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13・朝帰り
しおりを挟む結局明け方まで飲んでしまっていた。
幸いにも、騎士サマ方の中にはこうなる事を予測して殆ど素面のままの人が居たけど、酔っぱらった騎士サマ方を宿舎まで運ぶのが大変だった。
カニスとバルバルスにユゥバ達は知らん。店も閉めるからと追い出されたから、その辺に転がってるんじゃないかな。
周りの人も「またか」って顔を顰めるか、生暖かい目になるだけだろうし。
ここら辺の治安は比較的良いので、追剥なんかの心配はしていない。
この辺りで顔の知らない連中が近付けば街の人に警戒されるし、後で報告も受けるので最近は無いみたいだし。
まあ、スろうにも奴らの懐はほぼ空だって連中も知ってるんだろう。それくらい毎回の事なのだ。
「たっだいまー!」
対して懐が温かくなった私は、酒が抜けきっていない事もあってルンルン気分で帰宅した。
家のしきたりで、靴は扉付近で脱ぐ事になっているからブーツを脱ごうと視線を落とした先に靴を見付けて首を傾げた。
珍しく母さんが帰宅している様だ。いつもなら、まだ例の恋人とよろしくしている時間の筈だ。
そのまま帰宅しない事もあるくらいだったのに、何かあったんだろうかとリビングに向かう。
「母さん?ただい、」
「ノエちゃあん!」
「おっと」
リビングに続く扉を開けた瞬間、母さんが突進する様に抱き着いてきたので、右足を下げ、何とか踏ん張って耐えた。
「ノエちゃん、ノエちゃん」と私の名前を連呼して泣きじゃくる母の様子から、ピンと来た。
「……“ノエちゃん”呼びは止めてよ。今は“アウダークス”なんだからさ」
「ノエちゃんは“ノエちゃん”だもの!現代読みの“アウダークス”なんて可愛くないから嫌よ!」
本来の呼び名である“ノエズ”は中性っぽいから、少しでも男っぽく見えるようにしたかったんだから仕方ないじゃん。
本来の性別としてはガタイも良く背も高い方だけど、男としては華奢な方だし背も低く、声が高いからバレない様にって努力してるんだけど、母さんには関係ないらしい。
「……ところで、どうしたの母さん。そんなに泣いてたら可愛い顔が台無しだよ?」
「ダーリンったら『故郷に帰る』って言うから『じゃあ、準備しないとね』って言ったら『故郷には残してきた許嫁が居るからお前とはここまでだ』なんて言うのよ!前は『お前も着いて来てくれ』って言ってたのに!やっぱり私の歳がバレたのが不味かったのかしら。だって、その後から何だか様子がおかしかったもの!『年齢なんて些細な事だ』って言ってたのは嘘だったの!?」
「うわーん!」って泣きながら捲くし立てられたから詳細は分からないけど、歳がバレたのが切っ掛けで別れ話になった、のかな?
今回はこのパターンか、と溜息をかみ殺す。
今回は年齢の事だったけれど、前回は複又野郎の直接の浮気、前々回は暴力を振るう男だったので牢にぶち込んでやった。更にその前は詐欺師だったし、その更にその前は穀潰しのヒモだった。更にその前の前は、何だったっけ?順番は覚えてないけど、どうしようもないマザコンとか、ナルシストに借金塗れの奴だとかその他色々。
「今回は相手の見る目が無かったんだよ。歳は離れてても、見た目も中身もこんなに可愛い母さんを振るなんてさ」
そう言えば、私と言う大きいコブが着いているってバレて別れた時もあったっけ。
本人に聞いた事があるけど、年齢は私と近い事の方が多いから、どうしても気になってしまうらしい。
「今度こそ“運命の人”だと思ったのにい!」
「“視えない”からこそ“運命”だって言うの、いい加減に諦めなよ。“視えて”相性の良い人を選びなよ」
「嫌よう!“視えて”いたらワクワクもドキドキも半減するじゃない!」
このやり取りも何度繰り返しただろうか。プクウと頬を膨らませる母に、今度は溜息を殺さなかった。
「そのドキドキを追い求めたせいで、ひいお祖母様もお祖母様も苦労なさったんでしょうが」
「恋に苦労は付き物よ。貴女にもいつか分かる日が来るわよノエちゃん」
いや、確かにその側面もあると思うけど、母さん達の様な苦労は流石に分かりたくないな。
詳しくは聞いていないけれど、ダメ男に恋をしたせいで故郷を追い出され、殆ど身一つだけでここまで旅をしてきたというひいお祖母様。
流れの魔女はインチキも多いから、中々に大変だったらしい。実力はあるので徐々に信頼を集めていったらしいけど。
そんな生活もままならない中でも恋をするタフさは尊敬するけど、マネはしたくないかな。
「……まあ、私に迷惑が掛からない程度なら好きにすれば良いと思うよ」
「分かってるわよう。子供に迷惑を掛けるなんて最低だもの」
うん、泣き着かれて現在進行形で若干迷惑してるけど、それは良いんだね。まあ、これ位なら別にいけどさ。
何を何度言っても効果が無いので最近は諦め気味だ。
最悪、生活費だけは私の給料で十分だし、借金男や詐欺男にさえ引っ掛からなければ後は対処出来るし。
それに、母さんには悪いけど、最近ではアウダークスの母親って事が結構浸透してるらしいから、地元の奴らが母さんに手を出す事は無いんじゃないかな?
あるとすれば余所者か、アウダークスに悪意を持っている人間位だから分かりやすいし、対処しやすいし。
これでこの話は終わりだと、母さんが体を離したのでソファーに座る。
「そう言えば、ノエちゃんが朝帰りなんて久しぶりね」
「ああ、うん。今日、派遣されて来た騎士達の歓迎会して来たからさ」
と、そこで思い出す。母さんも彼と会った事があったなって。
「そう言えば、その中に懐かしい人が居たんだよね。母さんは覚えてるかな。小さい頃一緒に遊んでた金髪の、女の子みたいな年上の子」
「ノエちゃんがいつもイジメてた?」
「……イジメてないよ?一緒に遊んでただけだし、ちょっと涙腺が弱すぎただけだし」
一緒に遊んでいたのは覚えているけど、何年も前の事なのでちょっと記憶が曖昧だ。
顔付も随分と変わっていたから一瞬では分からなかったけれど、根本的な人相と纏うオーラが同じだったし、名前を聞いて確信したんだよね。
初めて見た時は女の子だとばかり思っていたけど、“エクエス”という名前を聞いて驚いたのを覚えている。
“エクエス”は騎士という意味を持つ単語だ。そんなものを女の子に付ける親は居ない。
その時、性別を間違われていると分かった彼は盛大に泣いたっけ。と、思い出した所で欠伸が出た。
懐かしい思い出を母さんと共有して楽しみたいのは山々だけど、流石にそろそろ眠たくなってきた。
丸一日休みにしたい所だけど、一日徹夜した程度とか二日酔い位で休みには出来ないのが勤め人の辛い所だ。
でも、少なくとも午前中は起きられない連中が多いだろうからと、午後から隊舎前に集まってもらう事にした。
だけど、私は朝一で隊舎に出勤して予定変更をした旨の書類提出とか、カエシウスが脱走した分の始末書の仕上げをしなくちゃいけない。
二時間くらい仮眠して、出勤して、また仮眠出来るかな?
今日の予定を考えながらまた欠伸をしつつ、母さんにお休みを告げて寝室に向かった。
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