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第六章

手紙

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『‥兄上、義姉上は僕に対するのと変わらず、領民や使用人にも気さくで親切で、その人柄の良さは一日だけ王都屋敷で会った時と変わらず、本物だとわかったよ。
僕が口を出すことではないとわかっているけど、兄上はこのままで後悔しない?‥』

ウィレムは正直な気持ちを手紙にしたためた。

お節介と知りつつも筆をとった。
やり直したいなら、今が最後の機会かもしれないよ、兄上。


ウィレムがポリニエールに来た日、クポラ屋敷に向かう途中でエレノアを見つけた。
義姉と一緒にいる男性には見覚えがあった。

フィデリタス騎士学校で話題の三人の有名人、そのうちの一人カイル・マグライドが、義姉の幼なじみだったなんて!ウィレムは高揚した。

けれど、行動を共にするうちに二人がただの幼なじみではないことに気づいた。

二人の間には遠慮があるようだったが、カイルがエレノアに向ける眼差しはいつも心配するように優し気だった。
カイルはよくエレノアの名を呼んだ。
「エレノア‥」
呼びかける声は、聞いてるこちらが恥ずかしくなるほどに、甘く暖かく包み込むようだ。
まだ恋愛経験のないウィレムでも、カイルがエレノアを宝物のように大切にしていることが分かった。
そして、厩舎で二人を見たときに幼なじみ以上の関係だと確信した。

ウィレムはもともと、この結婚にあまり賛成していなかった。
戦争中、父はポリニエールに行ったきりで滅多に帰って来なかった。そのことで少なからず嫉妬の気持ちもあったし、兄が乗り気でないこともなんとなく気づいていたからだ。
けれど、帰省したときに会った兄夫婦は意外にもうまくいっているように見えた。ウィレムもエレノアの気取りのない気さくな人柄に、今まで抱いていた悪感情はなくなり、むしろ好印象を抱いた。

ずっと寮に入っていたから、じつはうまくいっていなかったのか、本当のところはわからない。兄がカイルとエレノアのことを知っているのかどうかも。
だが、先日の兄の様子では離婚したくないようだった。

だが、しかし‥ウィレムは、はーぁとため息をつく。
エレノアへの謂れのない中傷の発端は、兄なのだ。
結婚式での兄の行動はよくなかった。兄は自分の一挙手一投足が、周りにどれほど影響があるのかわかっていなかった。
もし義姉がカイルを選んだとしても、止められないか‥。



ポリニエールに来てから毎日、ウィレムはポリニエール騎士団の訓練にまぜてもらっていた。
その日も訓練を終えて汗を拭きながら、カイルと火照りが冷めるまで腰掛けて話しをしていた。

「カイルさん、そろそろロゼンタールに帰ることにします。」
ウィレムが切り出すと、カイルは少し戸惑ったようだったが、すぐにいつものように答えた。
「‥そうか、残念だな。」
「僕も残念です。ポリニエールは自然が豊かで居心地よくて、ずっと住みたいくらいです。」
「わかるよ、ここは土地も人も温かいしね。」
カイルは眩しそうに目を細めて笑った。そして、わずかな沈黙の後、口を開いた。
「なあ、ウィレム。もし急ぎの用がないならもう少し残れないかな?」
意外な頼みにウィレムは目を丸くしてカイルを見る。
「どうしてですか?」
「うん、しばらくアラゴンに戻らないといけないんだ。護衛にはジュリアンが残ってくれるんだろうけど、ウィレムもいてくれたらエレノアが寂しくないと思うんだ。」
「領地に帰るんですか?すぐポリニエールに戻るんですよね?」
「‥どうだろう。まだわからないんだ。」


一方、王都のロゼンタール屋敷では、レオンのもとに三通の手紙が届いた。

一通はウィレムから、
二通目は、エレノア
三通目は、カイルからだった。


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