8 / 48
第二章
ポリニエールとアラゴン
しおりを挟むエレノアはポリニエール領へとやって来た。隣接するアラゴン領の使者と会うためだ。
昔からポリニエールとアラゴンは、農産物と鉱物を取引きすることで、親密な関係を築いて共生してきた。
ポリニエール領は気候もよく広大な農地を抱えているため、多種多様な農産物がとれる。
一方で隣のアラゴン領は、険しい山が多く鉱物資源が豊富だが、平地が少なく穀物が不足しがちだった。
アラゴン領を治めるのは、マグライド辺境伯だ。
アラゴンに近いクボラの街は、ポリニエール領で一番栄えていたため、アラゴンの領主は二人の息子を連れてよくクポラの街にやって来た。
ポリニエール家の屋敷もクポラにあったため、エレノアと兄、マグライドの息子たちは、四人でよく遊んだ。そのうち馬に乗れるようになると、子どもたちは気ままに行き来するようになったのだった。
エレノアは応接室でアラゴンの使者が来るのを待っていた。すると入り口が騒がしくなり執事が息を切らせ飛び込んできた。
「エレノア様!カイル様が!カイル様が戻ってきました」
まさに青天の霹靂だった。
ゆっくりと姿をあらわしたその人は、間違いなくエレノアがずっと探し続けていた、カイル・マグライドその人だった。
カイルはマグライト家の次男だ。
三年前カイルが戦場に行くことになったと聞いて、エレノアはアラゴンを訪れた。
百合の咲く丘の上でカイルと将来を誓いあった。そっとくちびるを重ね、見つめ合ったカイルの瞳が忘れられない。必ずまた戻ってきてねとカイルを送り出した。
それからしばらくして、補給部隊と共に前線に向かった兄が命をおとした。さらに追い討ちをかけるようにカイルが行方不明になったという知らせが届いたのだった。
その後のことはぼんやりとしか思い出せない。
ただひたすらに兄の仕事を引きつぎ、食糧調達に奔走し補給路を開いた。カイルを探すために。カイルの情報を得るために。
それでもカイルを見つけるどころか何の情報も得ることができなかった。
そのカイルが目の前にいる。
「カイル!カイル!」
エレノアは駆け寄り抱きついた。
いや、抱きつこうとしたが‥カイルに両肩をつかまれ止められた。
カイル?どうして。
一体どれほどの思いでカイルの帰還を待っていたことか、溢れる思いをぶつけるはずが、肩透かしをくらい消化できない。
カイルは宥めるようにエレノアの肩をポンポンとしながら言った。
「エレノア、会いたかったよ」
ああ、カイルの声だ!また涙がこみあげてくる。
が、次の一言で涙が引っ込んだ。
「結婚したんだって?おめでとう」
0
お気に入りに追加
84
あなたにおすすめの小説
それは報われない恋のはずだった
ララ
恋愛
異母妹に全てを奪われた。‥‥ついには命までもーー。どうせ死ぬのなら最期くらい好きにしたっていいでしょう?
私には大好きな人がいる。幼いころの初恋。決して叶うことのない無謀な恋。
それはわかっていたから恐れ多くもこの気持ちを誰にも話すことはなかった。けれど‥‥死ぬと分かった今ならばもう何も怖いものなんてないわ。
忘れてくれたってかまわない。身勝手でしょう。でも許してね。これが最初で最後だから。あなたにこれ以上迷惑をかけることはないわ。
「幼き頃からあなたのことが好きでした。私の初恋です。本当に‥‥本当に大好きでした。ありがとう。そして‥‥さよなら。」
主人公 カミラ・フォーテール
異母妹 リリア・フォーテール
拝啓、大切なあなたへ
茂栖 もす
恋愛
それはある日のこと、絶望の底にいたトゥラウム宛てに一通の手紙が届いた。
差出人はエリア。突然、別れを告げた恋人だった。
そこには、衝撃的な事実が書かれていて───
手紙を受け取った瞬間から、トゥラウムとエリアの終わってしまったはずの恋が再び動き始めた。
これは、一通の手紙から始まる物語。【再会】をテーマにした短編で、5話で完結です。
※以前、別PNで、小説家になろう様に投稿したものですが、今回、アルファポリス様用に加筆修正して投稿しています。
もう惚れたりしないから
夢川渡
恋愛
恋をしたリーナは仲の良かった幼馴染に嫌がらせをしたり、想い人へ罪を犯してしまう。
恋は盲目
気づいたときにはもう遅かった____
監獄の中で眠りにつき、この世を去ったリーナが次に目覚めた場所は
リーナが恋に落ちたその場面だった。
「もう貴方に惚れたりしない」から
本編完結済
番外編更新中
愛とは誠実であるべきもの~不誠実な夫は侍女と不倫しました~
hana
恋愛
城下町に広がる広大な領地を治める若き騎士、エドワードは、国王の命により辺境の守護を任されていた。彼には美しい妻ベルがいた。ベルは優美で高貴な心を持つ女性で、村人からも敬愛されていた。二人は、政略結婚にもかかわらず、互いを大切に想い穏やかな日々を送っていた。しかし、ロゼという新しい侍女を雇ったことをきっかけに、エドワードは次第にベルへの愛を疎かにし始める。
貴方の事を愛していました
ハルン
恋愛
幼い頃から側に居る少し年上の彼が大好きだった。
家の繋がりの為だとしても、婚約した時は部屋に戻ってから一人で泣いてしまう程に嬉しかった。
彼は、婚約者として私を大切にしてくれた。
毎週のお茶会も
誕生日以外のプレゼントも
成人してからのパーティーのエスコートも
私をとても大切にしてくれている。
ーーけれど。
大切だからといって、愛しているとは限らない。
いつからだろう。
彼の視線の先に、一人の綺麗な女性の姿がある事に気が付いたのは。
誠実な彼は、この家同士の婚約の意味をきちんと理解している。だから、その女性と二人きりになる事も噂になる様な事は絶対にしなかった。
このままいけば、数ヶ月後には私達は結婚する。
ーーけれど、本当にそれでいいの?
だから私は決めたのだ。
「貴方の事を愛してました」
貴方を忘れる事を。
明日のために、昨日にサヨナラ(goodbye,hello)
松丹子
恋愛
スパダリな父、優しい長兄、愛想のいい次兄、チャラい従兄に囲まれて、男に抱く理想が高くなってしまった女子高生、橘礼奈。
平凡な自分に見合うフツーな高校生活をエンジョイしようと…思っているはずなのに、幼い頃から抱いていた淡い想いを自覚せざるを得なくなり……
恋愛、家族愛、友情、部活に進路……
緩やかでほんのり甘い青春模様。
*関連作品は下記の通りです。単体でお読みいただけるようにしているつもりです(が、ひたすらキャラクターが多いのであまりオススメできません…)
★展開の都合上、礼奈の誕生日は親世代の作品と齟齬があります。一種のパラレルワールドとしてご了承いただければ幸いです。
*関連作品
『神崎くんは残念なイケメン』(香子視点)
『モテ男とデキ女の奥手な恋』(政人視点)
上記二作を読めばキャラクターは押さえられると思います。
(以降、時系列順『物狂ほしや色と情』、『期待ハズレな吉田さん、自由人な前田くん』、『さくやこの』、『爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい』、『色ハくれなゐ 情ハ愛』、『初恋旅行に出かけます』)
【完結】巻き戻りを望みましたが、それでもあなたは遠い人
白雨 音
恋愛
14歳のリリアーヌは、淡い恋をしていた。相手は家同士付き合いのある、幼馴染みのレーニエ。
だが、その年、彼はリリアーヌを庇い酷い傷を負ってしまった。その所為で、二人の運命は狂い始める。
罪悪感に苛まれるリリアーヌは、時が戻れば良いと切に願うのだった。
そして、それは現実になったのだが…短編、全6話。
切ないですが、最後はハッピーエンドです☆《完結しました》
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる