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第三章

旅のおわり

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レオンがポリニエールに着いてから遅れること二日、エレノアと公爵がやって来た。
二ヶ月以上に渡る視察を終えて戻ってきたエレノアは、なんと、馬車ではなく馬に跨っていた。ドレスではなく乗馬服に身を包み、門を駆け抜けて出迎えのレオンや使用人の待つ屋敷の入り口で止まった。
「ただいま」
満面の笑顔でエレノアは言った。
エレノアが倒れてから、今までのことを思い出しては後悔し落ち込んでいたレオンは、呆気にとられた。

「先にいらしていたんですね」
レオンに向けてエレノアが声をかけた。
「君より先に来て迎えようと思って」
「まあ、ありがとうございます」
「すっかり体の調子はいいようだな」
「はい、おかげさまですっかり」
ニッコリとエレノアが笑う。レオンはなにかふい打ちを食らったような気がした。それはいつもの朝の作り笑顔ではなかったから。

「ロゼンタール領地は広いだけあって、場所によって気候も違うし食べ物も違って、とても楽しかったです。そうそう、わたし海を初めて見たんです!目の前が全部水で、湖よりもずっとずっと広大ですごく感動しました」
「そうか、それはよかった。続きは中に入ってから聞かせてくれるかい」
「やだ、わたしったらつい。そうね、入りましょう」
馬から降りるエレノアにレオンが手を貸していると、
公爵が馬に乗ってゆっくりやってきた。その後ろからアンナとケリーまでもが馬に乗ってきた。
「エレノア様、早すぎです」
「そうですよ、私たちはまだ駆けられないんですから」
護衛騎士たちに馬から降りるのを手伝ってもらうと、メイドの二人が口々に言う。
「ごめんごめん、屋敷が見えたら走りたくなっちゃって」
エレノアが笑う。
「アンナも、ケリーも馬なんて乗れたのか?」
レオンが目を丸くしている。
「エレノア様が教えてくださったんです」
答えたのはケリーだ。
「そうか、すごいな。驚いたよ」
教えるほど乗馬が得意とは、やはり知らないことだらけだな。
「二人とも筋がいいからすぐに上達するわよ。早く三人で遠乗りに行きたいわね」
レオンはこんなに楽しそうなエレノアを見るのは初めてだった。


夕食の時間だった。レオンはエレノアが不在の間にカイルが来たことを話した。
「君の具合が悪いことを聞いたらしくてね。お見舞いに来たと言っていたよ」
「そうですか。他には何か?」
エレノアはカイルがお見舞いではなく、何か報告に来たのではと不安になった。結婚のこととか‥。
「いや、君が視察に出てしばらく戻らないと言うとすぐに帰ったよ。ここに寄ることは伝えてあるから、もしかしたら来るかもしれないよ」
レオンはエレノアの表情を探りながら答える。
「カイルがここに?」
「ああ」
「そうですか」
それきりエレノアは黙ってしまった。

しまったとレオンは思った。喜ぶかと思ったが‥もしや寝込んだのはカイルが原因だったのか?あの日舞踏会にカイルも来ていたのだろうか。
レオンも黙り込んだ。

そんな二人を公爵も黙ってみていた。


その晩、レオンは父の部屋に呼ばれた。
「レオン、これからどうしたい」
どうしたいとは?エレノアのことか?
今さらなぜ?父は手放したくないのではなかったのか?
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