20 / 48
第三章
旅のおわり
しおりを挟む
レオンがポリニエールに着いてから遅れること二日、エレノアと公爵がやって来た。
二ヶ月以上に渡る視察を終えて戻ってきたエレノアは、なんと、馬車ではなく馬に跨っていた。ドレスではなく乗馬服に身を包み、門を駆け抜けて出迎えのレオンや使用人の待つ屋敷の入り口で止まった。
「ただいま」
満面の笑顔でエレノアは言った。
エレノアが倒れてから、今までのことを思い出しては後悔し落ち込んでいたレオンは、呆気にとられた。
「先にいらしていたんですね」
レオンに向けてエレノアが声をかけた。
「君より先に来て迎えようと思って」
「まあ、ありがとうございます」
「すっかり体の調子はいいようだな」
「はい、おかげさまですっかり」
ニッコリとエレノアが笑う。レオンはなにかふい打ちを食らったような気がした。それはいつもの朝の作り笑顔ではなかったから。
「ロゼンタール領地は広いだけあって、場所によって気候も違うし食べ物も違って、とても楽しかったです。そうそう、わたし海を初めて見たんです!目の前が全部水で、湖よりもずっとずっと広大ですごく感動しました」
「そうか、それはよかった。続きは中に入ってから聞かせてくれるかい」
「やだ、わたしったらつい。そうね、入りましょう」
馬から降りるエレノアにレオンが手を貸していると、
公爵が馬に乗ってゆっくりやってきた。その後ろからアンナとケリーまでもが馬に乗ってきた。
「エレノア様、早すぎです」
「そうですよ、私たちはまだ駆けられないんですから」
護衛騎士たちに馬から降りるのを手伝ってもらうと、メイドの二人が口々に言う。
「ごめんごめん、屋敷が見えたら走りたくなっちゃって」
エレノアが笑う。
「アンナも、ケリーも馬なんて乗れたのか?」
レオンが目を丸くしている。
「エレノア様が教えてくださったんです」
答えたのはケリーだ。
「そうか、すごいな。驚いたよ」
教えるほど乗馬が得意とは、やはり知らないことだらけだな。
「二人とも筋がいいからすぐに上達するわよ。早く三人で遠乗りに行きたいわね」
レオンはこんなに楽しそうなエレノアを見るのは初めてだった。
夕食の時間だった。レオンはエレノアが不在の間にカイルが来たことを話した。
「君の具合が悪いことを聞いたらしくてね。お見舞いに来たと言っていたよ」
「そうですか。他には何か?」
エレノアはカイルがお見舞いではなく、何か報告に来たのではと不安になった。結婚のこととか‥。
「いや、君が視察に出てしばらく戻らないと言うとすぐに帰ったよ。ここに寄ることは伝えてあるから、もしかしたら来るかもしれないよ」
レオンはエレノアの表情を探りながら答える。
「カイルがここに?」
「ああ」
「そうですか」
それきりエレノアは黙ってしまった。
しまったとレオンは思った。喜ぶかと思ったが‥もしや寝込んだのはカイルが原因だったのか?あの日舞踏会にカイルも来ていたのだろうか。
レオンも黙り込んだ。
そんな二人を公爵も黙ってみていた。
その晩、レオンは父の部屋に呼ばれた。
「レオン、これからどうしたい」
どうしたいとは?エレノアのことか?
今さらなぜ?父は手放したくないのではなかったのか?
二ヶ月以上に渡る視察を終えて戻ってきたエレノアは、なんと、馬車ではなく馬に跨っていた。ドレスではなく乗馬服に身を包み、門を駆け抜けて出迎えのレオンや使用人の待つ屋敷の入り口で止まった。
「ただいま」
満面の笑顔でエレノアは言った。
エレノアが倒れてから、今までのことを思い出しては後悔し落ち込んでいたレオンは、呆気にとられた。
「先にいらしていたんですね」
レオンに向けてエレノアが声をかけた。
「君より先に来て迎えようと思って」
「まあ、ありがとうございます」
「すっかり体の調子はいいようだな」
「はい、おかげさまですっかり」
ニッコリとエレノアが笑う。レオンはなにかふい打ちを食らったような気がした。それはいつもの朝の作り笑顔ではなかったから。
「ロゼンタール領地は広いだけあって、場所によって気候も違うし食べ物も違って、とても楽しかったです。そうそう、わたし海を初めて見たんです!目の前が全部水で、湖よりもずっとずっと広大ですごく感動しました」
「そうか、それはよかった。続きは中に入ってから聞かせてくれるかい」
「やだ、わたしったらつい。そうね、入りましょう」
馬から降りるエレノアにレオンが手を貸していると、
公爵が馬に乗ってゆっくりやってきた。その後ろからアンナとケリーまでもが馬に乗ってきた。
「エレノア様、早すぎです」
「そうですよ、私たちはまだ駆けられないんですから」
護衛騎士たちに馬から降りるのを手伝ってもらうと、メイドの二人が口々に言う。
「ごめんごめん、屋敷が見えたら走りたくなっちゃって」
エレノアが笑う。
「アンナも、ケリーも馬なんて乗れたのか?」
レオンが目を丸くしている。
「エレノア様が教えてくださったんです」
答えたのはケリーだ。
「そうか、すごいな。驚いたよ」
教えるほど乗馬が得意とは、やはり知らないことだらけだな。
「二人とも筋がいいからすぐに上達するわよ。早く三人で遠乗りに行きたいわね」
レオンはこんなに楽しそうなエレノアを見るのは初めてだった。
夕食の時間だった。レオンはエレノアが不在の間にカイルが来たことを話した。
「君の具合が悪いことを聞いたらしくてね。お見舞いに来たと言っていたよ」
「そうですか。他には何か?」
エレノアはカイルがお見舞いではなく、何か報告に来たのではと不安になった。結婚のこととか‥。
「いや、君が視察に出てしばらく戻らないと言うとすぐに帰ったよ。ここに寄ることは伝えてあるから、もしかしたら来るかもしれないよ」
レオンはエレノアの表情を探りながら答える。
「カイルがここに?」
「ああ」
「そうですか」
それきりエレノアは黙ってしまった。
しまったとレオンは思った。喜ぶかと思ったが‥もしや寝込んだのはカイルが原因だったのか?あの日舞踏会にカイルも来ていたのだろうか。
レオンも黙り込んだ。
そんな二人を公爵も黙ってみていた。
その晩、レオンは父の部屋に呼ばれた。
「レオン、これからどうしたい」
どうしたいとは?エレノアのことか?
