」
もう一人の友人が言う。
「そんなバカな?兄上たちは仲良さそうだったぞ。」
ウィレムは一度だけ帰省したときの兄夫婦の様子を思い出す。
「そうか?それならいいけど」
はじめに尋ねてきた友人が答えたが、あまり信じてないようだった。
このやり取りが聞こえていたのだろう、隣のテーブルの学友が大声をあげた。
「しかーし、ポリニエール伯への中傷はひどすぎる!」
「俺も聞いたぞ、あれはもはや陰謀だ!」
「そうだ!ポリニエール伯は我が国の勝利の女神だぞ。女神に対する陰謀だ!」
酔っ払いたちが口々に叫ぶ。
フィデリタスでは、エレノア、レオン、そしてカイルは英雄だ。
「なんだよ。中傷って。」
ウィレムが同席の友に聞くと、友人たちは気まずそうに顔を見合わせるが、重たい口を開くように声を落として教えてくれた。

夫婦で碌に夜会にも参加しないし、一度もダンスをしたことがない。
ロゼンタール公爵はなぜか息子の嫁を視察に連れて行った。やはり愛人なのか‥。
レオンがエレノアを追いかけてポリニエールに行ったが、公爵とレオンは先に王都に戻った。爛れた関係が破綻したのか‥。
レオンとエレノアの離婚は間違いないだろう‥。

「よくもそんなことを!!」
ウィレムは怒りに震えて、勢いよく立ち上がった。
「落ち着けよ。」
「そうだ、俺たちは信じてないぞ。」
慌てて友人たちはウィレムを宥めるが、ウィレムは店を飛び出してしまった。

ウィレムはアラメールの屋敷に戻ると、叔父夫婦に尋ねた。父と義姉がアラメールに来たが、兄はいなかったと聞かされる。
ウィレムは翌朝、王都の屋敷に向かった。

ウィレムは兄の執務室へと乗り込んだ。
「兄上、なぜ義姉さんと一緒じゃないんですか?」
レオンは気怠そうに顔をあげてウィレムを見た。
「なんだ、急に。」

「兄上、知ってましたか?
社交界では兄上が義姉さんをポリニエールに置き去りにしたと噂されているんですよ。
ロゼンタールの名が貶められてるんです!
ご夫人方は兄上は義姉さんといやいや結婚したんだって、騒いでいるんですよ。このまま離婚なんてしたら、義姉さんはどうなるんだよ。この先ずっと貴族たちに見下されて本当に社交界に顔を出せなくなるよ」

ウィレムは一気に捲し立てるが、さすがにアラメールで聞いたひどい醜聞を口にすることは憚られた。
だが、兄があまりにも呑気に思えて、苛立ってしまったのだ。

「だれが離婚すると言ったんだ?」
若干の怒りを含んだ声色で、レオンが問う。
滅多にない兄の反応にウィレムは一瞬怯んだが、
「兄上は、わかってない。そういう人たちが義姉さんに何かするかもしれないだろ。兄上は義姉さんと別れたいの?」
「そんなことは一言も言ってないだろう!」
レオンが立ち上がる。
「兄上が何もしないなら、僕が義姉さんのところに行ってきます。いいですね。」
ウィレムはそう言って、本当にポリニエールに行ってしまった。


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