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第五章

カビニアでの晩餐会

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プレイリー伯爵一行が帰る前の晩、カビニアの館では近隣の貴族も招いて内輪の夜会を催した。近隣の貴族とは、カビニアの近くの地域を治める領地管理人たちで、昔からポリニエールの各地域を治めている子爵、男爵たちだ。系図を辿れば親戚筋にあたる者がほとんどで、戦争中、若いエレノアを侮ることなく食糧補給に手を貸してくれた。

晩餐の席にはウィレムとカイルも同席するため、始まる前に皆に二人を紹介して回った。
「プレイリー伯爵、ご紹介が遅くなりましたが、義弟のウィレム・ロゼンタールと、アラゴン領のカイル・マグライドです。」
「ウィレムです。」
「カイルです。」
順に握手を交わす。
「どうりで、お二人ともただの護衛騎士には見えませんでしたよ。」
プレイリー伯爵は微笑む。
「隠すつもりはなかったのですが。」
ウィレムがはにかみながら言うと、
「いえいえ、気をつかってくださったんでしょう。」
伯爵は答えた。
「カイル殿はお母上によく似てらっしゃいますな。もしやと思っておりましたよ。」
「気づいてらしたんですか。それは、大変失礼いたしました。」
「いやいや、構わんよ。」
カイル自身はプレイリー伯爵とは会ったことがなかったが、領地が近いプレイリー家とマグライド家も、親世代は当然交流があったのだ。プレイリー伯爵は、エレノアとカイルの幼い頃からの仲を知っていたため、カイルの正体に薄々気づきながらも、敢えて触れなかったのだ。

「ところで、トリオ様はどちらへ?」
エレノアは一応トリオにも二人を紹介しようとしたが、見当たらない。
「息子は明日すぐに出立できるよう、準備をしに行くと言ってましたから、おそらく厩舎でしょう。」
「そうですか、では後ほどご挨拶いたしますね。」
カイルが答えると、ウィレムも頷いた。


トリオはその頃、カビニア館の庭にいた。屋敷の出入り口から門までの距離、使用人の宿舎、護衛の待機所、厩舎の場所など、その足で確認した屋敷の地図を頭にいれると、何食わぬ顔で晩餐に間に合うように戻った。

晩餐の席に護衛のはずの二人が、ポリニエール各地から来た諸侯よりも上座に座っている。
トリオは会話の中で、ウィレムとカイルの正体に気づいたが、知らされていなかったことに内心腹を立てた。高原でのことと言い、完全にエレノアに馬鹿にされていると勘違いしたのだ。
ただの騎士との火遊びかと思えば、アラゴンの次男だったとは、したたかな女だな。トリオは粘つくような視線をエレノアに向けた。

当のエレノアは、たしかにトリオを軽く見てはいたが、礼儀を欠いたとは思っていなかった。初対面で無礼であったのはトリオの方だし、晩餐ぎりぎりまで見つからず、ウィレムとカイルを紹介しそこなったのは、やむを得ないことだと思っていた。


晩餐が終わり、プレイルームでアルコール片手にプレイリー伯爵、トリオ、ウィレム、カイル、諸侯たちはまだ何やら話が弾んでいるようだ。
エレノアは盛り上がる男たちに気をきかせて、その場を離れた。

部屋に戻ったエレノアは、散歩でもしようかとドレスからワンピースに着替えてまた部屋をでた。
廊下にはついさっき送ってくれたジュリアンの姿が見当たらない。いつもエレノアの部屋の前に控えてくれいるのだが、明日のプレイリー伯爵の見送りの打ち合わせをしているのかもしれない。プレイリー伯爵一行が領地をでるまで、ポリニエールの騎士たちが護衛として送っていくことになっているのだ。

一人で庭を歩いていると、プレイリー家のメイドが声をかけてきた。
あるじが立つ前にぜひ馬を見てほしいと申しております。」
エレノアは、誰か付き添いできる者が近くにいないかあたりを見回した。メイドはエレノアの様子をみてすぐに察したようだ。
「騎士様には主がエレノア様を厩舎にお誘いしたと伝えてあります。」
と言った。
それを聞いて、自分の屋敷内だし、まあ大丈夫だろうとエレノアはそのままメイドについて行った。



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