今さらなぜ?父は手放したくないのではなかったのか?
0
お気に入りに追加
84
あなたにおすすめの小説
それは報われない恋のはずだった
ララ
恋愛
異母妹に全てを奪われた。‥‥ついには命までもーー。どうせ死ぬのなら最期くらい好きにしたっていいでしょう?
私には大好きな人がいる。幼いころの初恋。決して叶うことのない無謀な恋。
それはわかっていたから恐れ多くもこの気持ちを誰にも話すことはなかった。けれど‥‥死ぬと分かった今ならばもう何も怖いものなんてないわ。
忘れてくれたってかまわない。身勝手でしょう。でも許してね。これが最初で最後だから。あなたにこれ以上迷惑をかけることはないわ。
「幼き頃からあなたのことが好きでした。私の初恋です。本当に‥‥本当に大好きでした。ありがとう。そして‥‥さよなら。」
主人公 カミラ・フォーテール
異母妹 リリア・フォーテール
拝啓、大切なあなたへ
茂栖 もす
恋愛
それはある日のこと、絶望の底にいたトゥラウム宛てに一通の手紙が届いた。
差出人はエリア。突然、別れを告げた恋人だった。
そこには、衝撃的な事実が書かれていて───
手紙を受け取った瞬間から、トゥラウムとエリアの終わってしまったはずの恋が再び動き始めた。
これは、一通の手紙から始まる物語。【再会】をテーマにした短編で、5話で完結です。
※以前、別PNで、小説家になろう様に投稿したものですが、今回、アルファポリス様用に加筆修正して投稿しています。
もう惚れたりしないから
夢川渡
恋愛
恋をしたリーナは仲の良かった幼馴染に嫌がらせをしたり、想い人へ罪を犯してしまう。
恋は盲目
気づいたときにはもう遅かった____
監獄の中で眠りにつき、この世を去ったリーナが次に目覚めた場所は
リーナが恋に落ちたその場面だった。
「もう貴方に惚れたりしない」から
本編完結済
番外編更新中
愛とは誠実であるべきもの~不誠実な夫は侍女と不倫しました~
hana
恋愛
城下町に広がる広大な領地を治める若き騎士、エドワードは、国王の命により辺境の守護を任されていた。彼には美しい妻ベルがいた。ベルは優美で高貴な心を持つ女性で、村人からも敬愛されていた。二人は、政略結婚にもかかわらず、互いを大切に想い穏やかな日々を送っていた。しかし、ロゼという新しい侍女を雇ったことをきっかけに、エドワードは次第にベルへの愛を疎かにし始める。
貴方の事を愛していました
ハルン
恋愛
幼い頃から側に居る少し年上の彼が大好きだった。
家の繋がりの為だとしても、婚約した時は部屋に戻ってから一人で泣いてしまう程に嬉しかった。
彼は、婚約者として私を大切にしてくれた。
毎週のお茶会も
誕生日以外のプレゼントも
成人してからのパーティーのエスコートも
私をとても大切にしてくれている。
ーーけれど。
大切だからといって、愛しているとは限らない。
いつからだろう。
彼の視線の先に、一人の綺麗な女性の姿がある事に気が付いたのは。
誠実な彼は、この家同士の婚約の意味をきちんと理解している。だから、その女性と二人きりになる事も噂になる様な事は絶対にしなかった。
このままいけば、数ヶ月後には私達は結婚する。
ーーけれど、本当にそれでいいの?
だから私は決めたのだ。
「貴方の事を愛してました」
貴方を忘れる事を。
明日のために、昨日にサヨナラ(goodbye,hello)
松丹子
恋愛
スパダリな父、優しい長兄、愛想のいい次兄、チャラい従兄に囲まれて、男に抱く理想が高くなってしまった女子高生、橘礼奈。
平凡な自分に見合うフツーな高校生活をエンジョイしようと…思っているはずなのに、幼い頃から抱いていた淡い想いを自覚せざるを得なくなり……
恋愛、家族愛、友情、部活に進路……
緩やかでほんのり甘い青春模様。
*関連作品は下記の通りです。単体でお読みいただけるようにしているつもりです(が、ひたすらキャラクターが多いのであまりオススメできません…)
★展開の都合上、礼奈の誕生日は親世代の作品と齟齬があります。一種のパラレルワールドとしてご了承いただければ幸いです。
*関連作品
『神崎くんは残念なイケメン』(香子視点)
『モテ男とデキ女の奥手な恋』(政人視点)
上記二作を読めばキャラクターは押さえられると思います。
(以降、時系列順『物狂ほしや色と情』、『期待ハズレな吉田さん、自由人な前田くん』、『さくやこの』、『爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい』、『色ハくれなゐ 情ハ愛』、『初恋旅行に出かけます』)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる