上 下
38 / 64

37.知能レベルが同じくらい

しおりを挟む
「お嬢ちゃんには懐いてるみたいだな」
「知能レベルが同じくらいだからでしょうか」
「……変わったお嬢ちゃんだな」

 フェイの言葉に、咄嗟に言い訳を捻り出した。
 ……結果としてより訝しまれている気がする。
 子どもサイドから言うようなことではなかったかもしれない。

「定期訪問にしては早いんじゃない」
「いやぁ。実は大魔導士様にお会いしたいって方が来てまして。ついでに毎月のを済ませておこうって魂胆ですよ」
「は?」

 ノアが怪訝そうな声を出す。
 フェイがダイニングの入り口を振り返ると、おそるおそるといった様子で、一人の女性がこちらを覗き込んでいるのが視界に入った。
 年齢はノアよりいくらか若い程度の、亜麻色の長い髪をした、いいところのお嬢さんを思わせる服装をした女性だ。

 ノアの知り合いかと思って彼の表情を伺うも、眉間に皺を寄せて首を捻っている。
 どうも知らない人のようだ。

「だ、大魔導士様! 先日はありがとうございました!」

 一歩こちらに歩み出てきた女性が、淑女の礼をする。

 ノアがまるで「君の知り合い?」とでも聞きたげに私に視線を送った。
 私も見覚えはない……と思ったけれど、いや待て。確かあの時、森で出会ったお嬢さんのうちの一人が、こんな感じの髪の色と長さだった、ような。

「……誰?」

 私がはっきりと思い出せずにいると、ノアが一足先に口から疑問を出してしまう。
 まずい、本当に会ったことのあるお嬢さんだったなら、こんなことを言ったらノアの株が下がってしまう。

「自分が送ってやった女の顔も覚えてないとは、モテる男は違いますねぇ」

 フェイがまたくつくつと押し殺したように笑う。ノアはあからさまに眉根を寄せてフェイを睨んだ。

 ノアの「先生以外には興味ない」という言葉が脳裏をよぎる。
 お嬢さんの評価が上がろうが下がろうが彼はどうでもいいのかもしれないけれど、それでは社会生活はやっていかれないのでもう少し人に興味を持ってほしい。
 前世の私が社会生活をきちんとやれていたかからは目を逸らしながらそう思った。

 そっけないノアの態度にわずかにたじろいだものの、お嬢さんは負けずに話を続ける。

「あの。お礼と言うにはささやかですが、今度我が家で開催するパーティーにお越しいただきたいのです」
「僕、謹慎中だから」

 ノアがつんとそっぽを向いた。
 しまった。椅子にさえ座っていなければ、膝の裏を蹴って「もっとちゃんとしてください」と言ってやるのに。

「ヴォルテール家の皆様にもおいでいただけるとのことで」
「は?」
「ご家族ご一緒ならと許可をいただきましたわ」

 お嬢さんがきゅっと拳を握りしめて言う。ノアがぱちくりと目を見開いた。

 ヴォルテールはノアの姓だったはず。ということは、ノアの家族が来るのか。
 結婚式ではまともに挨拶をする機会もなかった。私の……アイシャの家の方が身分が高かったからだろうか。

 ノアの父は家庭教師時代の元雇用主である。前世では何回か顔を合わせたけれど……母親の方は前世でもほとんど面識がなかった。
 ぽかんとしているノアと、意気込んで彼に詰め寄るお嬢さんの顔を見回して、背後に回ってきたフェイが私の両肩にぽんと手を置いた。

「まぁ、それじゃああとは若いお二人で、ってことで」
「え、」
「俺はちょーっと、こっちのお嬢ちゃんに話があるから」
「は? ちょっと、待っ」

 私に椅子を立つように促したフェイは、ノアの制止も聞かずに私を連れてリビングへと歩き始める。
 ちらりと振り返ると、ノアが困惑した目で私とフェイ、そしてお嬢さんを忙しなく見比べておろおろしていた。

 かわいそうに、と思いながらも、私もフェイに促されるままについていく。
 女の人に少しは興味を持ってもらわなくては。興味がないとか言っている場合ではないのである。
 ちょっとくらい二人きりにしてやった方がいいだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

女嫌いな辺境伯と歴史狂いの子爵令嬢の、どうしようもなくマイペースな婚姻

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「友好と借金の形に、辺境伯家に嫁いでくれ」  行き遅れの私・マリーリーフに、突然婚約話が持ち上がった。  相手は女嫌いに社交嫌いな若き辺境伯。子爵令嬢の私にはまたとない好条件ではあるけど、相手の人柄が心配……と普通は思うでしょう。  でも私はそんな事より、嫁げば他に時間を取られて大好きな歴史研究に没頭できない事の方が問題!  それでも互いの領地の友好と借金の形として仕方がなく嫁いだ先で、「家の事には何も手出し・口出しするな」と言われて……。  え、「何もしなくていい」?!  じゃあ私、今まで通り、歴史研究してていいの?!    こうして始まる結婚(ただの同居)生活が、普通なわけはなく……?  どうやらプライベートな時間はずっと剣を振っていたい旦那様と、ずっと歴史に浸っていたい私。  二人が歩み寄る日は、来るのか。  得意分野が文と武でかけ離れている二人だけど、マイペース過ぎるところは、どこか似ている?  意外とお似合いなのかもしれません。笑

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

優しい愛に包まれて~イケメンとの同居生活はドキドキの連続です~

けいこ
恋愛
人生に疲れ、自暴自棄になり、私はいろんなことから逃げていた。 してはいけないことをしてしまった自分を恥ながらも、この関係を断ち切れないままでいた。 そんな私に、ひょんなことから同居生活を始めた個性的なイケメン男子達が、それぞれに甘く優しく、大人の女の恋心をくすぐるような言葉をかけてくる… ピアノが得意で大企業の御曹司、山崎祥太君、24歳。 有名大学に通い医師を目指してる、神田文都君、23歳。 美大生で画家志望の、望月颯君、21歳。 真っ直ぐで素直なみんなとの関わりの中で、ひどく冷め切った心が、ゆっくり溶けていくのがわかった。 家族、同居の女子達ともいろいろあって、大きく揺れ動く気持ちに戸惑いを隠せない。 こんな私でもやり直せるの? 幸せを願っても…いいの? 動き出す私の未来には、いったい何が待ち受けているの?

処理中です...