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5・情けない騎士達

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 はてさて、愚か者は一体どいつだ?
 商隊の物と思わしき馬車を抜き去りながら濃口を切る。勿論、する違い様にグリーンウルフを切るのも忘れない。
 乱入者にも慌てず怯えず、獲物と捉えたのか襲い掛かってくるグリーンウルフを一匹、また一匹と切り伏せて行く。

「何者だ!?」
「味方か?」
「新たな魔物だ!」

 おいおい、誰が魔物だって?まあ、カエシウスは魔物だけど。
 私が現れた事で、動揺し連携が少し乱れている。
 こんな事位で連係が乱れている様じゃ、この先やって行けるのかな。
 錬度不足に不安を抱きながらも口を開いた。

「私はリーブラ遊撃部隊、部隊長アウダークスだ。先んじて救援に参った!もうすぐ他の者も後から駆け付ける!それまで持ち堪えよ!」

 そう告げれば、救援が来ると聞いて体の力が抜ける者がチラホラと目についた。
 もうすぐって言っても、今来た訳ではないし、来ていたとしても緊張は緩めるべきではない。
 まあ、今回はグリーンウルフだから、相当なヘマをしない限りは命までは取られないだろう。
 それよりもさて、私の獲物は、と。
 目を走らせなくとも、ソレは直ぐに見付かった。
──報告にあったよりも、大きいんじゃないか?
 黄緑色のグリーンウルフよりも濃い緑色をしているソレは、報告にあったよりも、更に一回りか二周り大きい気がする。
 これは、それなりの歳月を経ているに違いない。
 でも、そういう経験が多い奴はこんな街道には現れないんだけど。
 まあ、その事は後で考える事にしよう。今は倒す方が先決だ。

「カエシウス!」
「ガウッ!」

 カエシウスが地面を一際強く蹴って跳び上がる。
 そうして、双首ウルフに群がっている騎士団の連中を飛び越え、双首ウルフの頭上に躍り出る。

「私はリーブラ遊撃隊の者だ!怪我をしたくなくば下がっていろ!」

 省略して名乗り、双首ウルフが飛ばしてきた風を、こっちもカエシウスに起こさせた風をぶつけて相殺させる。

「魔物!?」

 同じ様な反応に内心で辟易しつつ、意識は常に双首ウルフへと向けていた。
 さっき放ってきた風の威力からして、やっぱり平均的な双首ウルフよりも少しばかり能力は上だと見た方が良いだろう。
 けど、その程度なら問題はない。まあ、他に特殊能力を持っているなら別だけど。
 騎士団の連中が生き残ってるなら、それは無さそうだし。

「カエシウス!サクッと終わらせるぞ!」
「ガウッ!」

 様子を見る為に相殺させていた風の威力を上げ、完全に圧しきり双首ウルフまで到達させる。
 同じ属性同士だからやはり殆ど威力を削がれてしまったけれど、今までやり負けた事が無いのか、双首ウルフがかなり動揺しているのが見てとれた。
 様々な想定をしていない奴は大抵同じ様な反応をする。

「総員退避!巻き込まれるぞ!」

 へえ、気付いた奴が居るんだと感心した。
 動揺を見逃さず大技をブチ込もうとしているのに気付いたらしい誰かが、声を張り上げたのが聞こえて口笛を吹きそうになる。
 まあ、完全に巻き込まれない様にするには少し遅かったけどね。
 かと言って、待つなんてしないけどさ。

 カエシウスに風を起こさせて、双首ウルフを空中に舞上がらせる。
 その風圧で何人かが吹き飛んだらしく、悲鳴が聞こえた気がするけど、死にはしないだろうからきにしない。
 双首ウルフを空中に飛ばしたのは、首もとを狙いやすくする為だ。
 空中なら流石の双首ウルフも素早くは動けないからね。
 自分の意図で浮き上がった訳じゃないからか、双首ウルフの動きはぎこちない。
 そこを、カエシウスに飛び上がらせて近付き、喉元を一閃。
 跳ねる血飛沫を、風の幕で降りかかるのを防ぎ地面へと降り立った。
 一先ず、一番の脅威は倒したので、後はチマチマと雑魚狩りだ。
 騎士団の連中の指示はどうしようかなと、奴等の司令官(ボス)を探そうとカエシウスから降りた時だ。


「ア゛ア゛!もう終わってやがる!」

 聞き覚えのある粗野な声に振り向いた。
 そこに居たのは、私と殆ど同じ制服を身に纏っている空色の髪をした男だった。

「何で一番美味そうな獲物、ヤッちまってんですか隊長サマよう」
「それは、お前が来るのが遅いのが悪いからだ。早い者勝ちという言葉を知らないのか、バルバルス?」

 開口一番がそれって、どうなんだろうか。まず先に謝罪するべきだろ。

「ア゛ーそれもそうか。確かに隊長サマの言う通りだわ」

 ガリガリと頭を掻きながらバルバルスは溜め息を吐く。
 いや、溜め息を吐きたいのはこっちの方だから。
 こいつ、戦闘の気配を嗅ぎ付けてノコノコとどこからか現れたらしい。
 どうしてくれようかと、口を開きかけた。

「あーバルバルじゃん!何でそこに居るのさ!」

 ──あ、五月蝿いのが来た。
 別々だったバルバルスと私の心が一つになった瞬間だった。
 バルバルスは兎も角、私は着いて来いと言った側なので来る事は知っていたけれど、どうも反射的に身構えてしまう。

「バルバルじゃねえ。バルバルスだ。ウゼーのが来たな」
「ウザくないですー。オレは忠実なるたいちょーの下僕イヌなんですー。番犬にすらなれないチンピラ風情がたいちょ―の隣そこにいるんじゃねえよ!」

 本題はそっちか。知ってた。
 部下の忠誠心がちょっと重すぎて、若干遠い目になるのは仕方なくないかな。

「お二人とも、今は喧嘩をなさっている場合ではありませんよ」

 双首ウルフボスが倒された事で隊は乱れているモノの、逃げる事無く襲い掛かろうとしていたグリーンウルフの一匹を矢で仕留めながらグラヴィが駆け寄って来る。

「バルバルスさん、良いんですか?折角来られたのに、これでは一匹も仕留められないまま、全て隊長に獲られてしまいますよ」
「お、そいつは確かにオモシロくねーな」

 バルバルスは視線をカニスからリーンウルフの群れへと向けた。

「カニスさんも。お仕事をきちんとやらないと隊長に怒られてしまいますよ?」
「それはやだなー。たいちょー怒ったらメッチャ怖いんだもん」
「大丈夫です。お仕事をきちんとこなせば、隊長はきっと褒めてくださいますよ」
「ホントに!?ならオレ張り切っちゃうよ!」

 グラヴィ、ナイス!と思ったけど最後の一言は余計だったわ。
 最近、ちょっと図太くなったんじゃないか?まあ、良い傾向ではあるけど、今発揮しなくても良くないか?
 チラチラとこっちを見て来るカニスに溜息を吐き、払うように手を振った。

「あー、うん。褒めてやるからさっさと行ってこい。バルバルスより倒した数が少なかったら無しだからな」
「やり!約束ですよ!」

 途端に駆けて行くカニスの背中を見送り刀を鞘に納めながら、こちらに近付いて来ている別の人物の気配の方へと振り向いた。



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